第1話
私の母親である聖羅は、由緒正しい草薙流剣術を世界で唯一伝承し続けている道場、草薙道場の跡取り娘であり、私の父である修三は草薙道場に通っていた門下生で最強であり、母と相思相愛になり、
「私が草薙流を継ぐので娘さんをください」
と祖父である草薙 神羅に頼み込み、
「儂より弱い奴に娘はやらん」
と言われ本当に剣で打ち勝ち、草薙道場を受け継いだ剣士である。
草薙道場は、皇居の守護に携わったこともある由緒正しい道場である。
それゆえ、この世界にダンジョンなどというものが出現し、銃火器をもちいずに攻略する、という事態になった際真っ先に声をかけられたのは私の父であった。
わが父は、法が定まるまでの間、公務員扱いでダンジョンに入り、法成立後は魔法省ダンジョン課の課長となり、常に最強と呼ばれていた。
1年が経過し、幾人かの英雄や王と言われる者たちが民間から出てくるまでは。
英雄や王と呼ばれる者たちが現れ、最強の名を失った後の父は、私を厳しく鍛えるようになった。
私に最強の呼び名を取り戻させようとしたのだ。
当時の私はまだ14歳で、スキルを得ていなかったがゆえに、身体強化のスキルを持っている父についていくことなど当然できず、血反吐を吐きながら訓練をする毎日を送っていた。
血反吐をはこうとも、骨が折れようとも、父が口にねじ込んでくる赤い液体を嚥下するとたちまちなおり、再び訓練は再開される。
それはまさしく、地獄としか言いようのない時間だ。
何度も何度も地に伏し、時には模擬刀ではない、本物の刀で切り伏せられ、
「痛みに強くなれ」
などと言われる。
そんな日々を半年ほど過ごし、心が砕け、機械のように言われた通りの行動のみをするようになった。
クラスメートたちの話題にはついていけず、学校では孤立し、「私には剣しかない」という強迫観念に憑りつかれ、剣を愚直に降り続けていたある日、訓練時間は私と父しかいないはずの道場の扉が開き、青い服と青い帽子をかぶった男性が入ってきた。
当然父が、「何者だ!」と問うが、その男はへらへらと笑っているだけで、何も言わない。
父は、その様子を見て、ただの不法侵入者として警察に突き出すことにしたようで、電話で、
「うちに不法侵入者が訪れたようだ。引き取りに来てくれ」
と警察に伝えていた。
私のすぐ横で電話をかけていたので、
「わかりました。警備が厳重な草薙道場に不法侵入するという不思議な存在ということですので、我々の中で最も腕が利く者を向かわせます」
と言っているのが聞こえた。
そのすぐ直後、不法侵入者からアラーム音が鳴り、不法侵入者はスマホを取りだし、どこかと会話し、電話を切る。
しばらく待っても警察が来る気配がないため、父は不審に思ったのか、もう一度電話をかけた。
また、不法侵入者のスマホが鳴り、何事かを会話した後に、電話を切る。
そして父はいきなり目を見開き、
「なぜ今まで私は気付かなかった?貴様、警官ではないか。警官が不法侵入とはどういうことだ!」
と言った。
言われてみれば、警官である。
するとようやく不法侵入者は口を開き、
「俺は信太郎。皆俺のことをしんと呼ぶ!不審者を見かけて電話をすれば不審者から電話が鳴る、それに違和感を持たなかったか?私がこの辺りで最も腕の利く警官だ!」
と言い放った。
「だから何だというのだ!貴様がわが家に不法侵入する理由にはなっていないぞ!」
「貴様が子に虐待をしているという話を聞き、暴行罪で逮捕しに来たのだ!観念してお縄につくがいい!」
「な・・・我が家のことに国が口をはさむな!」
「それが通用するわけないだろう!ここは法治国家日本だ!」
そうしんが言った直後、父が切りかかり、しんは真っ二つになった。
と、思った直後、私は誰かに抱きかかえられ、
「大丈夫かい?もう大丈夫、俺が助けに来た。」
と父に真っ二つに切られたはずのしんに言われた。
その後、父は何度も切りかかったが、しんに通用することはなく、父は暴行罪で逮捕されることとなり、私、いや、俺は平穏な日常を取り戻すことができた。
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緑川の日記「誕生日」より抜粋
後になり、当時のことを考えると非常識的なことだと認識できるが、俺は日常だと信じて疑わなかったし、あのしんという男が来なければまだその生活は続き、今もなおその中にいたと考えれば、しんに対して感謝の念しかないのだが、しんが俺の父を倒し、俺を再び抱き上げたとき、
「生JCのにおい」
とボソッとつぶやいたことから不信感を抱いたし、その直後我が家に訪れた金髪の若い男に
「んの変態が!ついに手を出しやがったな!」
と顔をたたかれているのを見て、やはりあれは変態と呼ばれる生き物だったのだと確信し、幻滅もした。
だが、あの男が俺を助けてくれたことは事実であったし、あの発言までの間、かっこいいと思っていたことは間違いない。
それに、俺の初恋の相手は、あの人なのだろうとも思った。最初抱きかかえられたときはドキドキしたし、この人のことを知りたいと思った。
だが、変態であるということは知りたくなかった。初恋は儚いといってももう少し、どうにかならないものだろうか。
そんなことがあった2か月後の2017年4月5日、俺は15歳の誕生日を迎えていた。
15歳というのは、2年ほど前から特別な年になったので、俺は、起きるとすぐにルーレットを回すことにした。幸い、動体視力には自信があったため、最初のスキル数は8を得ることができた。10を狙って取れるのは化け物だろう。
その後、スキルの星数のルーレットも順調に回し、5が3個、4が2個、3が3個という結果になった。その後のステータスがこれである。
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Name)Midorikawa Sinra
Sex)♀
number)969382729838
Lv)1
Rank)1
Party)empty
Pro)なし
HP)11
MP)11
SP)11
Atk)F+
Vit)F+
Tec)F-
M・Atk)H
M・Vit)F+
M・Tec)I
Agi)G-
Stm)H
ECL)8
Luck)52
Skill)☆5身体強化Lv10(Atk,Stm)
☆5飛行Lv10(Tec,Agi)
☆5精神無効(Vit,M・Vit)
☆4衝撃耐性Lv8(Vit,M・Vit)
☆4斬撃耐性Lv8(Vit,M・Vit)
☆3剣術Lv6(Atk,Tec)
☆3抜刀術Lv6(Atk,Tec)
☆3幻覚魔法Lv6(M・Atk,M・Tec)
【ランキング】
【マップ】
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見事にトラウマとその後のしんの姿がそのまま反映されたようだ。
儚く散った初恋が、この先の人生に影響を及ぼすというのも粋というやつなのだろう。
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俺は入手した力を用いて、ダンジョンに挑むことを決心した。
父が逮捕された以降、他の名家には煙たがられ、疎遠となり、親戚には一族の名を穢したとして俺と母、妹は絶縁ざれ寄る辺はなくなったし、働く者がいないため資産は減っていく一方であった。
父と離れ心が死んだ母は頼りにならないし、妹にきちんとした教育を受けさせるためにも俺が頑張らなきゃいけない。
そう思っていた矢先、ダンジョンに挑むに不足しないスキルを得ることができたのだ。ダンジョンに行き、金を稼ぎ、力を示し、名家や親戚たちを見返すためにも、俺が頑張らなくてはいけない。
その為には、安全など考慮している暇はない。義務教育を受ける中学生という身分である以上、時間的制約は存在する。よって俺は、I級やH級を飛ばして、現状はいることのできる中で最も難易度の高いG級に挑むことにした。一瞬、一番下から挑む必要性がないことを管理者に感謝したが、そもそもダンジョンが出現しなければこんなことにならなかったと思い直し、やめた。
最寄りのG級ダンジョンは、屋敷のある鳥野山の北にある鮮色駅付近にある小鬼ダンジョンだ。F級より上はB級まですぐ近くの鳥野山にあるので、小鬼ダンジョンを踏破した後は、ダンジョンに挑む時間を増やせる。速攻で小鬼ダンジョンを踏破すべく、家にある刀を背負い、稽古の時に身につけていた道着を着て、空を飛んだ。
空を飛ぶという行為は、スキルを得る前にやったことなど当然ないのに、いたって自然にできた。これがスキルの力というものなのだろう。
35分ほど飛び続け、駅に着いた。飛行というのは気持ちがいいが、車より早いということはなかったのは残念だ。早く着けばつくほど攻略にかける時間が増えるというのに。
俺は、小鬼ダンジョンの中に入った。まず感じたことは、思っていたより明るいということだった。洞窟の中にしか見えないのにもかかわらず、晴天の日の昼間ほどの明るさを保っている。洞窟が明るいということに違和感はあるものの、敵が見えなくて不意打ちを食らう、ということはなさそうだった。
数分進むと、最初の分かれ道にたどり着いた。
・・・これは、どちらが正解なのだろうか?G級以下は道が固定なため地図が安く売られているということは知っていたが、侮り、金がもったいないからと買わなかったことが仇となった。これでは、時間もかかるし狩る数も減ってしまうだろう。大損だ。
仕方がないので、1度戻ることにした。
戻る途中、奥に向かう男性2人組に出会いその片方が話しかけてきた。
「こんにちは。ところで君、まったく汚れてないけど、もう帰るのかい?」
「こんにちは。地図を買い忘れてしまって、買いに戻るところなんです。」
「あ、そうだったの?俺ら地図ちゃんと持ってるし一緒に行く?」
この誘いに乗っていいものだろうか。誠実そうに見えるし、初攻略のため力ある冒険者とともにいけるというのは、利点があるが・・・
「すみません、俺、ダンジョン初めてなので迷惑をかけてしまうかもしれません。なので、遠慮させていただきます。」
「俺・・・?あ、いや、初心者とか気にする必要はないよ。誰にだって初めてはあるんだし、こいつも初心者だからな。初心者が1人でも2人でも変わらないさ。初心者だからモンスター狩りたいっていうなら大歓迎だしな」
「・・・では、お言葉に甘えて同行させていただきます。」
先ほど引き返した分かれ道にたどり着いた。
「ここは左だぜ」
なるほど。覚えておこう。頭に入れておけば次回以降も地図なしで挑むことができる。
ゴブリンと戦いつつ歩くこと数分後、また分かれ道に着いた。
「次も左だぜ」
左、左、と。
さらにゴブリンを切り伏せつつ進んでいくと、左に曲がる道が見えた。常に左に行き続けるだけなのだろうか?
「この先が目的地だ。」
「やっとか。待ちわびたぜ。」
目的地?階段のことだろうか。それに、待ちわびたとは一体?10分ほどしか経過していないし、出たモンスターは私がすぐ切り伏せた。
「この先だぜ。開けてみるかい嬢ちゃん」
と初心者ではないほうの男性が扉を指さす。
「よろしいのですか?では」
そう言い、扉を開けようとした瞬間、背中に何かが当たり、ばちっという音とともに俺の意識は飛んだ。
「まさかここまでうまくいくとは思わなかったな。」
「あぁ、あまりにも無警戒過ぎて警察の調査かと心配したが、初心者そのものだったしな。」
なにか物騒な会話をしているのが聞こえる。
「にしても、最近で一番の上玉じゃないか?俺とか言っている変な娘だが、体つきはそそるしな。」
「俺に先にやらせてくれよ?前はお前が先だったんだから。半分壊れかけてたぜ」
「っち、しゃーねぇなぁ。前回譲っとけばよかったぜ。」
「へへ、にしても、不用心だよな、こいつ。全く関係ない、人があまり来ないカス宝部屋に誘導されてるなんて露程も考えてなかったようだぜ。」
「なんだって!」
俺は飛び起きようとしたが、腕が後ろに回され縛られているようで、動けない。
それに、道着が脱がされ、さらしとパンツになっている
「お?気が付いたようだな。へへ、お前は騙されたんだよ。そんなかわいい顔してるのに不用心なのが悪いんだぜ?」
「おいおい、好みじゃなくてもよっぽどじゃない限り騙してやってるだろうが」
「はは、それもそうだったな。」
唖然として、何も言葉が浮かばない。
「ま、恨むならダンジョンを恨むんだな」
そういい初心者と言っていた男が私に手を伸ばして来て、さらしに触れる寸前で、
「これ、どうやって外すんだ?」
「俺もわからねえ。切るか?」
「そのほうが早いかもな。」
「その前に、あれ飲ませようぜ。」
「お、そうだな。効果が出てから、剥くのもよさそうだ」
そう言い、私の顔を片手で固定し、もう片方の手で謎の小瓶を取り出し、私の口にねじ込む。
「うぐっ」
抵抗するが、ステータスの差があるせいか、動かない。
「へへ、それが何なのかはしばらくすれば効果が出て分かってくるからなにもいわねえぜ。せいぜい恐怖するがいいさ」
「相変わらず悪趣味だなぁ。」
「お前には言われたくねーよ。毎回壊す癖に」
男たちは笑いあっている。口ぶりから察するに、このようなことを何度もやっているのだろうか。
恐怖しつつも、数分が経過した。
体が熱い。
「お?肌が赤らんできたし、効果が出てきたか?」
「はぁ、はぁ、なに、これ、はぁ、しらない。こんなの、わからない」
「お?未経験か?らっきぃ。へへ、んじゃ、いただきまーす」
そう言い、男の手がぶれたと思うと、さらしが切り裂かれ、胸があらわになった。恥ずかしい。とても、恥ずかしい。
「ひゅーう。見た目よりあるじゃん。いいねぇいいねぇ」
男が私に手を伸ばしてくる。いやだ。
「だれか、たすけて」