第八話「家」
<――全ての世界に生きとし生ける全ての動植物が発する声や言葉。
その全てを理解する力を持つ、万物の創造主でもある神は……今日も今日とて
悩める“願い人”達の願いを聞き届ける為、その優しき心と耳を傾けていた――>
………
……
…
「お願いです、立地条件が最高の家を……超格安で手に入れさせて下さい!! 」
………
……
…
「いや……“不動産屋”と呼ばれる所を訪ねなさい?
そもそも其れは私に頼む様な事でしょうかと小一時間程、説教を……」
<――当然と言うべきか
一見すれば、全く適切とは思えない願いに神は酷く呆れていた。
だが、モニターの向こうで尚も祈りを捧げていた“願い人”は――>
………
……
…
「多くは望みません……高級住宅街とも言いません。
歩いて数分程度の距離に生活に必要なお店が揃ってて
医療機関も凄く充実してて……出来たら温泉とかが有ったり
マッサージなんかも受けられる様な場所も有って
たまに贅沢が出来る様な食事処とかも有って、それで……」
<――更に贅沢な要求を羅列していた。
そして……この後も長々と続いた“願い人”の要求の長さに
痺れを切らした神は――>
………
……
…
「はぁ~っ……我欲が過ぎる。
その様な願いを全て聞き届けていては、神としての威厳も威光も……」
<――そう言いつつ
神がモニターから目を逸らした瞬間
“願い人”の願いは漸く、終わりを迎えた――>
………
……
…
「……以上が私の願いです、どうかお願いです神様。
私の稼ぎではどうあっても叶う物ではありません、ですが
どうか……私の大切な両親の為に、この贅沢な願いを叶えて下さい。
苦労をかけた両親に……せめて
老後を幸せに、穏やかに暮らして貰いたいのです……」
………
……
…
「あー……そう言う事は“先に言う”のが筋だと思うのだが。
……まぁ良い、君の願いが我欲では無かったと理解したよ
さて……では先ず、君や君の両親について詳しく見るとしよう――」
<――直後
“願い人”と両親の現在に至る迄の全てに目を通した神は――>
………
……
…
「成程……良く理解した。
所謂“限界集落”と呼ぶべき地に住み
何処へ行くにも相当な労力の掛かる地で暮らす君の両親は
何れも杖を付き歩かねば成らぬ様子……にも関わらず
山深いその土地には医者と呼べる者は疎か
君が望んだ“何れの物も”ありはしない。
……自然豊かと言えば聞こえが良いだろうが
少なくとも、君の両親には……君が案じて居る通り厳しい環境だ。
とは言え……世の中には、雨風を凌げぬ地で
今日を生きる事すらままならぬ者が数多く居る。
君の両親を救う為、私が力を行使する事は容易い……だが
その地から、君の両親だけを救う事は公平では無い。
……私は、全ての者を幸せにしたいと思っている
故に、その行いに不公平が有っては成らないのだ。
だからこそ……私は、君の願いを聞き入れつつ
聞き入れぬと言う判断をしようと思う――」
―――
――
―
「皆さ~んっ! ……今日はッ!
あの……超爆発的人気アニメの聖地巡礼に来ていますっ♪
……何と、このホッタテ村には
あの名シーンに登場した幻の集落が“実在”しているんですよ~っ! ……」
<――“小さな板”に映る村
そして、自らの姿を頻りに確認しつつ
それらを映し出す為か“板”の“眼”に向け
甲高い声と愛嬌を振り撒いて居た一人の“女性”
……画面には滝の様に流れる言葉
そしてその言葉の一つ一つに対し反応を見せた“女性”は
村を探索しながら“板”に向けてこの村の紹介を続けた――>
「さてさてッ! ……皆さ~んっ! いよいよですよっ!
“最強”と呼ばれたあのキャラが住んでいた古民家まで~……
……三ッ!
二ぃ~ッ! ……」
<――直後
勢い良く画面に映し出された――
“古民家”
――数多くの絵や資料と共に
保存の為、様々な手が加えられて居たこの場所は
幼き頃“願い人”と共に彼の両親が暮らしていた場所であった。
直後……当時の面影が全て消し去られ
派手な色使いに塗り替えられた屋内に移動した“女性”は――>
「……は~いっ!
此処の再現……ほんっっっと~に! ヤバイですよねッ!
さてさて~っ! コメント欄も興奮冷めやらぬって感じですけど!
……本日は、この村を維持管理している
役所の担当者の方にお話を伺える事に成りましたっ!
それでは、キシベさん! どうぞっ!! ……」
「え~……ただ今ご紹介に預かりました、担当のキシベと申します。
この度は、我がホッタテ村にお越し頂き……」
<――この後
村の成り立ちを話し……限界集落と成った経緯を話した
“キシベ”であったが――>
「……で、有るからしてですね
所謂“棚からぼた餅”と言った形で、この村の地価も上がりまして
元々これらの古民家に暮らしていた方々は、皆さん都会の方に移住されて
それぞれが幸せに暮らしておると言う訳で御座いまして……」
「え、え~っと……何処から突っ込もうかな。
……と、取り敢えず~っ!
えっと……“棚からぼた餅”って何ですか~? 」
―
――
―――
「……人間の生み出す仕事の多くは
神である私には理解出来ない物が多い……しかし。
今日、その幾つかが重なり
“願い人”である君の願いを叶え……そして助けた。
“職業に貴賤は無い”と言うが……あらゆる職業は
それが存在する以上、誰かを助く物でも有るのだと
再確認する良い機会となった……しかし。
“ぼた餅”を知らない者が居るとは驚きだ……少なくとも
私は全知全能と崇められる存在だから良く知っているが
あれ……結構美味しいのだがね。
そういえば、確か“お供え物”に有った様な気が……ううむ、無い。
こうなれば……もっと多くのぼた餅を供えて貰う為にも
もっと君達の願いを数多く聞き届けねば成らないだろう……」
===第八話・終===
次回は6月4日に掲載予定です。




