第1話
真っ暗な部屋の中に、座った1人の女性に見えるナニカと、1人の俯いた少女がいる。そして、男性が少女に話しかける。
「さて、藍田君。」
藍田、そう呼ばれた少女は、ビクッと肩を揺らし、返事をする。
「は、はい・・・」
その返事を聞いたナニカは、首を傾げ、藍田に尋ねる。
「どうしてこうなったのか、説明してもらおうか?」
その冷たい視線を受けた藍田は、少々躊躇い、小さな声で言う。
「それは、あの時、粕窪という方がロキを追いかけたものの他国との国境を越えられてしまったため追いつけず、学長と美咲ちゃんの呪いが解けなかったから、です。」
それを聞いたナニカは首を横に振り、否定する。
「いいや、違うだろう?君だって間違っているとわかっているんだろう?さぁ、観念して本当の理由を言い給え。」
藍田はまた、ぼそりと、つぶやく。
「わかりました。その後、私は事前に声を掛けられていたので、学長に弟子入りをすることになりました。他の2人も弟子入りを希望していましたが、美咲ちゃんは元黒さんに、森羅ちゃんは四変王の囃したて、ではなく煽り、でもなく推薦によりしんさんという方が教えることになりました。その為に、こうなってしまいました。」
それを聞いたナニカはまた首を横に振り、否定する。
「違うだろう、藍田君。それは間違いないしこうなったことに影響がないとは言わないが、こうなった主な原因は異なるはずだ。それに、なってしまいましたとは、まるでこうするつもりはなかったと言いたいのかね?意図せずしてこうなるわけがないだろう?」
そう言われた藍田はさらに俯き、か細い声で言う。
「私が粕窪さんに煽り、ではなく説得、でもなく言いくるめられたため、呪われてしまった学長の世話を、クランマスターである駆逐さんが念動のスキルオーブを手に入れるまでの間、弟子となった私がすることになったからです。」
だが、それでも求めていた答えとは異なったようで、ナニカは眉を顰め、藍田を問い詰める。
「たとえそうだったとしても、こうはならないだろう?本音を言いなさい。」
そう言われた藍田は、観念したのか、キリっとした顔でナニカを見、宣言する。
「学長が!学長が悪いんです!私は悪くありません!」
そう言われたナニカはため息を1つつき、大きく息を吸って怒鳴る。
「アホか!世話と言っても車椅子を押して移動するだけで他のことは駆逐さんが手配してくれたヘルパーさんがやってくれるということになっていただろう!?なのに、どうして・・・」
怒鳴られた藍田は、それでもナニカの顔を正面から見、言う。
「だって、学長、女装したらかわいいと思ったんですもん!いいじゃないですか!それに思った通りとってもかわいいです!」
「良いわけあるか!私は男だぞ!それに、自分では脱げないんだぞ!服をすり替えておくとか、ふざけるなよ!?」
その声とともに、暗い部屋、もとい学長の自室の電気が点灯し、車椅子に座った女にしか見えない女装した学長と、勝手に女装させたことを叱られている藍田が照らされる。
「だって学長、女の人みたいに体細いんですもん。それに、肌白いし、すべすべだし・・・」
それは苦し紛れの言い訳とすらなっていない、責任転嫁のような発言であった。
「はぁ・・・私、呪術師なんだよ?運動の必要なんてなく、常日頃から研究のために暗い部屋に籠ってるから日に焼けないし筋肉なんかつかない。で、色々な術実験してる間に寿命という概念が私からなくなって常に生命力が溢れてるから肌も常時最適な状況を保っているというだけで、一切女性的な見た目になろうとしているわけじゃないんだよ?」
藍田は何かに合点がいったのか、右手を握りしめ、その手で左手をぽん!と叩き、頷きながら言う。
「あ、だから大怪我してたはずなのに次に会った時は治ってたんですね。ずっと疑問だったんですよ!」
学長は、呆れた表情を浮かべる。
「そうだよ。それに何回か死んでも復活するしね。魔術のことを知る者であれば誰でも知りたいと願う不老術について聞いてもその反応をする、それが私の弟子入りする条件の1つとは言え、あっさり流されると、それはそれで寂しいなぁ・・・ほかの人は皆得ようとしたのに・・・」
何か気にかかることがあったのか、藍田が首を傾げ、尋ねる。
「え?弟子入りする条件って、何ですか?私、そんなの知らないですけど・・・」
そういえば言っていなかった、そう思った学長は説明することにした。
「あぁ、いくつかあるんだけどね?私の『弟子入りしない?』っていう質問に『お願いします』って答えた時点で、深層心理に問いかけて、条件を満たしているかどうかを判定する術が発動してるから気にしなくていいよ?」
「え、何ですそれ。不老術よりもそっちが気になるんですけど。」
「ん?まぁ、それはそのうち教えるけど、条件についてね?」
「あ、はい。」
「一つ目、得た知識を悪用しないこと」
「んー、それって、今の段階で聞いて判断着くようなものですかね?力を得てから調子に乗るかもしれませんよ?」
「あぁ、大丈夫、判定する術が結構複雑な上にとある大きな力を持つ存在の力を借りているからね。で、二つ目、何らかの悪意をもって弟子入りを望まないこと。これは、私から何か盗んでやろう、とか私の知り合いの誰かとのつながりを利用してやろう、とか、不老術を得て金持ちに売り払ってやろう、とか思ってる人を弾くためのものだね。」
「あぁ、確かに大丈夫そうですね。」
「まぁそもそも私から声をかけたんだから、関係ない話だけどね。で、三つ目」
少し学長は言うのを躊躇ったが、藍田の何故止めたのか不思議そうな視線に耐えられなかったのか、言う。
「純潔であること」
それを聞いた藍田は顔を真っ赤にしてしまう。
「な、なんてことを尋ねてるんですか!変態!すけべ!」
「いや、そういうわけじゃなくってね・・・」
「じゃぁなんだっていうんですか!私がその、経験があるかどうか知ることに、なんの正当性があるっていうんですか!」
「いやぁ、その、ね?私の契約聖獣の中に、ユニコーンがいてね?世界がこうなる前に、外国から捕獲依頼が来て、催眠術で従えたんだけど、修行に必要な私の土地で放し飼いになってるから、処女以外は安全性の都合上無理なんだよね。別に不純な目的で条件にしてるわけじゃないんだから、変態はやめてくれないかな?」
「むぅ・・・本当ですかぁ?いなかったら言いふらしますからね?ここの学長は生徒に欲情する変態だって。」
「勘弁してくれよ・・・だから言いたくなかったんだ・・・」
「それより、修行に必要な土地があるのであれば、行かなくていいんですか?」
「あぁ、まず魔力を紡げるようになってからの話だからね。それに、駆逐さんに依頼した念動のスキルオーブを受け取らなければ私は不自由のままだからね・・・」
「そういうことだったんですね。では、魔力の紡ぎ方?とやらを教えてくれますか?」
「あー、うん。そのことに関してだけど、本日はスペシャルゲストをを呼びしています!」
「え?学長が教えてくれるんじゃ・・・?」
「これに関しては、チョーっとだけややこしい要素があるので、人を呼んでおいたのです。すでにリビングにいるから行きましょう。車椅子を押して?」
「はーい。」
藍田が車椅子を押しながら入ったリビングには、元黒と紫崎、そして巫女服の少女がいた。
「お、全員いるようで何より。」
「あ、学長殿。その、このお方は・・・?先ほど不意に現れたのですが・・・」
「あれ、紫崎君、元黒君から聞いてないのかい?巫女姫サマだよ。」
巫女姫と呼ばれた少女はやわらかい笑みを学長に向ける。
「こーあん、本当に体動かないのね。感覚は?」
その笑みに何かを感じ取ったのか、学長は顔を引きつらせた。
「あるからいたずらしないでくださいね?」
「わかってるよぉ。駆逐さんに頼まれてきたんだし」
「うっかりやらかす気がしてならないんですけどねぇ・・・飼い主もいませんし。」
渋々引き下がった巫女姫であったが、聞き捨てならない部分があったのか反論する。
「私が飼い主です!決して深海さんに飼われてるわけじゃないです!」
「あぁ、ソウデシタネ」
その会話を聞き、目をキラキラさせながら紫崎が学長に尋ねる。
「えぇっと・・・つまり、この方が学長より早く覚醒したという、TVで特集を組まれていた強者12人の一人、巫女姫様ということですの?メディア露出があるのは粕窪さんとえーすさんと神名さんの3名だけでしたから、お姿を拝見するのは初めてですわ!」
「そーそー。黄泉さん、四変王5人、粕窪さん、えーすさん、翡さん、巫女姫サマ、深海さん、神名さんの12人が私より早く覚醒した、本物だよ」
少しムッとした表情をした巫女姫が学長を窘める。
「まるで他が偽物みたいな言い方やめようね?」
「だってほかの人は半分養殖みたいなものじゃないですかー・・・覚醒者に引率されて、安全にレベルを上げた私よりあとの人と、私より前に覚醒した本物では、ぜんっぜん違いますよ。」
学長が不貞腐れながら言ったその言葉に、合理性があると一瞬おもった巫女姫は、そうだとしても言い方を改めさせるべきだと考えた。
「うーん。そう言われるとそうかもしれないけど、それ言ったら私と深海さんは駆逐さんとえーすさんがいなければなれなかったかもしれませんし・・・」
「うーん。じゃ、やめますよ。」




