第二話「宝くじ」
<――厠から帰還した神は
今日も今日とて“願い人”達の神頼みを優しき眼で聞き届けていた――>
………
……
…
「た、宝くじを当てて下さいッ!! ……」
………
……
…
「あ~……これ系多いんだよなぁ。
努力して自分で稼ごうよ……あれの一等当選確率は
“交通事故に数回連続で遭う”よりも低い確率とかって聞いたぞ?
……ってかこれ系マジで多いから
嫌でもそう言う雑学に詳しくなる位多いんだよなぁ。
本当、宝くじに人生を掛ける位なら地道に努力した方が
得られる金額とは違う何か大切な物を得られたり……」
………
……
…
「母ちゃんの病気を治す為に……」
………
……
…
「え、ちょ……マジでごめん。
全然努力してる子だった……詳しくッ! 」
<――想像主たる神が聞き入れると決めた願いの本当の目的……
それは……お金では無く、自らを無償の愛で包み
苦しくとも悲しくとも、自らを愛し続けてくれた母への
恩返しとも言える願いであった――>
………
……
…
「母ちゃんはシングルマザーで……俺の事を育てる為に
朝も夜も必死に働いてて、何時も家には居なくて……俺、何時も寂しくて
それで……母ちゃんが帰って来てウトウトしてる俺の頭を優しく撫でた時
嬉しかったのに、恥ずかしくてつい――
“子供じゃねえんだから止めろや! ”
――って、母ちゃんの愛情を拒絶した事も反省します。
母ちゃんが人前で小さな子供に接するみたいに
俺の事を子供扱いする事にも嫌がったりしません。
だから……もう二度と、母ちゃんの事悲しませる様な事もしませんッ!!
だからッ!!! ――」
………
……
…
<――母を想い
薄暗い部屋で天を仰ぎ、そう願った彼の純粋なる願いは
確かに神の元へと届き――>
………
……
…
「……くじの一等を当てる程度
全知全能の神である私に成せない事では無いのだ青年よ。
だが、くじを当てた程度では……残念ながら君の母を助ける事は出来ない。
故に……君の何よりも大切な母の事を救う為
全知全能と呼ばれる力の全てを以て……私は
君に必要な“手立て”を授けるとしよう――」
―――
――
―
「……サル……マサルッ!! ……早う起きんねアンタは!! 」
「痛ってぇぇぇぇっ!? ……何すんだよ母ちゃん?!
何もフライパンでケツしばく事ぁねえだろ?!
ってか……あ、あれから大丈夫なのかよ? 」
「はぁ? ……何が大丈夫ね?
……アンタこそアタシの為に“ナットウ”だか何だかの人達に
あんな大金借りちまって、本当に返せるんだろうね?
もし本当は困ってるってんなら、アタシだって仕事を……」
「はぁ!? ……ってか納豆って何だよ!? 」
「アンタが言ったんでしょ?! ――
“ナットウのカンパイがどうたらだから母ちゃんの病気は治せる”
――って! 」
「は? ……違っげぇぇし!!
俺が言ったのは――
“ダメ元でネットのカンパサイトで募集してたら
有名人がバズらせてくれて治療費が集まったから、母ちゃんの病気は治せる”
――って言ったんだよ!!
そもそも借りたんじゃなくて寄付だって何回言えば分かるんだよ!?
ってか、マジで退院してまだ日も浅いんだから
もうちょっとのんびりしといてくれよ……また倒れたらどうする気だよ? 」
「何を……バカな事を言うなバカ息子が!
お前の初仕事だから朝早く起きて
美味しい弁当作ったんだろうにこの親不孝モンがっ!
分かったらさっさと服着替えて会社行ってこいバカ息子ッ! ……」
「バカバカ言うなや!! ……兎に角ッ!!!
弁当……ありがとな。
……んじゃ、行ってくる!! 」
「車に気を付けて横断歩道を渡るんだよ~っ!! 」
「いや……俺は子供かッ!! 」
「アタシには何時まででも子供だよッ!!
良いから早く行きなッ! このバカ息子ッ! ……」
―
――
―――
「……か、会話だけを見れば
お世辞にも仲の良い親子には見えない……だが。
彼らの放つ言葉の全ては……全て等しく愛に満ち溢れている。
……一つの事に執着し、其の事だけに運命を投じずとも
救いの道はあらゆる方向に等しく存在する。
其の事を知り、顔の見えぬ遠き者達の施しに驕る事無く
感謝の心を決して忘れる事の無い様……これより先も
君達親子が一日でも長く……互いを思い遣り過ごせる事を願ってやまない。
……さて、私は次の願いを聞き届けるとしよう。
だが、その前に……おみくじでも引くとするか」
===第二話・終===
次回は4月23日に掲載予定です。




