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ドラゴンはバンジージャンプについて語りたい

年末年始に書きました。

人間もすなる経験談といふものを、ドラゴンもしてみむとてするなり。

 

 別にいいですよね。ドラゴンが好きなお惣菜を発表できる世の中なんですから。


 読者の皆さまこんにちは、ドラゴンです。

 

 実は私ドラゴン、過去にバンジージャンプをしたことがあるんです。今回はその経験についてお話させていただきます。


 そもそもバンジージャンプとはなにか。ご存知の方が多いかと思われますが、簡単にご説明しますと、体の一部分に紐が括られ、その状態のまま谷底や地上に向けて、橋やビルなどの高い建物から飛び降りてスリルを味わう、というものです。

 

 ……え?ドラゴンなら羽が生えているんじゃないかって?毎日バンジージャンプみたいなことしてるって? 

 いやいや、私ドラゴンにも羽を広げて飛びたくない時期がありましたから。空に馴染めない、おしりとシッポの青いアオハルな時期が私にもありましたから。


 まず始めに、バンジージャンプをしてみようと思い立ったキッカケについて。

 私ドラゴン、昔よく聞いていたラジオがあったんです。コメディアンの方の話し方やお便りに対する反応やユーモアなツッコミやが好きで好きで。

 ちなみに、私ドラゴン、ラジオの周波数を合わせるのが得意なんです。周りのドラゴンさんは爪先で細かく調整するのが苦手な方もいらっしゃって、爪先でラジオを貫いている方もチラホラ。ですが私はラジオを壊すことなく、最後の微調整も丁寧に行って周波数を揃えられます。すごいですよね私。


 そのうえで、いつも決まってお気に入りの原っぱまで聞きに行くんですよ。森の中にぽつりと月の光が差し込む、綺麗な場所なんです。もしも読者の皆さまの中で羽が生えている方がいらっしゃるのであれば、是非ともお連れいたしますよ。

 

 そんなラジオを聞いていたある日のことです。ウトウトしながらラジオを聞いていると、何故そんな流れになったのかはあまり覚えていないのですが、何故かそのコメディアンの方が無理やりというか、やらされというかで、バンジージャンプを飛び、電波の届くリスナーの私たちへバンジージャンプ中のリアクション音声を流すということになりまして。

 

 眠気で曖昧な記憶を頼りに、皆様にその時のコメディアンさんの状況をお伝えしますと、遊園地の中か何かのアクティビティスポットのバンジージャンプ上に行ってました。

 工事現場の足場とまでは言いませんが、多分そういうところを登って、体育のマット運動で使うとても分厚いマットの、めちゃくちゃデカい版みたいなやつがバンジーの下に敷かれてるようなやつです。

 コメディアンさんも「やばい高さになってきてるよコレ」とか言いながらサクサクと階段を登っていきます。かたん、かたん、という鉄製?の階段を登っていくことがリズム良く響いておりました。 

 リアクションは強く大袈裟でも進行は妨げない。さすが我らのコメディアン。

 

 そのあと、到着して装備などが装着されているのか、カチャカチャという音とともに、 

 「めっちゃ高いよコレやばくね?めっちゃ怖いって!目の前に立った人しかわかんない高さだし下見るとめっちゃ怖い!」 

 と、必死に高さと怖さを教えようとしてくれるのです。さすが我らのコメディアン。

 

「いきまーす!!」という声とともにゴゴゴという風圧音が3秒ほど続いたあと、「うわあああああああ!!!」と必死に叫ぶ声が聞こえ続けて、「まっ!!痛っでえええええええ!!!!」終わりの音楽が流れてその回は終了となりました。

 

 私は音声のみが故に最初からある緊張感も、最後に放たれた痛みもよく分からないまま、コメディアンの方もやっぱり大変なお仕事なんだなぁ、という感想を覚えてまもなく、トロリと眠気に襲われました。

 

 ラジオもキリよく、それでいてふわりと覆いかぶさって来るような体の疲労感が気持ちよく、瞼が重くなっていくとともに今日の出来事が記憶から吹き抜けていく感覚。今日も良い1日だったなぁ、とぽわぽわする頭で締めくくった瞬間。

 ふと違和感に気づいたのです。

 

 「なんでラジオなのにバンジージャンプしているの?」


 そうなんです、ラジオでバンジージャンプしていたんです。飛ぶ前から映像が流れて飛んでいる最中の映像を収めるヘルメットカメラの映像と、地上からバンジージャンプ中を映したカメラの映像を使用して臨場感をお届けするのではなく、ただただ、飛んでいる最中の音声が流れるのです。しかも風が強くて音声もガサガサ。

 

 臨場感はあるんですが、装備のカチャカチャ音も何されてるか、コメディアンさんがどんな顔してるかわからないですし、目の前に立ってないのでわからないですけれど、そもそも高いところからの見ている景色も下を覗いた時の映像もないので、映像よりも怖いのかぁという比較もゼロ。

 

 私ドラゴンにとってこの経験があまりにも衝撃的で。そのうえで、あまりにもコメディアンさんに申し訳なくて。コメディアンさんへお礼とともに、ごめんなさいと謝りたかったのです。

 ですが、コメディアンさんは多忙な方でありますし、そもそも私ドラゴンなので、気分で人里に降りたりすることはダメなんです。自然界のルールであるのはもちろん、倫理的にも。

 そのため、お会いすることは早々に断念しました。

 では、どのようにお詫びすればよいか。そのときに1つの案が思い浮かびました。


 「私ドラゴンもバンジージャンプを経験してみればいいのでは?」


 思い立ったが吉日、善は急げということで、バンジージャンプ体験を予約すべく、早速パソコン画面を通してインターネットに飛び込みました。

 

 ちなみに私ドラゴン、タイピングも得意なんですよ。多くのドラゴンの方は爪先でキーボードを貫いてしまうんですが、私は貫くことなく丁寧にタイピングできます。長く壊れていない証拠に母音のキーボードは少し削れています。

 ……もっと褒めてくださっていいんですよ?


 インターネットで調べてみると、山の中にある橋でバンジージャンプ体験ができる施設があることがわかりました。しかも、意外と近くで複数できる施設がありました。 

 今やバンジージャンプは民族の成人式と似た意味合いを持つ通過儀礼ではなく、スリルを味わえる人気のアクティビティやアトラクションの1つなのでしょう。 

 そのうちの1つに絞って人間のバンジージャンプ受付ご担当者様と電話のやりとりで確認することとしました。

 

 ちなみに私ドラゴン、携帯電話も使える優秀なドラゴンなんですよ。SNSだってやってます。なんてったって今を生きるドラゴンですから。どうぞどうぞ、恥ずかしがらずにイイネをくださいな。

 

 さて、電話をしてみようと考えたのですが、そもそもドラゴンがバンジージャンプなんて前代未聞。

 なので、敵意が無いことや人里を襲いたい気分では無いこと、純粋な興味、今回応募した経緯など事情を説明しつつバンジージャンプをしたいということを低姿勢で丁寧にお願いしてみましたところ、「あ、大丈夫っすよ。多様性の時代なんで」と、すんなりOKをもらえました。

 

 お聞きしていると、そういうドラゴンさんも過去にいらっしゃったらしいです。思ってるより前代未聞じゃありませんでした。

 

 その後、簡単な住所やお名前、電話番号も共有して、当日の時間予約と何時までには来るように、というお約束。準備物としては飲み物と動きやすい服装、とのことでした。

 

 全身の半分以上が鱗でも問題ないでしょうか、とお尋ねしたところ、「動きやすいならなんでもいいですよ。動きやすいという理由でパンツ1枚で飛ばれる方がいらっしゃるので、鱗であればパンイチより倫理的にも問題ないですね」とのことでした。

 

 鱗がパンイチよりもアウトじゃない理由は不明ですし、なんなら鱗だけならほぼ全裸なのですが、安心してバンジージャンプ出来そうです。


 そして月日は流れ、来たるバンジージャンプ当日。

 前日はしっかりと熊を3匹丸呑みにして栄養バッチリ、睡眠もしっかり取って体調も万全。

 おしりからしっぽ、前側にかけてのVIOあたりも産毛が生えてきて、鱗も生え変わりかけの、7割くっつき3割ペリペリで、ひと皮剥けた新しい自分に変われそうなタイミング。

 今日はバンジージャンプを終えるまで羽は使わないぞ、と意気込んで、橋まで後ろ足の二足歩いて行くことにしました。楽しみでついつい道中に通った森の木を気分よく蹴り飛ばしたり、なぎ倒したりしちゃったのは秘密でお願いします。


 山を3つほど越えて到着したバンジージャンプ場は、山と山とを跨る谷の上に水平にかかった大きな鉄製の橋でした。幅もちょうど私2人分だったので、片側1ドラゴンずつ行き来可能な大きめ広めの橋でした。

 谷底を覗き込んでみると結構高く200メートル以上はあるぐらいで、谷底の川の先を見ていけば扇状地に繋がり広がっていき、平野と町や村が一望できてとても見晴らしが良く気持ちいい景色でした。

 そんな橋の中央部分に赤い柵で囲われた場所があったので向かってみると、ホームページに載っていた写真通りの受付場があり、男性の方が1人外で待機。

 男性の方はこちらを見るや否や、ピシッと立ちつつも柔和な雰囲気でお声をかけてくださいました。


 「本日予約してくださっているドラゴン様でしょうか?」

「そうです、予約してたドラゴンです。よろしくお願いいたします」

「ご来場ありがとうございます。先に記入事項等ありますので、橋の向こう岸までお願いします」

 

 受付はどうやら橋の上ではなく別場所のようでしたので、お兄さんの後ろをドスドス歩いて着いていきます。

 橋を渡る際にちらりと見てみると、若い女性がハーネスなどの装備品をインストラクターさん3人がかりで付けられているようでした。

 私もあんな感じでされるのかな、と現実味が湧いてきたことに少し怖くもワクワクしつつ歩いて向こう岸に到着。


「バンジージャンプ受付」と大きく書かれた木造の小屋には目の前に受付と簡易的な出入り用の柵、その隣にはバンジーで使用し、体を繋ぐ紐の見本があります。

 このあと繋がれるであろう、まさに文字通り命綱なのか、と思いながら見ていると、その横にバンジーに使用する紐の切れ端が大きな木製のカゴの中に山盛りの山盛りで配置。

 そのカゴの上あたりに「1つ銀貨1枚で購入可能」と書かれているため、どうやらお土産用として販売しているようでした。

 1つ手に取って断面部分を見ると、特殊な素材で作られた紐を9本ほど束ねた構造になっており、かなり分厚く、しっかりとした重厚感。安全にバンジー出来ることは頭でわかっていたのですが、心でも安全かも、と少しは思えるほどです。

 お土産品をまじまじ見て、にぎにぎ触っていると、

 

「ドラゴンさん、すみませんがお先に確認事項をご確認いただき、サインとその他記入をお願いします」

 

 私は言葉を聞くなり、そそくさとお借りしたボールペンで保険適用と自己責任の同意に関する記入。

 ワクワクして浮かれていたことがバレてちょっと恥ずかしく、いつもより書いた字も荒れ気味になります。

 そして記入を終えて提出すると、インストラクターさんが確認して受付の裏のデスクワークスペースのようなところに入っていきます。

 インストラクターさんが完全に中に入るや否や、何をしに行ったのか見るべく少し覗いてみようと体を上下左右にソワソワ動いてみますが、そんな努力も意味無く、5秒ほどで大きなハーネスを持って受付まで戻ってきました。

 

「それでは早速、安全確認から行いましょうか」

 

 出入り用の柵をカチャカチャ動かし、小屋側から出てくると外へ出てくると、小屋の前の少し広いスペースへと移動。

 

「じゃあ、今からバンジージャンプをする上でのお約束とハーネス装着の注意点をご説明しますので、しっかり聞いてください。何か起こった時に怪我じゃすまなくなってしまいますからね」

 

 危ないことをする為に、しっかりと安全について話されます。プラスで5分ほどはバンジージャンプについて。

 そのあとハーネスの装着について。私ドラゴンではサイズも難しいかとは思っていたのですが、ここのバンジージャンプ場が特別なのか、とても大きいサイズのハーネスがありました。普通は体重100キロ以下とかでないとダメらしいです。


 ともかく、インストラクターさんと一緒の説明のもと、ズボンを履くように足をハーネスの間に入れ、ハーネスを持ち上げる。

 サスペンダーの要領で背中側から前足の上を通って、お腹の下あたりにある金具にカチッとはめる。羽は邪魔になっておらず、むしろ開放的に動かせる状態のためいざとなればなんとでも出来そうです。

 

「これで準備は一旦完了なので、さっそくバンジーをする橋の真ん中まで行きましょう」

 

 そう言われてインストラクターさんの後ろをドスドスと歩き、橋の中央にある赤い柵で囲まれた場所に到着します。

 橋の中央から突き出るように重厚な足場が組まれたその場所は、学校にあるスライド式の正門扉のように硬質的で分厚い柵で囲まれています。

 柵の中は格子状で足元がスケスケの鉄床、足場の天井からはクレーン車のように大きい吊り下げ式の命綱が垂れ伸び、柵サイドや足元周りの頑丈そうな箱にはハーネスや安全装置があちこちに整理され配列。

 そして、なんといっても、固く閉ざされた柵の一部分が消え去り、天へと続くかのように伸びる道という名のジャンピングポイント。

 改めて自分が今から足を踏み入れていくバンジージャンプの領域が、とんでもなく異次元なことだけを否応なく突きつけられます。

  

「はい、そうしたら今からしっかり金具付けていくので、指示あるまでここから動かないでくださいね」

 

 その言葉で現実に引き戻され、開け閉めが出来る赤い柵の前で停止。

 左右には太陽に照らされて青々と光り輝く山の木々がせわしなく風に揺れており、左右の山と山に挟まれて下へと滑り込んでいくように目をやると、山々の間となる谷には透明感のある綺麗な川が流れます。

 その川は透明であるはずのに、暗く重く吸い込まれるような青緑に輝いていて、川の奥を辿れば、川が空へと続いていき、油絵のようにベタっと塗られた水色が扇状に広がっています。

 目の前の景色に肌がビリビリと痺れ、お腹の下あたりがキュッと締まる。

 その瞬間、突風がぶあっと吹き抜けうぶ毛が強くなびくと同時に、お腹の下でカチッと音が鳴りました。

 

「安全具が装着できたので、歩いて前まで入っていきましょうか」

 

 その言葉を聞いて近くを見ると、さっきまで固く閉ざされていた赤々とした柵は広く開いています。

 進む先の足元は穴の空いた厳重な金網のような場所で、真下が丸見えでハッキリとした標高という現実に無理やり付き合わせられます。

 目線を前へ向けると突き抜ける山と谷の手間にはインストラクターさんが2人おり、3人体制でお出迎えでした。

 

「おー!ドラゴンのお客さんじゃん!今日はよろしくね!!」

 

 肌の黒く焼けた元気のいい30歳ぐらいのお兄さんが陽気なご挨拶。向こうは知り合いのような挨拶ですが、もちろん初対面です。

 

「ドラゴンさんバンジー楽しみだね!がんばろうね!」

 

 もう1人のインストラクターさんは25歳ぐらいのお姉さんで、スポーツをしているのか鍛えているのかガタイのいい筋肉質な身体。

 タンクトップにシャカシャカのパーカーを羽織っており、右肩には何語かはわからないタトゥーが入っています。

 バンジージャンプへの入口はこれほどまでに快活なのか。むしろ、差し迫る恐怖から私の気持ちを逃がそうとしてくれているのか、バンジージャンプにおける1種のメンタルサービスなのか。

 いや、多分お兄さんたちが陽気なだけだろう、こんな結論で申し訳ないけど。

 陽気なウェルカムおいでおいでを2人にされ、奥に抜ける空の水色に足を数歩進めます。

 

「はーい、じゃあ下にある足跡のマークのところまで来てください」

 

 言われるがまま、指定の足跡に合わせるように立ち、ピシリと気をつけする。

 柵の手前では気づきませんでしたが、足跡マークのところでは快活なEDMがズンチャズンチャと流れており、そのせわしない音はバンジージャンプ待機場所の空間をぐるっと1周してはスケスケの足場に消えていきます。

 

「安全装置つけていきますね」

 

 陽気2人と受付1人に囲まれ、ガソリンスタンドの給油ホースのように上から垂れ下がっている3本の命綱を3方向からカチャカチャと装着されていきます。

 

「ドラゴンさんはバンジージャンプ初めて?」

「あ、はい、初めてです」

「バンジー初めてなんだね、逆に空はよく飛ぶの?」

「毎日飛びます」

「あっはっは!じゃあ全然怖くないでしょ!」

「いやいや、羽が使えないと考えると怖いですよ」

「そっか!それならバンジー楽しめるからコンディションはバッチシだね!」

 

 軽快なEDMに合わせるかのようにリズミカルな会話が流れ、それと並行して3人で足、腰、おへそ近くのハーネスに大きなフックのような装着器具をガチャリとかけていき、順番交代順繰りで3度点検がなされます。

 腰とおへそはハーネスについているひっかける所へ、ピチッと揃えた両足には中に密度の高いスポンジが入った安全感のある足枷で両足を固定しそこにひっかけているイメージ。

 かけられる言葉は跳ねるように軽やかな一方、恐怖をスパイスだと教え、安全点検は徹底的な充実サービス。

 重厚な3重の命綱により懸念事項であった命の心配は既に無いだけでなく、バンジーというアクティビティを最大限楽しめるように安全と接客からダブルサポート。

 バンジージャンプの希少性に代金を支払っていたつもりだったのですが、バンジーへ向かう私ドラゴンへの心と体のコンディション調整分と考えると、とても好ましい代金です。

 

「それじゃ、全て装着確認できたので、ドラゴンさんゆっくり歩いてあの飛び出てるとこまで行きましょうか」

 

 初対面のはず黒コゲ兄ちゃんに促され、ペンギンのようにひょこひょこと足を前に進めていきます。

 ジャンプポイントに到達し、ついにラジオで思いを馳せたコメディアンさんと同じ状況に立つことができました。

 あの日マイナスな印象を抱えて想像した景色や、想像したコメディアンさんの気持ちとは異なり、山山の木々は陽の光に照らされ、さらに生き生きと透き通った緑が栄えています。

 緑は足元を突き抜け、下で流れる川がその緑を目いっぱいに吸い込みながらも荒々しく豪快に絶え間なく動き続けます。

 跳ねる水しぶきとうねる流れが吸い込んだ色を乱反射させてキラキラと輝かせます。

 川の輝きははるか遠く、上空へと舞い上がり、シャボン玉を透かしたようなみずみずしい青空が木々に色彩を降り注いでいきます。


「さぁ、足の半分を足場より出して立ちましょう!」

 

 言われるがままに半歩前へと進み、つま先から土ふまずまでが空と繋がっていきます。

 爽やかに聞こえるEDMもリズミカルに背中を押して、私ドラゴンはふふふと笑ってしまいます。

 

「それじゃあ!一緒にいきましょう!カウントダウン!!」

「「5!4! 3! 2! 1!」」

「バンジー!!」


 前に向かって両足でグッと踏み込み、目の前の大自然へ思いっきり飛び込む。

 ふわっと浮き上がるような空気の感触を体全身で受け止めたと思った瞬間、地球の内部へ向かってグンッと体が引っ張られていく。その瞬間に私ドラゴンは初めての経験をしました。

 

「!!!!!」

 

 声が出ないのです。出そうとしても一音も発せられないのです。

 

 背中の羽はピチリと閉じられ、抵抗の出来ぬまま文字通り真っ逆さまに落ちていく。

 自分の脳と身体が死と恐怖への警鐘を鳴らすも、脳と身体が瞬時に理解し、悟る。本来あるべき生の求めを拒み、生への抵抗を沈黙化させます。

 

 炎を吐き、頑丈な鱗と強大な身体を持ち、山だって町だって、その気になれば一瞬で更地にできるパワーを備えているのに、何一つ頼りにならない。

 先程まで輝いていた川へぐんぐんと近づいていけば近づくほど、底のの見えない青と緑と黒がバケツから絵の具をひっくり返したように視界へ埋まっていく。

 もうダメだ、身体だけが反射的に理解した瞬間に重力のパワーが全身から解放され、ゆっくりと今落ちた場所へと逆再生のように戻り始める。

 

「わあああああああ」

 

 身体と脳が生きていけることを改めて理解した瞬間に、身体から漏れ出るように声がこぼれ落ちていく。

 安堵に身を包まれ、自然が私ドラゴンを祝福してくれている中、突如としてやってきたのです。

 

「痛ってええええええ!!!」

 

 バンジーのバウンドにあわせて、ハーネスに食いこんだVIOの毛が、接続する体の表面の細胞組織という細胞組織を全て引っ張り続けるのです。

 そのバウンドは繰り返され、その度に肌と身が引きちぎられる痛み。段々とバウンドの回数と体への余波は小さくなり、痛覚はそれに比例して回数が多くなっていきます。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」

 

 痛みでバウンド中はほぼほぼ記憶が消え、バウンドが止まると常にセンシティブな部分の肌が一生引っ張られ続ける状態に代わります。

 連打的な動の痛みと、永続的に発生する静の痛み。バウンド後はゆっくりと吊り下げのクレーンで引っ張りあげられ、その間中常に食いこんだ毛も引っ張りあげられます。

 

「ドラゴンさん、サイコーなジャンプだったね!」

「……はい」

 

 ジャンプ地点の待機場所まで吊り上げきり、ようやく地に足を付けた私ドラゴンに両手でグッジョブサインをしていただいてるにも関わらず、ただただ残り続けるデリケートゾーンの痛みに耐えるのみで、まともに受け答えする余裕はありません。

 

「また良かったらバンジーしに来てね!!」

 

 安全装置を外されながら笑顔で3人から手を振られる中、痛みで混沌と化した脳内から最大限の常識を引っ張り出し、ぺこりとお辞儀をして柵の外へと出ます。橋の上を少し歩き、振り返って再度バンジーをした地点を眺めます。

 

 キラキラと輝いていた自然も、気づけばいつもと変わらないただの背景となっています。強い風が通り過ぎ、パキパキに乾いた鱗や皮が空へと舞う。

 歩きながら、剥がれかけの鱗や皮をペリペリとめくりつつ、バンジーをした瞬間を思い返します。

 

 やっぱり、経験しなければバンジーは想像で完結させてしまっていたし、コメディアンさんの心情はわからないままでした。今回のこの経験で、私ドラゴンはたくさんのことを知ることができました。


 では、最後にバンジーを飛んだ感想です。

 コメディアンさんはリアクションにおける天才であり、今後バンジージャンプをする予定の皆様は、毛を剃ってから飛ぶことをオススメします。

 皆さま、お忘れなきよう。

  

 それでは、また。


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