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私がわたしを葬るとき

作者: 穂波澪

 私の身体には、もう1人のわたしがいる。

私は、そのわたしを不安ちゃんと呼ぶことにしている。なんとも、こいつが厄介極まりない。

 不安ちゃんはなんの前触れもなく、ぽっと現れては私を荒らし、ひとしきり暴れ回るとフッと消える。いや、消えるように見せかけているだけで、いつもどこかに隠れては、チラチラとその存在を示している。そして再び引っ掻き回しては、沢山の時間と労力、そして時には他者との関わりを奪っていく。不安ちゃんには悪気はないんだろうけど。

 不安ちゃんは今とか過去とか時間軸に全く囚われない。その直後は全く生まれてこなかったくせに、何日も経ってからいきなり現れることもある。どうしようもできないことなのに、最悪のシナリオを提示してくる。

 不安ちゃんは心臓とか肺とか脳とか、人間の重要な器官とすごく仲がいい。どうしようどうしよう、と暴れたててはまずは心臓に飛びつく。ドクドクドク、と痛いほど音を立てて締め付けられる感覚に冷や汗が出ることもある。そして、心臓の次は肺をめがけて流れてくる。肺は不安ちゃんを慰めようとしてるのか、きゅーっと縮こまり、うまく息が吸えなくなる。そして、最後に脳。脳裏にはならないとかこの事か。脳に巣を作り、深く深く根を張っていく。そうなってしまえば、何をしてても不安ちゃんに支配され、眠ることすら許されない。不安ちゃんが身体を支配していくのを、ぼーっと見ていることしかできない。

 今思うと、私は元々臆病な人間だったのかもしれない。グループの中に誰か1人不機嫌な人がいようものなら、それだけで緊張したし、その不機嫌の矛先が自分なような気がしてならなかった。何か気に触ることを言ったのではないか、何か傷つけるようなことをしたのではないか。考えれば考えるほど、可能性はたくさん浮かんでくる。原因なんて探せば、作ろうと思えば限りなく出てくる。私のヘラヘラした顔が気に入らなかったとか、親しすぎる態度が気に入らなかったとか、

 だが、客観的に見れば考えすぎな、自意識過剰な思考が作り出したくだらない産物に過ぎない。そんな気にしなくても、周りはそんなに君に注目してない、と言われたこともある。頭ではわかるし、理解もしている。でも、どうしてもそのままに受け止められない。そして、そのままに受け止められない自分が、罪深きもののような、否定されるべき存在であるかの様に思えて余計に居た堪れなくなる。そんな負の感情に反応して、不安ちゃんがどんどん膨張し、力強いその両の腕で首にすがりつく様に、どんどん力を込める。

 お前さえいなければ、お前のせいだ…聞こえないはずの声が不安ちゃんの周りを渦巻き、その手にどんどん力が入る。


 息が、できない。

 

 意識を手放すかの様に、不安ちゃんとともに闇に堕ちていく。堕ちて落ちて、そこがどこかもわからないほど深い闇。

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