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決戦前夜 後編

しばらく沈黙が場を包むが、駆逐が不意にバルコニーの下をのぞき込み、声をかける。


「・・・さて、盗み聞きをしていた諸君?」


「やっぱりばれてたし・・・」


「だから言ったやろ!ヴィドさんはともかく駆逐さんはごまかせんて!」


「おっかしいなぁ・・・俺はいけると思ったんだが」


「しんさんはいつも見積もりが甘いのです」


「医者にこう言われたら本格的にやばいし。頭の医者にかかるべきだと思うし?」


「うっせぇちくわ!お前だって行けるって言ってたから同罪だ同罪!」


「そうやな。ちくわもそっち側や。ついでに根っこも」


「りゅー、自分を除外しない。私たちはどうあがいても4つの枠を押し付けきれずに5人入った。つまり皆同程度のアホ。」


「っちょ、俺にまで飛び火すんのやめてくれない!?」


「ま、あんなくさい台詞を言った駆逐のメンツつぶすわけにはいかなし!明日は全力で行くし!」


「それもそうやな。後輩にはかっこいい背中見せてやらんとなぁ」


「俺も、いい所見せないといい加減変態扱いは回避したい。」


「無理がある。あの少女のことがある限りもうしんは一生変態決定」


「うっ・・・そのことは掘り返さないで・・・」


「掘り返すも何も未解決やろがい!」


「え?もしかしてまだ逃げてんの?」


「そうだし!いい加減あってあげろし!」


「いやぁ・・・あれは薬の効果による一時の気の迷いだ」


「5日前にあったとき、すでに薬は抜けていたがまだぞっこんだったぞ」


「おーおー、愛されてるなぁ、しん!」


「っちょ、痛いってりゅー!叩くな叩くな!」


「むぅ・・・私はこのカップリングが成立すると思っていたのに」


「根っこは身内のカップリングやめろし!そんなんだから腐れ根っことか言われるんだし!」


「・・・それは誰が?」


「某学長」


「・・・あとで〆る」


「南無南無・・・」


「あと駆逐。」


「うぇ!?そんなこと言ったっけ!?」


「宴会の時に言ってたし!」


「あ、あぁそうだ、思い出した。あの学長、結局来てないんだよな」


「誤魔化したし」「誤魔化したなぁ」「誤魔化した」「誤魔化すな」


「う、うるさい!言いたいのは、もう一回電話してみないか?ってことだよ。戦闘能力が高いわけじゃないが、いると便利だし」


「私としては敵でなければべつにいい」


「あいつは平穏な暮らしを選んだんだからもうかかわらない方がいいと思うし?」


「俺は電話してもいいと思うぜ?来ないだろうけど」


「まぁ、あいつにもいろいろ事情があるのだろうさ」


「・・・かけてみようぜ?」


「主目的ごまかすことだよな?」


「・・・あれ?通話中?」


「さて駆逐、観念しろ」


「わー!たんまたんま!電話きた!多分あいつだよ!」


「・・・仕方ない」


「あー、もしもし?あ、元黒?うん、うん。あれ?黄泉さんがぶった切ったんじゃ。あー・・・それは、やばいかも。少なくともうちは捕縛してない。うん、うん。じゃぁ、気を付けて。あぁ、もちろん1人残さず殲滅してくるさ。じゃ」


「・・・誰?」


「元黒っていう覚醒者一歩手前のやつなんだけど・・・あのさ、1年くらい前に覚醒者だった討伐されたと認識されていた犯罪者が生きてる可能性が出てきたんだが、どうしよっか?」


「・・・それ、けっこう不味くないかし?1年あれば550は超えてるはずだしとなると格は11か12だし。」


「それはよろしくないなぁ・・・」


「割と不味いと思うが、俺らがすぐ行ける範囲であれば問題ないやろ」


「まぁ、皆そのレベルは超えているし、そこまでの問題ではない」


「その、ね?この区に狂信的に狙ってる人物がいて、その人がダンジョン解放連盟に狙われている奴と一緒にいるんだけど・・・」


「・・・私たちがここからいなくなった明日、ここに攻めてくる可能性がある、と」


「あぁ。だが、あいつらのトップが600レベル前後、この相手は黄泉さんがするということだが、最高幹部は7名、うち1人は黄泉さんが討伐したから6名でその相手が俺ら5人とヴィドさん、なわけだ。捻出できる戦力が・・・」


「・・・万が一の場合は、学長に任せればいいのでは?一応、格11か12なら相手にできないことはないはず」


「んー・・・勝てるかなぁ。」


「あれや、今回の件にかかわらない、別な覚醒者警官に応援求めるのはどうや?」


「それすべき、かな。今から連絡して、どうにかなる心当たりがある人は?」


「俺が粕窪さんに連絡とってみるわ。確か明日の昼で北海道勤務が終わるはずやし」


「昼か・・・襲撃がそれ以前に起こらないことを祈ろう」


「私たちの出発が8時、粕窪さんが来るのが12時10分前後とすると、250分ほど。襲撃があってもきっと学長なら生きてる」


「うっわ辛らつだし。根に持ってるし?」


「そんなことはない?」


「・・・これ以上打つ手はないな。俺らも体を休めよう。」


「わかったし。おやすみだし」


「おやすみ」


「んじゃお休み!」


「なぁ、晩酌せぇへん?」


「飲むな飲むな」


「しゃーない。電話したら寝るわ。」


しばらく時間が経つ。


「ん?電話?あぁ、こーあんか。いやなに、ちょっと野暮用があってかけたんだが、解決してな。わざわざかけなおしてくれてありがとうな?え?2回目?1回目は電話終わってすぐかけなおしたら会話中だった?ごめん、元黒から電話が来てて・・・あ、俺がかけたとき元黒と電話してたのか。ん?明日会う予定?それは行幸。ん、いや、こっちの話だ。じゃ、おやすみ」




プルルルル、という音が、男が1人だけ眠っている静寂な部屋の中に響く。


「んあ?電話か?」


どうやらそれは電話の着信音のようで、ベットの中で微睡んでいた男は枕元のスマホに手を伸ばす。


「誰だよ全くこんな時間に・・・あ?りゅーさん?仕方ないなぁ。」


ピッという音とともに、通話が始まる。


「はーい、こちら粕窪、こちら粕窪。非常に眠いので要件は5分以内に・・・ん?明日勤務終了後の予定?ないけど・・・はぁ!?全速力で飛んで鮮色に向かえって、そんな無茶な・・・ん?お嬢ちゃんたちが危ない?しかもしんさんのことを思ってくれてる話題の少女が一緒にいるかもしれない?んじゃしんさんが守れば・・・あー、ダンジョン解放連盟か。それなら仕方ないな。こーあんじゃ無理なん?・・・なるほど、攻撃力が足りなくて押し切られるかもしれない、と。しゃーない、全速力で飛んでいくよ。多分5分もかからないはず。・・・うん?うん、そうそう。また早くなった。にしても、そんなに危険なのかな?推定レベル530以上?幹部が全員そのレベルなら神名さんはちと・・・あぁ、そういえば神器渡されてたな。・・・あ、そうなの?一番レベル低くい少女を当てるから問題ない?それ、あのたらしなら別な心配がある気がするな。それにイレギュラーが・・・あ、そう、イレギュラー対策にアレ持たせてあるのね。んじゃいいか。苦労するのは後々の神名さんだし。はーい、了解。んじゃまた~あ、壊滅させた後宴やる?んじゃそん時に~」


ピッという音とともに通話が終わり、粕窪はスマホを元の場所に戻し、


「・・・過労じゃね・・・?」


とつぶやき、眠りについた。


その電話から8時間経った午前8時30分、粕窪は起床し、札幌にできたS級ダンジョンに潜り、間引きを行っていた。


「あー、めんどくさ。せめて誰かほかに一緒に潜る人が欲しいわ・・・まぁ、パーティで動くと各地の間引きにかかる時間が6倍近くになるから仕方ないが・・・」


愚痴を言いながらも本日のノルマである1000匹を達成すべく狩り続ける。


3時間後


「いよっし!1000匹目!さっさとフロアボス〆て戻るか!もしかするとこーあんが死にかけてるかもしれんしな!」


25分後


「あ”ー・・・まさかのイレギュラーでS+級とか・・・このままベッドに倒れこみてぇ・・・いや、これ、この後飛ぶ原因になったディルとやら木っ端みじんにするしかないだろ・・・んじゃ、俺やることあるからあとよろしく!鮮色区にいるからゆっくり来いよ!」


そう言いながらダンジョンから出てきた粕窪は漆黒の翼を広げ、飛び立つ。


「加・速!」


その声とともに速度が上がり、ダンジョンの入り口付近には激しい風が吹き、後から秘書に小言を言われることとなったのである。

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