第4話
ただ平らな床と空気だけがある空間に、一人の男性と一人の女性が現れる。
「私の邪魔をするだけでは飽き足らず、このような小細工をするとは・・・よほど死にたいようですね」
「まぁまぁ、嬢ちゃん、落ち着きな?」
「煩いです。すでに神器を展開している敵が目の前にいるのに、そのようなことができるわけがないでしょう?」
「んー、まぁ、俺は魔法が嫌いだからな・・・神器使わなきゃ止めれなかったんだよ。な?」
「な?ではありません。敵だというのに、よくもまぁそのような戯言を言えたものですね。」
「ん?まぁ、俺は嬢ちゃんのことを敵だと思っていないからな。」
その神名の言葉を聞き、パズズは歯ぎしりをする。
「そうですか、そうですか。私程度、相手にならない、と?随分と、舐められたものですね・・・暴風魔法Lv7 テンペストジャベリン」
パズズは見下された怒りに任せ、魔法を放つ。
「っちょ、そういうことじゃ、ねぇよ!」
神名は手に持つ槍で魔法をそらし、誤解していると伝えようとする。
「では!どういうことだというのですか!私はあのお方に恩を返さねばならない!たとえ格上だろうとも、あのお方のために、仕留めて見せる!暴風魔法Lv5 テンペストソード!」
パズズが生み出した暴風の剣で切りかかるが、神名は軽く顔をしかめながら、槍で防ぐ。
「それがそもそも間違ってるんだよ!ロキは嬢ちゃんの恩人でも何でもない、仇だってーの!」
それを聞いたパズズは、怒りをあらわにする。
「言うに事を欠いて、そのような戯言を!何も知らないくせに!」
「知っているさ!ランスが壊滅した後の調査をしたのは俺らだからな!嬢ちゃんとスレイブニルは、あの時の織部ダンジョン氾濫の生き残りだろう!あれは、ロキが引き起こした人災なんだよ!俺はロキにあの時の落とし前をつけさせに来たのであって、騙されてる被害者を傷つける気はねぇ!むしろ、助けに来たんだ!だから、俺は嬢ちゃんに一切攻撃をしない!」
「ふ・・るな」
「ん?なんだって?」
「ふざっけるな!あのお方を侮辱するだけでは飽き足らず、私相手に手加減をして、攻撃すらしないと!?舐めるのもいい加減にしろ!そこまで言うのなら、手加減したまま死ぬがいい!魔力操作:風魔法Lv8 テンペストストーム+死魔法Lv1 デス=デス・テンペスト・ストーム!」
パズズによる漆黒の暴風が、神名に迫る。
「これはさすがに槍じゃ払えん!防げ、神器・永冷の盾!」
神名がそういうと、前に出した左手に黄金の丸い盾が生じ魔法を防ぐ。
「全く嬢ちゃん随分と物騒な技をためらいもなく・・・まぁ、育った環境が環境だし仕方ないっちゃ仕方ないんだが・・・」
「ふざけるな!魔力操作:暴風魔法Lv3 テンペストアロー+暴風魔法Lv8 テンペストストーム 増幅=テンペスト・アロー・ストーム!」
「はっ!」
「なっ!?あの数を槍で切り払うなんて!そんな馬鹿な・・・」
「はっ!このくらいやってのけて見せるさ!」
「馬鹿にして・・・!」
その後、パズズはMPが尽きるまで魔法を放ち続けたが、神名は宣言通り一切の攻撃をすることなくしのぎ切った。
「な?言ったろ?俺は嬢ちゃんに攻撃しねぇよ。だからよ、俺の話をちょっと真剣に・・・」
「うるさいうるさいうるさい!あの人は正しくて私たちの恩人で、悪事を働くだなんて、あり得ない!切り裂け、神器・意志ある剣!」
パズズが投げた剣が一人でに動き出し、神名に切りかかる。
「うぉ、あぶね!剣を撃ち抜け、閃光の槍!」
神名はもともと持っていた煌めく槍でもってパズズの槍を縫い留め、パズズに話しかける。
「嬢ちゃん、気付いてたんだろう?あいつが正義などでは無い、ということを」
「・・・えぇ、そうよ。私はとっくに気付いてた。でも、私にはあの人しかいないのよ!家族は皆死んだし、すでに私の手は汚れている!こんな私の居場所は、あの人の隣しかないのよ!それを、邪魔するなぁ!神器・意志ある剣!」
パズズはそう叫ぶと、剣を手にし、切りかかる。
「よっ、ほっ、はっ!んじゃ、俺が、嬢ちゃんの居場所を作ってやるさ!俺のパーティーに入れよ!嬢ちゃんと同年代のやつだっているさ!」
それを聞き、パズズの手が一瞬止まるが、泣きながら再び剣を振るう。
「・・・私は穢れた存在。あの人の命じるままに、悪事をこなした。そんな私が、許されるわけがないでしょう!」
「嬢ちゃんは一切殺しをしてねぇ!そして俺は、もっとあくどいことをした人間が償いながらも平和に暮らしているのを知っているんだ!だから、俺の手を取れ!」
「でも・・・」
「でもじゃねぇ!未成年者が悪い大人にそそのかされてたからちゃんとした大人がまっとうな道に戻してやろうって言ってんだよ!」
パズズは、本当に差し伸べられた手を取っていいのだろうか、騙されているのではないかと考え、それでも、一度も自身を攻撃してこなかった神名を信じることにしたのか、泣きながらも、その手を伸ばす。
「・・・これから、よろしくお願いします。」
「あぁ!よろしくな!」
そう言い、二人の手は触れ合う。
その寸前、パズズを闇が包む。
{おいおい、パズズ、私を裏切ろうっていうのかい?そんなことが、赦されるとでも?}
「あぁ!?この声は・・・?」「ろ、ロキ様・・・!?」
{まったく、このようなことが起こる可能性を考えて術を用意しておいて正解だったようだね}
「あぐっ!?」
その声を聞き、神名が闇に腕を突っ込む
「おい、大丈夫か!いてぇ!」
「あぁァ・・・ワたし、ハ、ろキ様のちゅウじツなルシもべ、パずズ、なリ・・・アるじ、サまの、てキヲ、はイじょ、すル!滅ボせ、神器・血を求める剣!」
{ははは、そう、それでいいんだ!殺せ!}
そのロキの声に従うように、パズズは禍々しい剣を持ち、神名に切りかかる。
神名は、その剣を盾で受け止めつつ、ロキの声に対して疑問を投げかける。
「糞が!黄泉さんが相手してるはずじゃねぇのかよ!?」
{うげ、本体は黄泉と戦っているのか・・・。では、早めにこいつを仕留めさせてパズズに援護させねばならないな・・・}
「あぁ?本体だぁ?てーことは、この声は、残留意思ってやつか。てめぇ、スキルじゃなく魔術だな!?」
その神名の発言を遮るかのように、パズズが切りかかる。
「あアァ!」
「くっ!力が上がってやがる!?」
{ははは!当然じゃないか!この私が傀儡術で支配しているのだから!}
それを聞き、神名はハッと何かに気付いたような表情になる。
「傀儡術・・・覚醒者になりたての頃にあいつが言ってた、死体を動かしたり支配下においたやつのリミッターを外して戦わせる非人道的術式か・・・!くそっ、このまま防いでるだけじゃパズズが持たねぇ・・・!」
そう言い、神名は懐から何か札のようなものを取り出す。
「畜生、あいつの力を借りることになるとはな!束縛札・光闇流捕縛術・四肢封印!」
神名が投げた札が空中で4枚に分裂し、限界を超えて動き続けるパズズの両手両足を空中に固定する。
「あァ・・・こロし、テ。これイじょウ、つミを、かさネたく、ナい」
「!パズズ、意識が戻ったのか!?」
「だんダん、うすク、なる。かんゼんに、なクなルまえ二・・・はヤ、く・・・」
「そんなこと、できるわけがないだろう!嬢ちゃんはまだ若い!未来があるんだ!絶対に救って見せる!」
「かんゼんに、イしキを、うしナって、かラ、シぬ、ヨりも、イしきガあルうチに、あなタのテで、わたシ、としテ、こロして
{ふむ、どうやらその術式の影響で意識が表に出たようだが・・・どこかで見たような・・・まぁいい。私の傀儡術は死ぬまで解くことは不可能だからな!}
「っく・・・どうすれば・・・何か方法は・・・はっ!?」
その瞬間、神名の脳裏に、数日前の学長との会話の記憶が蘇る。
『ダンジョン解放連盟戦用に魔術対策で注文されてた封印札、できましたよ。』
『お、ありがと』
『・・・それと、もし、魔術関連で本当にどうしても対応できないってなったら、これを破ってください。ですが、できる限り、使わないでくださいね?』
『ん?まぁ、もらうが、これ、何だ?』
『とある大妖怪を封じている札です』
『おいこら、こーあん!大妖怪って、ランク10以上相当のばけもんじゃねぇか!』
『えぇ、ですから、ほんっとうにどうしてもっていう時だけですよ?ついこの間復活したそれ封じるのに黄泉さんと四変王の5人の力借りてようやくだったんですから。』
『なんで俺に・・・?』
『占術の結果とその中の存在と神名さんが相性いいからですかね?』
『なんだそりゃ・・・まぁ、俺は魔術関係よくわからないし、くれるっていうならもらっておくが・・・』
『それと、黄泉さんの催眠術としんさんの認識阻害の力を借りてこれを受け取ったという記憶すらこれを使わなければどうしようもないときまで思い出せないかつ取り出せないようにしてありますので。』
『なぁ、本当にこれって受け取っても大丈夫なものなのか?』
『ダイジョウブデスヨ』
『おい!露骨に目をそらすな!』
『だって万が一封印が解けたら私も無事じゃすまないですし・・・』
『そんなもん渡すなよ・・・』
『巫女姫サマの占いで神名さんに渡すのが最善って出たんですもの。巫女姫サマ曰く、早々に必要になるであろう、だそうですよ?』
『・・・じゃあ仕方ないか。受け取るよ』
『ありがとうございます!やっと肩の荷が下りた気分ですよ!』
『くそっ・・・』
神名はその当時の感情も思い出し、大きくため息をつき、札を懐から取り出す。
「そうだ、これがあった。・・・っく、この記憶を思い出したってことは、これ以外ではどうにもならないということなんだろうが・・・やはり、あいつの力を借りなければならないのか・・・!」
『使い方は、この札を破って、出でよ!っていうだけでいいですから。その先の詠唱は札が自然と言わせてくれるので。』
神名は札を破る。
「出でよ!古の時に人々を狂わせし偉大なる妖狐よ!美しさで人を惑わす九尾の狐よ!いま復活し、我が力となれ!白面金毛九尾の狐!」
{はっ!?うそだろ?大y}
札は飛び、白い煙が展開し、ぶわっと風が吹く。ロキの残留意思はその風で消し飛ぶ。札があったはずの場所にいるのは、金髪の狐耳をしたとても美しい
幼女であった。
「なんじゃ!?体が縮んで居るじゃと!?」
「え、えぇっと・・・これはどういう・・・?」
「ぬ?おぬしは誰じゃ?我を封じた男とは異なるが・・・まぁよい、我が魅了で支配し、あの男への復讐の足掛かりとしてくれるわ!食らえい!魅了!」
ピンク色の光が九尾から神名に向かって放たれる。
「うおっ!?あいつめ、恨むぞ!」
・・・が、効果はなかった。
「・・・はて?心なしか、おぬし、かっこよいのぉ・・・」
「は?何をいきなり・・・」
「むむ?魅了が効いておらぬ?それに、胸の動悸が・・・これはもしや、反射されたか!?我としたことが、うかつであった!だが、我の魅了であれば・・・ぬ?解けぬ?倍以上に複雑に・・・」
「・・・そういうことか。俺に魅了無効があるから・・・おい。」
「ひゃ、ひゃい!なんでしょうか!」
「その、魅了だっけ?その説明、してくれる?」
「はい、喜んで!魅了は異性を言いなりにできる高等妖術の一つであり我の魅了を超える魅了なんぞ存在しないのじゃ!・・・っく、抗えぬ・・・」
「んじゃさ、九尾ちゃん?だっけ?傀儡術、解ける?」
「はい!解けます!」
「んじゃ、そこの少女にかかっている傀儡術解いて。あ、そうだ。俺の許可なく人間に攻撃するの禁止ね。」
「はい。わかりました!・・・終わった・・・人間の支配下に置かれるなんぞ、他の大妖怪に知られたら・・・いや、待てよ。他の大妖怪もこの人間の配下にしてしまえば・・・」
「早く。」
「はい!ほい!」
九尾が軽く尻尾を振ると、暴れていたパズズの動きは止まり、だらんと手足の力が抜ける。
「お、おい、大丈夫か!?」
神名はパズズの下に駆け寄り、目を合わせながら話しかける
「は、はい。ありがとうございます」
パズズは、助けてもらった安堵と、自身を受け入れてくれるという魅力的な神名の顔が近づいてきて、照れにより顔を赤らめる。
「顔が赤いが、発熱でもしているのか?」
神名はそういうと手を頭に伸ばし、直接触れ、熱を測ろうとする。
「は、はわわ・・・」
許容量を超えたのか、パズズは気絶してしまった。
「あれ?」
「・・・これ、我が範囲魅了使って弾かれたとき、範囲魅了のまま弾かれたから魅了されてるんじゃ・・・」
「おい。解け。」
「できたらとっくにやってるのじゃ!なぜかはわからぬが、すくなくとも2倍、下手すると10倍ほどに増幅されてるのじゃ!おぬしの体質かの?」
「あー・・・お主じゃ変だし、神名でいいよ。そういえば、名前は?」
「わかったのじゃ神名殿!我の名・・・白面金毛九尾の狐が人間が我を呼称する個体名ではあるが・・・」
「んじゃ、金狐でいいか?」
「うむ!よいのじゃ!きんこ・・・ふふ・・・良き名じゃの!」
「あ、そうだ、この封印術も解いてくれるか?」
「わかったのじゃ!」
金狐が尻尾を一振りすると、パズズの四肢を縛っていた術式が解け、倒れる。
その前に神名が抱える。
「よし、さっさと出て黄泉さんの手伝いをするか。金狐、手伝ってくれるか?」
「もちろんなのじゃ!」




