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第2話

ふと目が覚めると、カーテンから光が差し込んでいる。

時間は限られているのに、寝すぎてしまった?そう思い、時計を見ようとする。


・・・ん?時計がない?というか、ベッドも違う?・・・部屋自体が違う?


「知らない天井だ」


そう思わずつぶやく


「あはははは!まぁ、知らない部屋というのはあっているけれど、余りにも不用心過ぎないかな?知らない部屋にいるのにのんきだねぇ」


「!?だれ!?」


「ん?あぁ、私はクランデストロイヤーのクランマスター、駆逐だよ。忍びにさらわれ妖怪に追われていた君を確保したのだが、家が分からなかったものでね。クランハウスに寝かせておいたのさ」


そう言い、駆逐は窓を開ける。


驚いたし、信じていいのか不確かであるが、窓から鳥野山と、その下にある屋敷達が見える。角度的に、ここほど高い物件はこの区にデストロイヤーのクランハウスだけだ。デストロイヤーの関係者ということは間違いないだろう。そして、クランの中でクランマスターを騙るなどという阿呆なことをする人はいないだろう。いるとすれば、本人の許可を得ての行動か?で、あれば、あの化け物について話すべきだろうか?


「うん?どうしたんだい?そんなに見つめて。たらしのヴィドさんじゃあるまいし、俺の顔を見ても楽しいことはないだろう?何か言いたいことでもあるのかな?」


「あ・・・えっと・・・その・・・」


言うべき、だろう。


「うん?なんだい?」


「その・・・明日、化け物がこの区に現れるって言ったら、信じてくれますか?」


「うん?化け物?」


「はい。」


「それは、どういう?姿だい?」


「触手のようなモノがいっぱい生えていて、大きな口があって、短い足が生えてる肉塊みたいな存在です」


「うーん・・・ローパー系のモンスターが溢れるっていうことかな?それとも、そういう妖怪か何かが復活するのか・・・まぁ、安心したまえ。今この区には、並大抵の存在であれば容易く、下手すれば神すらも下し得る戦力が集まっている。その化け物がどのような存在なのかはわからないが、どうとでも」


甘く見られては、困る。その慢心のせいでまたやり直しになってしまっては、次この世界線に来るのがいつになるのかわからない。今回でどうにか終わらせたいというのに・・・


「その存在が、えーすさんであろうと敗北する存在だとしても、ですか?」


「うん?それはどういうことだい?うちの”不敗”が敗北する?そんな存在が、私たちの知ることなく存在していて、この地に現れる、と?」


他の世界では”最強”と呼ばれていたえーすさんが、この世界線では”不敗”と呼ばれているのだろうか?


「そういうことになりますね」


「あり得ない。断言しよう。我らには未来が分かる存在がいるんだ。そのような出来事が起こるのであれば、事前に」


わかる、そう駆逐が断言しようとした。その瞬間、空間がゆがみ、巫女服の少女と蒼い髪の男性が現れる。


「駆逐さん!大変!未来が読めなくなった!」


「え?それは・・・大変な事態としかいいようがないじゃないか!原因は!?」


「昨夜、駆逐さんに妖怪について話した後、今夜から丸一日開催する宴会の際に誰が飲みつぶれてしまうのか確認し、事前に放り込む用の家直通の空間を開けるために見てもらっていたのですが、夜12時に倒れてしまいまして。つい先ほど、目覚めたときの第一声が、不意に、真っ暗になった!と。なにかが起こるきっかけが生じた可能性があります。」


「むむ?どういうことだ?」


どうやらこの少女が未来が分かる、と言っていた根拠らしい。というか、私が能力を得た後ということは、もしかして、私が引き連れているのだろうか?私が原因であの化け物が現れる?


「なぁ、橙木アゲハちゃん。君には聞きたいことがあったんだが、そんな暇がなくなってしまったようだ。」


「待ってください!その原因は、私が言っていた化け物かもしれません!」


「ほう?なるほど、あり得ない話ではない。だが、そもそも、君はなぜそのようなことを知っているんだい?その化け物とやらを召喚しようとしている者達の一味で、裏切った、という風に考えるのが自然なのだが、どうしても腑に落ちない。君は、何者だい?1夜にして現れた覚醒者にして、名を保持する者よ。」


一気に言われて、よくわからない。でも、私が何者なのか、答えればいいのかな?というか、名前と私が覚醒者の条件を満たすスキルを得ていることを知られているということは、鑑定されたのかな?


「駆逐さん!その娘、混乱しちゃってるよ!まだ子供なんだから!」


「あ、あぁ、俺としたことが焦ってしまったな。申し訳ない。それと、君の情報については、鑑定させてもらった。」


やっぱり鑑定だった。でも・・・


「鑑定したならスキルを見ればわかるのでは?」


「うん?もしかして、知っている理由はミソロジースキルにあるのかな?ミソロジースキルがどんなスキルを内包しているのかは、鑑定ではわからなくてね。」


そういうことなのか。


「では、お話しします。私は、何度も何度も何度も何度も、この2日間を繰り返し、あの化け物に殺され続けているのです。」


「うん?繰り返す?もしかして、時間遡行?でも、時間遡行の本人に自覚があるはずはないんだが・・・」


そう、本来であれば、このようなことが起こるはずはない。


「時間遡行ともう一つのスキル、記憶力強化から進化する完全記憶の影響で、本来遡行すれば忘れるはずの記憶を保っているのです。」


私の言葉を聞き、駆逐さんは頷き、そして首をかしげる。


「なるほど・・・では、ミソロジースキルを持っている理由は?遡行してもレベルは保持されないはずだが・・・」


「それは私もわかりません。今までこのようなことはなかったので・・・」


「なるほど。巫女姫に未来が見えない、そして時間遡行・・・ふむ、先ほどの話に信憑性が・・・」


「さっきの話?」


「えーすさんが勝てない化け物がこの区に現れるっていう話をされたのだがね・・・未来が分かるからあり得ない、と言おうとしたタイミングで君が来たのさ。」


「ふぇ?」


「もしかして、他の未来視能力者が現れたから世界にお役御免されたんじゃないですか?あまりにもポンコツ過ぎて」


「はぁ!?ポンコツじゃないし!」


こういう関係性、いいなぁ・・・って、そんなことを言っている場合じゃない。


「すみません、ディルが、今どこにいるかわかりますか?」


「うん?今は午前11時で、ディル・・・というと、この間この区で暴れたあいつかい?あいつなら死んだよ?」


あの化け物以外が殺すのは不可能なのではないか、そう思うほどの存在が死んでいる?で、あれば召喚される理由がないはずだけど・・・


「その、あの化け物を召喚したのが、今までの世界線では必ずディルだったんです。でも、もう死んでいるのなら、未来が見えない原因は今回の件とは関係ないのかも・・・」


「ふむ、ちょっと待ってね。詳しい人に連絡を取る。」


プルルル、という音がしばらく鳴り、ピ!という音とともに何か会話をしているようだ。


「あ、元黒君、駆逐だけど、今良い?ありがと。その、思い出したくないかもしれないけど、ディルが信奉していた存在が何なのかわかる?”シュブ=ニグラス”・・・なるほど。ありがとう。え?なに?シュブ=ニグラスの親である”闇”、そしてその親や兄弟である”アザトース”、”無名の霧”、無名の霧の子である”ヨグ=ソトース”も信奉していた?ありがとう。助かったよ。」


ピ!という音とともに、電話が終わる。


「どうやら、ディルが信奉していた存在は”シュブ=ニグラス””闇””アザトース”、”無名の霧””ヨグ=ソトース”の5柱のクトゥルフ神話の存在らしい。そこに、触手、大きな口、短い足が生えた肉塊ってなると・・・」


「シュブ=ニグラス、ということになりますが、そうなるとどうしようもありませんね」


「うん?深海さん何か知ってるのかい?」


「えぇ、まぁ・・・本当にその存在が神話のままのシュブ=ニグラスであるのであれば、他の存在に比べれば比較的安全と言えるかもしれませんが、人間が戦える相手ではないでしょう。たとええーすさんといえども、瞬殺の可能性すらあります。」


一呼吸おいて、深海さんと呼ばれた男性が話を再開する。


「で、あるのであれば、ナニを他の世界線のディルは呼び出したのか、ですが、過去、ディルはシュブ=ニグラスを少女に降ろそうとしていたのでしょう?つまりその少女が見てきたのはその延長線上、もしくは、成功した世界線ではないでしょうか?そして、この付近に黄泉さんがいないとは考えられませんし、もしかするとえーすさんが日本最強の世界線なのかもしれません。」


シュブ=ニグラスを降ろそうとしていた、もしくは降ろした世界線。なるほど。


「はい、他の世界線では、えーすさんが世界最強でした。そして、その・・・シュブ=ニグラスを降ろそうとされた少女というのは、どなたなのですか・・・?」


駆逐は言っていいものなのか悩み、口を開く。


「うーん・・・まぁ、言って他の世界線でどうなっているかを聞くしかないか。紫崎美咲君だよ。君の同級生の。」


紫崎美咲?そんな人間、()()()()()()()()()()


「すみません、知らないです」


「えぇ?鳥野山に屋敷を持っている、今年3-2に編入した空飛ぶ少女だよ?」


「・・・あ、この世界線の記憶では、存在している。異なる点の一つ・・・?」


「紫崎家について、何か知らないかい?」


重要なことであると思うので、記憶を手繰る・・・思い出した。


「紫崎家というと・・・大企業の会長・社長一族の、ですか?」


「うん?いや、金持ちではあるが、そのようなことはないが・・・もしかすると、根本的な何かが異なる世界線なのか・・・?」


根本的な何か・・・?


「そういえば、私がここにいる理由って、忍び装束の人間にさらわれて、妖怪に追われて、でしたよね?忍び装束の人間はわかるのですが、妖怪とは?空想上の存在では?」


「・・・うん?もしや・・・君、ダンジョン解放連盟って知っているかい?」


今朝調べた内容だ。確か、他の世界線では聞いたことがない。


「この世界線に来て初めて知りました。」


「なるほど。わかった。」


何が分かったのだろうか。世界を変えるほど大事な要素がなかったのだろうか?


「君が来た世界線には、ダンジョンができる以前の時代に、魔力が存在しない!」


言い方的に、この世界線では、ダンジョンができる前から魔力が存在していたのだろうか?


「魔力、というと、魔石から抽出されるエネルギーですか?ダンジョンが生まれる前から存在していたのですね・・・」


私の言葉に駆逐は少し首を傾げ、訂正する。


「正確に言えば、ダンジョンのような存在が過去に出現したことがない、が正しいのかな?この世界では過去に出現したことがあるけど、君が記憶している世界では、存在しなかった」


私が記憶している世界、その言い方に引っかかるものを感じた私は、考えてもわからないので尋ねることにした。


「私が記憶している世界、とは?」


「あぁ、その、ね?あんまり驚かないでくれよ?気を強く持ってね?」


「は、はぁ・・・」


「君多分この世界線に類似した、古くから魔力が存在した世界線にも来たことがあるよ。」


えっ?と驚く私をそのままに、駆逐は話しを続ける。


「記憶が戻ったその瞬間に妖怪に殺されてしまったがゆえに、記憶に残っていないのだろう。多分、レベル的にその回数が499回繰り返し、今回が500回目なのではないかな?となると、記憶している世界線の方が少ないし、魔力が過去からあった世界線が多数派かな?」


「ちょ、ちょっと待ってください!なぜそのような結論に・・・?」


私が困惑したまま、駆逐は話し続ける。


「今現在、えーすさんより上とされている存在は多少なりとも過去からあった魔力の影響を受けているし、紫崎家も、関係者だ。それらがごっそりいなくなれば、えーすさんが最強であることに何ら違和感はない。むしろ、黄泉さんがおかしいんだ。人間じゃない。人間最強はえーすさんだろうよ。我々魔力関係者が異質なのさ!」


魔力についてよくわからないのだけれど、堂々と宣言した駆逐さんの後ろに紫色の髪の怖い顔をした少女がいることに気付いていないのだろうか?


「駆逐さん?誰が人間じゃないって?」

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