最終話「神無(在)月――神様の休日」
<――常日頃様々な“願い人”に触れ
彼らの願いを聞き届け続けていた神は……今日。
“おやすみ”を取っていた――>
―――
――
―
「……一年振りに休暇を取った。
人間の声が無いと言うのは寂しくもあるが、ある意味では楽でもある。
だが、休暇と言っても他の神達と顔を合わせ“神議”を行い
その後は“神在餅”を始めとする食事と成る訳だが……
……正直、気を使う事の方が多く
人間達の事が心配ですら有る……とは言え、そんな事を言っては居られない。
私達神にも休暇は必要だ……休まねば力が失われかねない。
それに、私が休んでいる間にも“留守神”達の受けた仕事は増え続けて居る。
そう言えば、こう言う状況を人間達の間で色に例えて居たな。
グレー……違う、グリーン……ああそうだ。
……“ブラック企業体質”だ。
正直、休み明けの仕事量は頭がおかしくなりそうな量だ。
とは言え雑こなす事は出来ない……それでは神たる私の誠実さを疑われるし
何よりも……私が心から愛して居る人間達を
たとえ僅かでも幸せにしたいと言う私の基本理念が根底から崩壊する。
それだけは、何としても避けたいのだ。
しかし……人間達は私が居なくて大丈夫なのだろうか?
……疫病が流行っていたりはしないだろうか?
……戦争が起きてしまっては居ないだろうか?
全く……休暇とは言え、気が休まる訳では無いな。
やはり、今年は出来る限り早々に切り上げ……」
<――と、早々に帰ろうとしていた神に対し
とある女神が声を掛けた――>
………
……
…
「あら! ……久しぶりですわね? 元気にして居ましたか? 」
「ああ、元気では在るよ……それよりも、君は相変わらず美しいね」
「あら? 褒めて頂けたのは光栄ですが……珍しいですわね?
貴方が“他の神を褒める”なんて……」
「ん? ……いや?
死神とかは結構良い奴だと褒める事は在るのだが……」
「それは確かにそうですけれど……てっきり貴方の事
私達“同僚”の神達にはまるで興味が無くて
“人間にしか興味が無い”神なのだと思っていましたわ? 」
「……確かに、人間達の事は大切に思って居るし
天職だとも思って居るのだが……」
「“だが”……何ですの? 」
「いや……私の事を“仕事の鬼”の様に捉えてくれるのは嬉しいのだが
君の様に美麗な女神が存在する以上“全く興味を持たない”と言う事は無い。
だが、誤解を招く態度であったなら申し訳無かった――
――“性愛の女神イシュタル”よ」
「あ、あら……私、少々の口説き文句なら聞き飽きて居るのですけれど
今のはちょっとドキッとしましたわ?
……今度、迷惑じゃなかったら
貴方がつい最近作り出した“新たな世界”に私もお邪魔させて頂こうかしら? 」
「それは光栄だ、それならば……いや。
君が地上に舞い降りたら、無闇矢鱈に酒池肉林を作り出しかねない。
とても光栄だとは思う……なのだが、すまない。
今は見守るに留めて貰いたい……」
「……あら、ちょっと寂しいお返事でしたわね?
まぁ、真面目な貴方もカッコいいですけれど……
……それでもたまには“息抜き”も必要ですわ? 」
「ああ、気遣いを有難う……だが、今日は本当に君のお陰で
とても英気を養うことが出来た……有意義な刻を過ごせたよ。
この数千年の中で最も有意義だった……だが。
そろそろこの休日も終わりの様だ……私は早く帰還し
一刻も早く、人間達の……取り留めの無い
“つまらぬ願い”を聞き入れなければいけない。
“性愛の女神イシュタル”よ……また何れ会おう」
「ええ……“色恋沙汰”ならば得意ですし、何時でも呼んで下さいね?
では、また来年……」
―
――
―――
<――数日後、神は
再び人間達の“つまらない願い”に耳を傾け始め
そして、その全てに尽きる事の無い慈愛の心で触れ続けた。
……神は
人間達の発する尽きる事の無い“つまらない願い”こそが
神自身の為にすら成る願いで在ると……そう考え
今日も今日とて……その優しき心を以て
人々の願いに耳を傾け続けて居た――>
………
……
…
「全く……
……だから。
“腹痛を止めろ”とか……知るかァァァァァァッ!!! 」
===終===
最終話までお付き合い頂き本当に有難う御座いました。
短めの作品では有りましたが、書き始めてからと言う物
作者自身も色々と考えさせられる作品と成り
更には応援コメントなども頂き、執筆の励みに成ったりと
作者に幸せを呼び込む作品の一つと成った様に思います。
さて……本作は一度、終わりを迎えますが
幾許かの刻が過ぎ……また、神が
私達人間の願いを聞き届けて下さった刻、本作はきっとまた舞い戻ります。
その“刻”を、作者自身も心待ちにしつつ……
2023年8月6日 藤次郎