第九話「死」
<――あらゆる世界に生ける者達の願いや苦悩を聞き届け
その御礼とばかりに人々の手に依り供えられて行く貢物、通称……
“お供物”
……そんなお供物を
無心で“貪り食らって”居た全知全能の神は……今日も今日とて
悩める“願い人”達の願いを聞き届ける為、その優しき心と耳を傾けていた――>
………
……
…
「神よ……どうか彼を……彼をッ!!
一刻も早く……殺して下さいッ!! 」
………
……
…
「……うぐっ?!
ぼた餅が喉にッ……ゲホッゲホッ!!
ふぅ……危うく死ぬ所だった……まぁ
私にはそもそも“死”と言う事象は訪れないのだが……それはそれとして。
……今回の願いばかりは弁明のしようも無い物だと言えるだろう。
人類には何故、この様に残酷な望みを願う者が後を絶たないのだろうか……」
<――当然と言うべき反応を見せた神は
モニターに映った“願い人”である女性を憐れむ様な眼差しで見つめていた。
だが“願い人”は尚も続けた――>
………
……
…
「……もうこれ以上、彼を苦しめたくは無いのです。
彼を安らかに……眠る様に……お願いです。
どうせ救われない命だと言うのなら……
もう……これ以上……ッ!! ……」
<――深夜の病室
“意識の無い男性”の手を握り幾度と無くそう願った“願い人”
……男性に繋がれし数多くの機械は、常に一定の律動で無機質に動き
未だ意識の戻らぬ男性の事を生かし続けていた――>
………
……
…
「成程……“残酷な願い”では無かったか。
寧ろ、君を襲うその現実こそが残酷と呼ぶべき状況の様だ。
……“願い人”である君よ
今日、私は……君の願いを叶える為、死神に連絡を入れようと思う。
その上で……せめて、君の伴侶が苦しまず逝ける様
死神に頼んで置くとしよう――」
<――直後
黒い“受話器”を出現させた神は、死神に対し――>
「……では、その方向で頼む。
ああ……手間を掛けるが、死神にしか頼めないんだ。
ああ、感謝するよ……では」
<――そう伝え、連絡を終えた。
だが、その直後――>
………
……
…
「これで君も……ん?
何故だ……彼から感じられる“それ”は
死者と成る筈の者が持つ“それ”とは、明らかに違う色をしている。
……まさか!?
このままでは不味いッ!! ――」
<――直後
再び“受話器”を出現させた神は、慌てた様子で死神へ掛け合った。
そして――>
―――
――
―
「いやぁ~! ……本当に奇跡と呼ぶ他ありませんよ!
あの様な状況からの回復は、私共も診た事がありませんので……」
<――“願い人”の願いが叶えられ数週後の事
白衣姿の医師は“願い人”である女性と、その隣に座る“男性”に対し
驚きを以て“奇跡的な生還”である事を伝えて居た――>
「奇跡だなんてそんな……本当に先生のお陰ですっ!!
彼の事を救って頂き、本当に……」
<――医師に対し涙ながらに感謝を伝えた“願い人”の女性。
暫くの後、医師の去った病室では……彼女の背中を擦り
ハンカチを差し出しつつ……彼女を泣き止ませる為であったのか
自身が闘病の折に見たと言う“ある夢の話”を始めた男性――>
………
……
…
「えっとその……正直、すっげぇ悪い発言になるかも知れないんだけどさ。
俺……マリがずっと側に居てくれたのとか
意識も無かったし全然分かんなかったんだけどさ……
……意識が無くても“夢”は見るんだなって思ってさ」
「へっ? ……トウヤ君、どんな夢見てたの?
もしかして……わ、私の夢とかかな? 」
「あ~……その、半分は正解で……半分は間違いかな?
その……何て説明するのが正しいのかは分かんないけど
兎に角変な夢だったんだよ。
……何か、マリが俺の為に必死で神様に祈ってくれてて
んで、一気に場面が飛んでさ……
……次の場面では死神らしき奴と神様らしき奴が居て
神様が死神に対して……何て言うか……古くて黒い
ばあちゃん家に有る様な電話機有るじゃん?
何て言ったかな……あぁ! 黒電話!
……で、それの受話器みたいなので
神様が死神らしき奴に連絡入れててさ――
“彼はまだ生者の光を放っているんだ!
先程の要求は無かった事に……”
――みたいな事を言ってんのよ。
んで、死神は死神で――
“え?! ……おまっ?!
い、今更キャンセルとか?!
……そう言う事するのってマジで大変なんだぞ?!
とは言え、頑張っては見るけど……何れにしても
この件は借りにしておくからな?! ”
――とか言ってて、マジで謎夢過ぎて訳分かんなくてさ~! 」
「う、うん……でも私は、トウヤ君が死神さんに連れて行かれなくて
本当に良かったなって思ってるから……グスンッ……」
「ちょ?! ……もう泣くなって。
ってか本当にマリは優しいな……本当に、悲しませてごめん。
こうなったら、悲しませた分だけ笑顔にしなきゃだな!
……よしッ!
退院したらウサギーランドにでも行って見るか! 」
「うん! ……一緒にチュロス食べようね♪ 」
―
――
―――
「……そ、そんな馬鹿な。
い、いや……確かに私の“取り消し”の“反動”で彼はとても苦しみ
本当の意味で生死の境を彷徨わせてしまったが……
……ううむ、何れにせよ以降は気をつけねば。
しかし……親しき付き合いであれ、何であれ
互いを思う二人の関係を見ていると此方まで微笑ましい限りだ。
っと……そう言えば、私にはそれらしい相手が居ないが
どの世界の“転生者”かが言って居たな――
“考えたら三十歳で童貞だし魔導適性高そうな気がするっ! ”
――と。
私は……全ての世界の創造主であり
つまりは、どの世界よりも永き刻を過ごしている訳だが……
……私の持つ力は彼の言う“魔導”なのだろうか?
いや……そもそも本来、殆どの世界では魔法も魔導も使えぬ筈なのだが
人間の発想力は時々理解が出来ないな。
まぁ良い……彼らの発想力とその意味を知る為にも
私はもっと多くの願いを聞き届けねば成らない様だ……」
===第九話・終===
次回は6月11日に掲載予定です。




