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第2話 紫崎 美咲の一日

あの時の悪夢を見て、あいつが私の首をつかんだあたりで目が覚め、私は自身が泣いていることに気付いた。枕元にある紐を口で引っ張り、鈴をちりん、と鳴らす。


5分もたたないうちに執事である元黒が飛んでくる


コンコン


「入って」


声が震えてしまった。


「失礼します。」


元黒が扉を開け部屋に入ってくる


「涙の跡がありますが、どうか、なさいましたか?」


「少し昔の夢をみただけよ」


「っ!さようですか。申し訳ありません」


いつのことなのか気付いた元黒が謝るが、別にあの時のことは元黒が悪いわけではない。


「謝らないで?あなたは何も悪くないのだから」


そう私が言った後も過去にとらわれてしまっているようなので、次の行動を促すことにした。


「それより、着替え」


「!はい、失礼します。」


元黒は私のベッドに上り、濡れタオルで私の顔をぬぐう。その後、パジャマの上着のボタンを外し、脱がせる。次に、腰に手をかけ、壊れやすい磁器を持ち上げるような優しい動作で私の腰を上げ、ズボンを脱がせる。いまだに少し気恥しい。その後、部屋のクローゼットから明るい紫色のワンピースを取り出し、私に被せ、首元のボタンを留め、私を持ち上げ、ベッドの横にある車いすに運ぶ。


「ん。ありがと」


「いえ、職務ですので」


元黒に車いすを押され洗面所に移動し、口元に近づけられた水の入ったコップで口をゆすぎ、差し出されたうがい受けに吐き出す。その後、「歯を磨きますので口を開けてください」と声をかけてきて、私の歯を磨く。口の中を見られるというのも少し恥ずかしいが、表情に出さないように気を付ける。歯磨きが終わり、また口元に近づけられた水の入ったコップで口をゆすぎ、差し出されたうがい受けに吐き出す。


歯磨きの後、元黒に押され食堂まで運ばれる。


食堂に着くと、七海先生が食事中だった。


「お?美咲ちゃんおはよー。今日は早いね~」


「おはようございます。七海先生。すこし、夢見がよくなくて早く目が覚めてしまいました」


「そうなの?安眠グッズ用意しようか?」


「いえ、大丈夫です。」


「ご歓談の合間ですが、失礼します」


気付いたら元黒は料理を配膳し終えたらしく、私を持ち上げ、椅子に座らせる。いつも思うが、この食堂は無駄に広い。最大でも2人しか同時に食事をとらないというのに。私が呪われる前までは、私は自力で父や母、そして父の方針でメイドたちともともに食事をとっていたのだが、呪いを解く手がかりを探すために父や母は海外を飛び回り、不要となったメイドたちは親戚の家に雇用先を移すこととなり、今この屋敷にいる私以外の人物は私の元黒と七海先生だけである。


どれを食べるか元黒に指示を出しながら、食事を摂る。


そんな時間が40分ほど経過し、食事が終わると元黒は食器を片付け、去る。この後は、七海先生との勉強の時間だ。



11時、勉強が終わり元黒が昼食を運んでくる。


朝食同様昼食も済ませ、元黒が食器を片付けると、軽く食休みの後、勉強を再開する。


3時、集中が切れてきたころ、七海先生が立ち上がり、ちりん、と私の頭をぶつければなる距離につるしてある鈴を鳴らす。


少しするとお茶の用意を持った元黒が来て、配膳をし、私に紅茶を飲ませ、今日のお菓子であるスコーンを食べさせてくれる。


その後、勉強を再開したのだが、しばらくすると明日の誕生日のことが気になって集中できていないことを見抜かれたのか、七海先生が、「元黒には内緒よ?」とインターネットを使って、「手を使わずにスキルルーレットを回してみた」という動画を見せてくれた。その動画では、足やお尻、頭、舌など様々な部位を使って回していた。とても不格好ではあるが、私が自力で回すことも不可能ではなさそうと考えると、参考になる。


時間が過ぎるのも忘れて動画を見ていると、夕食の時間になっていたらしく、夕食を運んできた元黒が七海先生をにらんでいた。先生ごめんなさい。


夕食が終わると、いつも心臓の動悸が元黒にばれないか、恥じらいが顔に出ていないか不安になる風呂の時間である。


まずワンピースのボタンを外し、脱がせる。この時点でドキドキする。その後、ブラのホックを外され、ブラを脱がされる。この時に、鼓動が早くなっていることがばれないか、不安になる


「失礼します」と声をかけられ、パンツを脱がせられ、持ち上げられ、風呂場の鏡の前にあるシャワーを浴びせる用の椅子に座らせられる。


どんなに時間が経っても慣れぬであろうドキドキをごまかすために、話をすることにした。丁度明日であれから1年だ。あの話題を、すべきだろう。


「ねぇ元黒」


「どうかなさいましたか、お嬢様」


「明日で、あれから1年になるのね。」


「っ!そう、なりますね」


「ねぇ、あなたはまだ責任を感じているみたいだけれど、私はあなたを恨んではいないわよ?」


「・・・これ以上何もしないでいると、風邪をひいてしまいます。シャワーを開始しますよ」


「もう・・・」


髪にお湯がかけられ、髪を洗われる。沈黙に耐え兼ね、小粋なじょーくをはさむも、


「あー、もっと左。」


「パーマ屋ではありません」


「むぅ」


あっさり流される。でも、言った通りのところを洗ってくれる元黒はなんだかんだ言ってノリがいい。


その後お湯が流され、1日で最も緊張する時間が到来する。背中にぬるっとしたものが触れる。変な声が出るのを耐え、何も話さないと変なことを想像してしまいそうだったので、顔色一つ変えない元黒をからかうことにした。


「ねぇ」


「どうかなさいましたか」


「手でもいいのよ?」


「非効率的ですので」


あっさり流された。半年前くらいは顔を真っ赤にしていたのに。


「むぅ・・・もう顔色一つ変えないわね」


「執事ですから」


「1年で随分と様になったわよねぇ。最初はあんなに顔赤らめていたのに」


「・・・昔は昔です」


そういうと、いきなり腕を伸ばし、前を洗い始めた。


「キャッ、くすぐったいじゃない。いきなり前を洗い始めるのはやめてよね。」


「・・・その手には乗りませんよ?」


割と本気だったのだけれど、からかいの一環だと思っているようだ。その思い込みに乗ってごまかそう。


「むぅ・・・ちょっとくらい表情変えてくれたっていいじゃない。」


「・・・明日は、お嬢様の15歳の誕生日ですね。」


そうだ、あの話題があった。


「そうねぇ。でも、ルーレットどうやって回しましょう?」


「回すという意思があればボタンを押す必要はないそうですよ」


えっそうなの?


「あら、そうなの?よかったわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もの、どうやってルーレット回すか考えていたのよ?こう、舌を使って、とか」


「とても間抜けに見えますのでおやめください」


間抜けってひどくないかしら?それに、真正面から私の体の全てを見ているのに、少しも顔色を変えないのは・・・少しむかつくわ。


「・・・ねぇ、足を洗う時に私の正面に来ても全く顔色かえないのはさすがにどうかと思うわよ?」


「執事ですので」


絶対違うと思うのだけれど、私は執事じゃないしわからないから何も言えなくなってしまった。


そんな私を気にせず元黒は細部まで洗う。変な声が出るのを抑えながら、終わるのを待つ。


その後、元黒は私の体を流し、洗顔をし、私を浴槽に入れる。お姫様抱っこのような持ち方をするので、ドキドキしてしまう。


それにしても、私を浴槽の中に入れて、数十分微動だにしないのはどういうからくりなのだろうか?


「ねぇ、いつも思うのだけれど、私を数十分風呂に入れている間ずっと腕だけで支え続けるのってきつくないのかしら?」


「執事ですので」


「うーん・・・執事とは何ら関係がない気がするわ」


絶対違うと思うのだが、私は執事ではないので何とも言えない。


数十分が経過し、元黒は私を風呂から上げ、備え付けてある椅子に座らせ体を拭き、ブラとパンツを着せ、髪を乾かし、寝巻を着せる。とても恥ずかしい。この赤らみは入浴したからだと思ってくれるだろうか?元黒は私に「失礼します」と声をかけ、車いすに乗せ換える。


そのあと私は大好物の葡萄ジュースを大人ぶってワイングラスに入れて飲ませてもらい、歯を磨いてもらい、自室に運ばれる。


元黒に抱き上げられ、ベッドの真ん中に置かれ、毛布が掛けられる。


「お休みなさいませ」


「おやすみ~」


全く眠くないのだが、私が寝ないと元黒は何もできないため、私が寝た2時間後くらいに寝ることができる元黒を少しでも長く寝かせるため、ベッドに入るのだ。


いつも通り今日あった出来事に悶々としつつ、体を自分で動かせないことをもどかしいと思いながら、明日のスキルルーレットで念動や飛行を得、思い通りに動くことを思い浮かべながら、眠る。


私はあの男に首をつかまれていた。


痛い。いたい。イタイ。


私の首からあの男の手が離れると、体に力が入らない。


「けほっ」


「さて、時は満ちた。そして、贄としてふさわしい、女の用意ができた。今こそこの世界にあのお方を招くとき!」


あの男は、そう言い、私を蹴とばす。


「うっ」


あの男は、


「いあ!しゅぶ=にぐらす!森の黒山羊にかりそめの肉体を!宿り給え!」


と、よくわからない呪文を唱え、私のほうに腕を伸ばす。


すると、私の下に書いてあった魔方陣が光りだした。


・・・何も起こらない?


「ふはは!この母体に種付けをし、子を産ませれば、その子こそが大いなる力を宿す支配者となるだろう!」


何を言っているのだろうか、この男は。


そう思っていると、扉が勢いよく開き、年上に見える、私をさらってきた少年が入ってくる。


「ふざけるな!ディル、我を謀ったのか!その少女が不治の病に侵されていて、それを直すためにさらってくるように、と言ったのではないか!」


「ふん!今更気付いたか!だが、もう遅い!儀式は終了した!あきらめるがいい!」


「ふざっけるなぁ!」


そう言い、少年が闇であの男を攻撃する。


「ふはは!効かんな!我に闇は効果をなさぬ!そして、ここはスキルを用いない攻撃が一切できない特殊ダンジョンのBOSS部屋だ!ダンジョンボスを拘束して安全地帯にしているのさ!そして、武器を没収している貴様に我に抵抗するすべはない!」


「っく!なめるな!触手展開!鎖術!」


「ぐっ、なに!?黒宮、貴様、奥の手を隠していたか!だが、我に勝てると思うな!」


戦闘は激化し、少年は地に伏した。


「はぁ、はぁ、なかなかてこずらされたぞ。だが、我の勝利だ!」



あの男が、私に近づいて来る。先ほど言っていた言葉通りなら、私は犯されるのだろう。抵抗したいが、体が動かない以上、何もできない。


あぁ、私は無力だ。


その時、ドン!という音とともにいつの間にかしまっていた扉が開く


「通報があったから来たのだけれど、指名手配されているダンジョン犯罪者が2名。謀られた?でも、片方は倒れてる・・・」


その時、少年が起き上がり、親指を下に向けた左手をあの男に向けながら、


「ディル、タイムオーバーだ。俺の勝ち。地獄に落ちやがれ」


と言った。


あの男はまだ新たに入って来た女性から目を離せないでいる


入ってきた少女が、


「声的に、通報したのは怪盗クロとやら?もともと義賊のようなことをしていたにもかかわらず少女を攫い、指名手配されたと聞いたけれど、よくわからないことばかりするわね。」


ようやく現実を受け入れたのかあの男が


「くそが!黒宮め!ここに覚醒者を呼び込むとは!だが、ここは我、ディル・バンパイアの領域だ!我が深き闇に飲まれるがいい!」


闇が少女を飲み込もうと迫るが、少女は微動だにしない。


おいで(ニーズヘッグの牙)


そう、少女がつぶやくと、少女の手には大きな鎌が握られており、大きくそれを振るうと、闇は消え去った。


「なっ!魔法を切るだと!ありえん!」


「レベルが500をようやく超えたばかりの赤子程度の魔法が、(最初の覚醒者)に通用するわけがないでしょう?切り裂け(くらい尽くせ)大鎌(ニーズヘッグ)


そういった直後、あの男は下半身だけとなっており、少女は何も持っていなかった。


「さて、この後始末をどうすべきかしら」


「おいおい黄泉さん、また派手にやったねぇ」


「!ヴィドさん。何でここに?」


「あぁ、黄泉さんが追ってる相手が、覚醒者と、その前まで至っている少年の二人組って聞いたからな。さすがに荷が重いかと思ったんだが・・・不要な心配だったようだ」


「んーん。私が来た時には、クロのほうは地に伏してた。多分、仲間割れ?まぁ、今から切り捨てるから関係のない話。」


「ま、まってください!」


「ん?被害者の攫われた・・・美咲ちゃん、だっけ?なに?」


「あの、その少年、クロさん?は、悪い人じゃないと思うんです!なので、見逃してもらえませんか?」


「・・・そう。被害者のあなたがそう言うなら、見逃しましょう」


「おいおい、いいのかい?次のミスがあったら俺のチームに入っておとなしく上の言うことを聞くって・・・」


「ぁ・・・まぁ、仕方ない。吐いた唾は吞めぬ。でも、今の国家に縛られたパーティーは嫌だし・・・そうだ、ヴィドさんがチームごとデストロイヤーに来て?」


「えぇー・・・仕方ないなぁ・・・」


よくわからないけれど、私も、あの少年も助かったのかな?


意識が遠くなる


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