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1 ライン

 夕食を食べ終えて自室の机で課題をこなす最中、机の脇に置いていたスマホが振動した。見るとラインの通知が1件。川野からのメッセージだ。あの図書室での一件の後、俺は川野と連絡先を交換したのだ。


 もちろん、クラスラインにも招待してもらった。「えっ、まだ入ってなかったんだ」と悪気なく川野に刺されたのは記憶に新しい。たぶん一生忘れない。


 ラインのトークを開き、「川野渚」のアイコンをタップする。プロフィール画像は某ネズミのテーマパークで、川野がネズミのカチューシャを付けて笑みを浮かべている写真。こう言っては失礼かもしれないけど、すごくイメージ通りだ。


『早速だけど、明日の放課後に作戦会議しない?』


 作戦会議……つまりは川野の勉強の方針を決めるということでいいんだろうか。


『浅葱の都合さえ良ければ』


 再び川野からメッセージが来る。俺は慌てて返信を送った。


『どこで?』


 学校から最寄駅を挟んで反対側にあるカフェの住所が送られてくる。人目に付かなそうな場所でいいと思う。川野も川野で、俺に勉強を教わるのを隠したいんだろうな。俺も彼女と表立って関わるのは避けたいので、利害が一致したようだ。


 それにしても、川野は文字を打つのが速いな。フリック入力でここまで速くできるものなのか。パソコンなら俺ももっと速いんだけど。


『了解』


 と打って話は終わりかと思いきや、続けて川野からのメッセージ。


『浅葱的には、何か持って来た方がいいものとかある?』


 持って来た方がいいもの……強いて言えば一つあるな。


『これまでの定期試験の成績表』


 初めて返信まで少し間が空いた。しかもすんなりOKされると思いきや、『なんで?』とメッセージがくる。


 もしや川野に警戒されてる? なぜだろう。まあ、成績表ってある意味個人情報ではあるが。一応、理由を説明した方がいいんだろうか。


『今までの成績を見た方が、こっちもアドバイスしやすい』


 また少し間が空いて、『分かった、持ってく』と返ってきた。どうやら納得してくれたらしい。安堵の息をついたのも束の間、今度は川野から『よろしくお願いします!』とお辞儀をする奇怪な見た目の魚のスタンプが送られてくる。


「なんだこいつ……」


 これにはどう返信するのが正解なんだ? ていうか、この魚何だよ。全然かわいくないけど、最近のJKの間ではこういうのが流行ってるのか……?


 迷った末、俺は考えるのを諦めた。『よろしくお願いします』と普通に文字で返信する。念のためしばらく待ったが、川野からのメッセージはない。どうやらやりとりが終わったらしい。


 スマホの通知を切ると、どっと疲れが押し寄せてきた。女子とのラインのやり取りに慣れてないせいか、思ったより緊張してたらしい。それでも、今は勉強の途中だ。ここでやめるという選択肢は俺にはない。


「誰とラインしてたの?」


 ふと背後からした声に振り返ると、ベッドに寝転がる妹の円が目に映った。円はTシャツにハーフパンツというラフな格好で、ポテチを咥えて漫画を読んでいる。


 こいつ、ノックもせず部屋に入ってきたのか。気付かない俺も俺だけど。


「……部屋に入るときはノックくらいしなよ。あと、ベッドでポテチは食うな」

「ごめんなさーい、次から気をつけまーす」

「ポテチの方は今気をつけてくれ……」


 ため息をつくと、椅子から立って円の脇に置かれたポテチの袋を没収する。


「あっ、それもう中身空だから捨てていいよ」

「…………」


 眉間に皺が寄るのを抑えつつ、ポテチの抜け殻をごみ箱にダンクシュートした。もう円は無視しようと机の前に戻ったところで、再び背後から円の声がする。


「で、誰とラインしてたの?」

「……知り合いだよ」


 川野のことをどう表現しようか迷った末、俺はそう答える。


「へー、かわいい?」


 脳裏に川野の顔が浮かぶ。かわいいかかわいくないかと問われれば、間違いなくかわいい部類に入るが――。


「別に」

「あっ、じゃあ、女子ではあるんだ。いいね、アオハルだね」

「……お前今、鎌かけたな」

「あはは、引っかかる兄貴が悪い」

「そういうことばかりやってると、友達減るよ」

「大丈夫。何人か減ったところで、兄貴よりは多いから」

「…………」


 ラノベや漫画とは違って、現実の妹なんてこんなものだ。

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