【第1話】11:45の無音世界
ピアニストの暁は、交通事故で「大切な人の最後の言葉」を聞き逃した後、異世界に転生する。
そこは──感情が"色"で表現され、誰もが「声」の概念を忘れた世界だった。
時計は永遠に11:45を指し、人々は昨日と同じ今日を繰り返す。
唯一の異端者である暁は、ピアノを弾くたびに「声の欠片」を集め始める。
「この世界は、きっと誰かの『諦めきれない記憶』でできている」
時計の針は、動かなかった。
駅前広場にそびえる時計塔は、どれだけ時間が経っても11:45を指したまま。人々はその下を行き交い、金色の光(喜び)や深い藍(憂い)を纏いながら、無言で歩いていく。
「……おかしいな」
僕は自分の声が聞こえないことに、ようやく気が付いた。口を開けば、喉から淡い緑色の光が零れる。どうやらこの世界では、感情が色に変換されるらしい。
(緑……これは「困惑」か?)
ふと、背筋に視線を感じた。振り向くと、白いワンピースの少女が立っていた。彼女だけは違う――感情の色を一切放たない、真っ白な人形のように。
「……シエラ」
名前は知らない。でも、なぜかそう呼びたくなる。少女は無言で僕の手を取ると、冷たい何かを押し付けた。
ガラス玉。
触れた瞬間、耳の奥でピアノの音が鳴った。
『――ごめんね』
あの日、病院で聞き逃した声だ。交通事故に遭う直前、妹の……いや、誰の声だったっけ? 記憶が霞む。
「おい、どうしたんだ?」
肩を叩かれて振り返ると、赤茶(親愛)の光を放つ男が立っている。町のパン屋、ウォーレンだ。
「時計塔の写真、撮ってくれよ。今日は娘の誕生日でな」
彼が渡したカメラのファインダーを覗くと、11:45の時計塔が写る。しかし――
(……え?)
僕の姿が、写真に映っていない。
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初投稿です。
この作品は「声のない世界」を舞台に、
・記憶と再生
・時間の止まった日常
をテーマにしています。
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