第3話
学長の名案、ではなく迷案の後修行の地で地獄を見ている私は、冗談じゃない、と思った。当然である。明らかに面倒ごとを内包しているであろう術を受け継ぐ?そんなことになっては、平穏な暮らしが失われてしまうじゃないか。私は家族と普通の暮らしをして、普通の人生を過ごせればいい。ダンジョン解放連盟に狙われていたから匿ってもらっていたけれど、首謀者以外が壊滅し、首謀者も国外に逃亡したのであれば気にする必要はないはずである。今後巻き込まれた際のため、普通の生活を実現するのに、ある程度の力を持っていても困ることはないだろう、と術を学ぶと言ってしまったのが間違いだったのだろうか。このような過酷な訓練だなんて聞いてな
「藍田君、意識が乱れてるよ。ちゃんと集中して。」
「す、すみません!」
運動が好きでじっとしていることが苦手な私にとって、この座禅という修行は一番苦手と言っても過言ではない。魔力を紡ぐための集中力を鍛えるとのことだったが、どうやっても集中ができない。他のことを考えてしまう。実際に魔力を紡ぐ練習や、体外に放出する練習は楽しいのだが、一番苦手なこの修行に多く時間が割かれることになり、実につまらない。この訓練では集中力を鍛えるために紡いだ魔力を体内で分解させずに循環させるというものだ。うっかり気を抜くと
「あっ」
「またかい、藍田君・・・せめて5分は持たないと、術を教えるわけにはいかないんだがね・・・」
別に持たせないようにしようと思って持たせていないのではなく、うっかり制御が甘くなっているだけである。
「そんなこと言われましたって、とっても難しいですよ!これ!」
「できなければ術を構成する以前の問題なんだよ。わざわざ紡げるようになったのに術を使えない、ではもったいないだろう?」
確かに、最初のあの不愉快感を経験したのになにも成果がない、というのは悔しいが・・・
「それはそうですけど、さすがに飽きちゃいますって・・・」
「うーん・・・仕方ない。循環させるんじゃなくって、身体強化に使う修行にしよう。」
術が使える?飽きてきたし、それもいいかな・・・
「え?使ったら循環の修行にはならないんじゃ・・・?」
「魔力による身体強化はね、動いたり、攻撃を受けたりしなければ魔力消費がゼロなのさ。維持コストがゼロ、というのが正しいかな?これで微動だにせず保ち続ければ循環と変わらないからね。」
つまり今後この瞑想はしなくていいと?
「なるほど!では、教えてください!」
「お、おう。元気だね・・・」
あれから2日経った5月7日、午後5時、私はついに、体内で魔力を循環させることに成功した。
「勝った、第三部、完!」
「こら、どこかに怒られるからやめなさい。そしてまだ序章です。それも序章の1話くらいです」
え?序章?これから?
「うぇ・・・マジですか・・・?まだそんな程度なの・・・」
「マジです。本来5歳ほどから始めて12歳で終わらせる約7年分の基礎修行とその後教わる他の術を、多少精神が成長して効率が良くなったからと言って1年足らずで、しかも学業と並列して済ませるのですから、この程度で音を上げてる場合じゃありませんよ。」
確実に7年分?うそでしょ・・・無理無理・・・
「べつに1年で済ませる必要はないんじゃないかなぁ~・・・なんて・・・」
「うん?藍田君は紫崎君と緑川君と同じく、鳥野高校ダンジョン課に行くんじゃないのかい?そう思って修行計画を立ててたのだけれど・・・」
「え?なんです、それ?」
「来年からできる学校で、緑川君と紫崎君が特殊入学をすると聞いていたからてっきり藍田君もそうなのかと思っていたけど、違うのかい?特殊入学者は2つのクラスで1つは術師、もう1つは術師以外って話だったし、あの二人と同じクラスになるためにある程度はできないといけないかな、と思っていたのだけれど・・・」
あの二人と同じクラスになれるのであれば、気楽で楽しい高校生活になりそう・・・ところで、特殊入学って何だろう?
「特殊入学、ですか?」
「あぁ、スキルの星数が20超えていれば無条件合格だって話だよ?」
「むむ、高校に勉強無しで入れるのは魅力的ですね・・・」
「うーん・・・やっぱり藍田君、怠惰だね・・・あと、高校に入った後、ダンジョンだけじゃなく普通に勉強もあるから勉強無しでは駄目だよ?中学範囲は義務教育だからね。」
私は怠惰ではない、ただ単に少しでも楽に生きることができればいいと思っているだけである。にしても、勉強はあるのか・・・ダンジョンに潜るだけではないのか・・・
「酷くないですかー?まったくもう。こーんなかわいい娘と何日も一緒にいて、出た結論が怠惰ですかー?あんまりですよ。よよよよよ・・・」
流石に怠惰呼ばわりは沽券にかかわるのでからかってみよう。どんな反応をするのだろうか?
「語弊を産むからやめなさい。何日も一緒とか、朝9時から夜18時までいるだけなのにまるで泊まり込みみたいじゃないか。」
むぅ・・・からかっても冷静でつまらない。
「こーんなかわいい娘と一緒にいて何とも思わないなんて・・・もしかして学長・・・」
「うん?」
「小学生にしか欲情できないロリコンですか!?それとも、男色ですか!?」
渾身の揶揄いだ。どんな反応するんだろう?ちょっとはうろたえるのかな?
「こら。そんなわけがないだろう?私は年上の方が好きなだけで、君みたいな小娘にそういう感情を向けないだけさ。というか、このことを知っているからこそ四変王達が私が弟子をとるって言った時に揶揄うだけで済んだんだよ。私の好みドストレートだったらガチで殴り掛かってきただろうね。はっはっは」
まるで私に魅力がないみたいじゃないか。デリカシーがない・・・
「そんなデリカシーがないことばっかり言ってると、年上のおねーさんに相手なんかされませんよーだ。それに、私が将来ぼんきゅっぼーんになってから後悔しても知りませんからね?」
「ん?あー、なんだ、その、もう半ば諦めてるからねぇ。それと、私が弟子に手を出したなんてなったらそれこそ殺されちゃうから可能性はゼロだね。だから後悔なんかしないさ。」
ふむ?別に好きな人がいるとかではないのかな?・・・ていうか、師匠と弟子って恋愛不可なの?それと、諦めてるってどういうことだろう?
「えっと、なんでです?お金持ちっぽいですし、権力もあるっぽいですし、土地も持ってますし・・・見た目の第一印象も悪くはないですから、ふつーにモテそうですけどねぇ・・・ご飯も美味しいですし、清潔感がないわけでもないし・・・もしや、なにか致命的な欠陥が・・・!?」
「んー、致命的な欠陥が無いとは言えないかな?恋愛対象になりずらいっていうことと、そもそも出会いがないっていう2つの致命的な、ね・・・男所帯だからさ・・・」
なるほど。そういう理由であればわからなくもない。
「私という出会いがあるじゃないですか!」
どや顔で言ったが。少し困った顔をするだけとはどういうことなのか。
「はは。さて、今日は少し早いが、習得成功したのだし帰って休みなさい。思っているより疲れている|だろうしね。」
誤魔化されているような気がするけど、確かに、少し眠い気がする。
「はーい。じゃぁ、また・・・学校で?」
「はは、私が学校で行動を起こすのは何らかの異常事態が起こったときだけだから、次の修行で土曜まで会わないことを祈るべきだよ」
そういって学長は私とともに転移魔方陣に乗り、起動させ、鮮色区に戻る。
「うん?これは・・・藍田君、すまんが今日は家まで送ることができないようだ。」
この間戦闘が開始する直前と同じくらい、学長の表情が真面目だ。
「へ?どうかしたんですか?」
「うん、まぁ、ちょっとね。じゃ、またね!」
あ、行ってしまった。
「まったく、本当にデリカシーがないんですから・・・」




