人並みに
都会にある高層ビルの一室で悪魔を召喚した男は、出てきた悪魔に対してこう言った。
「人並みに幸せが欲しいんだ」
そして自分がいかに周りの人たちに比べて不幸なのかを聞かれてもいないのかをクドクドと話し始めた。
呼び出された悪魔はそんな男の自分語りの隙間を見つけると口を挟む。
「本当にそんな願いでいいんですか?」
「ああ。こんなに不幸なのだから、人並みの幸せでも十分さ」
気取った言い方をする男の様子を見て撤回する気はなさそうだと判断した悪魔はそれじゃあと彼の願いを叶えた。
それから数年が経ち、悪魔は再びあの男に呼び出される。以前と比べて明らかに質の落ちた部屋の中で男は悪魔に対して大いに文句を言う。
「前よりも不幸になっている! なぜだ! 人並みの生活をさせてくれよ!」
「お言葉ですがね、人並みの生活をしてる奴は高層ビルの上層階に部屋なんて持ってないんですよ」