第三話「権力」
<――おみくじで大凶を引いた神は
全知全能の力を以て、大凶を大吉へと変化させたのだった。
そして……今日も今日とて、悩める者達の願いを
優しき眼とその耳で等しく聞き届けて居た――>
………
……
…
「俺を……この国で一番偉い存在にして下さいッ!! 」
………
……
…
「来たよ……マジで自己中心的な奴の言う願い一位じゃないっけ? これ。
人の何倍も勉強し、地域や人々の事を考え、粉骨砕身の覚悟を以て
それで漸く政治家と成る権利が与えられると言うのに……
……とは言え。
現世を見ている限り、どの世界でも政治家と呼ばれる者には
一定数、愚かしい考えを持つ者が居る事も確かではあるが……
兎に角、政治家に成るだけでも狭き門だと言うのに
君は“一番”を望んだ……つまりは、大統領や国王と呼ばれる立場だ。
そんな大それた事をおいそれと叶えていては、神としての……」
<――今回の“願い人”に限らず
今日まで、数多くの私利私欲に塗れた願いを耳にし続けていた神は
今回の神頼みも他と変わらぬ私利私欲が故の願いだと考えていた。
だが――>
………
……
…
「この国を……救う為にッ!!! 」
………
……
…
「……ん?
国を救うとは一体どう言う事だ?
一応詳しく聞く必要がある様だ……人工知能よ。
該当する世界の情勢と、彼の生い立ちを表示してくれ――」
<――青年の表情
そして、願いの“異質さ”を受け、神は眼前のモニターに向けそう言った。
瞬間――>
………
……
…
《《――命令を承認しました。
……該当する世界の情勢、及び
対象の生い立ちを詳細に表示します――》》
………
……
…
「……成程、これは酷い。
圧政を強いるだけに飽き足らず、民を民とも思わぬ悪政振り
ましてや……君は為政者らに兄を奪われて居たのか。
どうやら、君の住む世界には“愚かしい考えを持つ”政治家が多過ぎる様だ
……宜しい。
全知全能の神たる私の力を以て、君に
世界を導く為の力を与えよう――」
―――
――
―
「……この国も豊かに成った物だ。
そうは思わぬかね、侍女よ……」
「ええ……全ては国王様の手腕が故で御座います」
「ありがとう……だが、それは違うのだ侍女よ。
私はただ、この国の繁栄を願い幸せな民草の姿を……いや。
何よりも……もう二度と
兄の様な不遇の人生を送る者が出ない国を作る為
それだけを目標に動いて居ただけなのだ。
……遠き昔、まだ若く力の無い私が発した言葉に耳を傾け
私の発する言葉の全てを受け入れ、私に力を与えてくれた民達こそが……
……それこそが、現在の我が国が享受している平和の礎なのだ。
故に、私一人の力では無いのだ侍女よ。
此処まで来られたのは……」
<――天を仰ぎ
神に救いを乞うて居た頃より、幾許かの年を取り
白髪とシワの増えた彼は、城のバルコニーから城下を眺めつつそう話していた。
そんな中……これまで大人しく彼の背後に控えていた侍女は
突如として国王に“寄り掛かり”――>
………
……
…
「ええ……そうでございますね国王様。
ですが、その所為で失われる事と成った既得権益に対する――
“恨みは”
――決して貴方を許さないでしょう。
では……“永久に”おやすみなさいませ、国王様」
<――そう告げ
“国王の背に向け突き指した”ダガーを投げ捨てると
煙の様に、何処かへと立ち去った――>
―
――
―――
「何と言う事を……侍女は何故、彼ほどの聖人君子を……いや。
成程、政敵に雇われていたのか……しかし
彼の純粋なる願いを、高き志を
侍女が今日まで潜伏していた間、君に対し
あれ程目を掛けていた国王を
何故それ程まで冷酷に……無慈悲に裏切る事が出来たのか。
……無論、君だけの問題では無いのだろう
この国の深淵で蠢く、愚かしい政敵達の私利私欲に塗れた考えこそが
本当の原因であると私は良く理解しているつもりだ……だが。
物事には全て……大海へと通ずる川の様に“流れ”があり
物事には全て……責任と結果が付き纏うのだ。
……君や、君を雇った政敵達は
“因果応報”と言う言葉の“恐ろしさ”を……良く、知る事と成るだろう」
<――全知全能、唯一絶対の神と崇められ
溢れんばかりの慈愛に満ち溢れて居る筈の神が
この日、珍しくも顕にした怒りの感情。
その怒りが故か……それとも、因果応報で有ったのか
何れにせよ……民を思い、そして凶刃に倒れた“願い人”の死後
“因果”は、この国の“新たな為政者”達へと降り注いだ――>
―――
――
―
「……漸くだッ!
目の上のたんこぶであった前国王は、文字通り“永き眠り”についたッ!!
これで我々は再び!! ……ん?
……おい、給仕ッ! 酒が切れているではないかッ!!
早く注がぬかッ! 馬鹿者がッ!! ……」
「は、はいっ只今ッ!! ……」
「……全く。
さて……皆の者!
今日と言う新たな門出を祝し、改めて乾杯と行こうではないかっ!!
では、新たな門出を祝し! ――」
<――“乾杯ッ!! ”
直後、王の間に響き渡った新たな為政者達の声。
だが――>
………
……
…
「……うぐっ!?
がはっ!! ……何だッ……喉が……焼ける様に……熱……い……」
<――喉を押さえる者
激しく咳き込む者……苦悶の表情を浮かべ苦しみに藻掻く為政者達。
……やがて次々とその場に倒れ
新たな国王さえも今際の際を迎えていた頃――>
「……漸くよ。
漸く、敵を討てた。
貴方は今、天国で……この場所を見ていますか?
少しでも気が晴れましたか? ……
……ほんの少しでもこの瞬間を見ていますか?
いいえ……見て無くても良い。
だから、せめて……成仏して居て下さいね。
私の……私の大切な“お兄様”……」
<――給仕服を脱ぎ捨て
一筋の涙を流しながらそう言ったのは
志半ばで凶刃に倒れた前国王の“妹”であった――>
―
――
―――
「……安心して良い。
彼は……彼の魂は、既に天国で次の人生への準備を進めている。
……だが。
“君”は……本当にそれで幸せなのだろうか?
全知全能と崇められ、祈りを捧げられている私は
果たして本当に……君達人間を幸せに出来ているのだろうか?
それを知る為にも……私は、もっと多くの願いを聞き届けなければ成らない」
===第三話・終===
次回は4月30日に掲載予定です。




