第七話「競馬」
<――お笑い芸人の中でも
“ツッコミ”と呼ばれる仕事を生業としている物からすれば
到底無視出来ない程の酷い発言を連発した神は……今日も今日とて
悩める“願い人”達の願いを聞き届ける為、その優しき心と耳を傾けていた――>
………
……
…
「お願いだ、どうか――
――どうか! 次の“大穴レース”を当ててくだせぇっ! 」
………
……
…
「いやいや……本気で願っているのかい?
何時ぞやの“くじ”と同じで、確率を考えて欲しい物だ。
そもそも、君は“あぶく銭”と言う言葉を知りなさい――
“苦労せず得た大金は直ぐに、まるで泡の様に消え去る”
――そう言う物なのだと。
苦労して得た物こそ、君が日々暮らしていく為の大切な糧となり……」
<――手を合わせ、必死に願う“願い人”の映し出されたモニターに対し
何時もと変わらぬ様子で説教を語り掛けて居た神。
だが――>
………
……
…
「唯の一度で良い……あの馬に
オラが手塩に掛けて育てたあの馬に勝たせてやりたいだッ!
……最弱と呼ばれ続けても必死に走って
オラの元に帰って来たら、負けた事なんて覚えてないかの様に
満足気にしてるあの馬の事さ、オラは可愛いと思ってるだ。
だども、あの戦績じゃ引退後の扱いだって散々な物になっちまうだ……
……だから、どうか神様仏様
今日、オラと同じ“引退”試合を迎えるオラの大切なあの馬さ
どうか……勝たせてやってくだせぇっ!! 」
………
……
…
「あ~……えっと。
君はあの馬の“調教師”だったのか……
……成程、確かに真面目な勤務態度だし
君はとても愛情深くその馬を育てていた様だね……だが。
だとしても……私は君の願いを叶える訳には行かない」
<――自らが手塩に掛けた愛馬の初勝利を必死に願って居た“願い人”
だが……神はそんな彼の願いを断固として拒否した。
その上で、神は続けた――>
………
……
…
「……君はとても“大きな勘違い”をしている。
その馬は……勝つ事が目的ではない。
そもそも、その馬の持つ力ならば
今まで対戦した他の馬よりも圧倒的に早く疾走れる筈だ。
にも関わらず、何故その馬が負け続けているのか
何故……“敢えて”力を抑え続けているのか。
その答えは……“君”にあるのだ、人間よ。
……育ての親である君の
“優しさ”と“想い遣り”を確りと受け継いでいるからこそ
敢えて負け続けているのだ。
驚くべき事だが……その馬は“自分が負ける”事で
他の馬に少しでも良い生活をさせる事を望んでいる。
……君達人間が始めた賭け事の“結果”に依って
ほんの僅かでも馬達の“扱い”が変わる事を
その馬は良く知っているのだよ。
とは言え……安心しなさい。
今、君が望んだ願いを叶える訳には行かない、だが
君が本当に望む、その馬の“本当の幸せ”だけは
必ず“叶える”と約束しよう――」
―――
――
―
「……お~いッ!
そろそろ、飯の時間だど~ッ! ……お~ヨシヨシッ!
それにしても、おめぇは本当に良く食べるだな~っ?
……しかしおめぇ
何だか、引退してからの方が走るの早くなってねぇだか? ……」
「ヒヒーンッ♪ ……ブルルルッ! 」
「何だ? ……オラ“馬語”は判らねぇだが
何だかおめぇが楽しそうなのだけはしっかりと分かったど?
……まぁ、何でも良いだよ。
おめぇがこれからも良く食って、良く走って
オラと楽しくこの村で暮らせるならオラはそれで良いだよ! ……」
「ヒヒーンッ♪ ……ブルルルルッ! 」
「……おっ! 今のは分かっただど?!
おめぇ、良い事言うだな~っ!
……オラの事“最高の調教師だ”って言っただな?! 」
「……ブルルッ」
「こら! ……なんで顔さ背けただ?! 」
―
――
―――
「……愛の形など
種族や住まう地域の風習により千差万別では有る。
だが、互いを想う純粋な気持ちは、皆等しく美しさを放っている物だ――
“貴方と暮らせて私はとても幸せです
何時も一緒に居てくれて、愛をくれてありがとう”
――“願い人”よ、君が“馬語”を分かる様に成る事は生涯無い。
だが、少なくとも“本当の幸せ”を手に入れた君達二人の生活は
これからも末永く続く事と成るだろう。
さて……君達の様に種族を超えた愛情を見届ける為
私はこれからも、悩める人々の願いを聞き届け続けよう……」
===第七話・終===
次回は5月28日に掲載予定です。




