決戦前夜 前編
明日、4月29日から、デストロイヤーを中心としたダンジョン解放連盟本部への攻撃が開始される。
そのことを攻撃参加者以外で知る者は5名。ダンジョン解放連盟に狙われている藍田とそのパーティメンバーである紫崎、緑川及び元黒の4名と、誘われたが引退したから参加する気はない、と断言した鮮色中学の学園長である。
そのパーティの4人は月曜のダンジョン攻略以降はE級ダンジョンに挑み、前日である27日に攻略を成功させている。今日からダンジョン解放連盟本部への攻撃が終わるまでの間は、何が起こるのかわからないため、ダンジョンに潜るのはやめ、今日は泊まり込みで紫崎家の屋敷に集まり、夕食後会話をし親交を深めていた。
「にしても、学園長って誘われるほど強者だったんだね・・・私、一切聞いたことがなかったよ」
「俺も、聞いた覚えはないな」
「私も先日直伝の技を元黒が披露した後調べてみたのですが、まったく情報がわかりませんでしたわ。」
「まぁ、私もあの宴会に参加するまでは知りませんでしたし、そういうものなのではないでしょうか?」
「でも、学園長になったのは去年度からだから、ダンジョン出現から1年とちょっとしかたってないのに引退した人で、覚醒者ってことは、当時の最前線にいたんじゃないの?当時の最前線にいたのにTVに一切出てないって、不思議・・・」
「ふむ、言われてみればそうですね。明日、本人に聞いてみましょうか」
「え?そんな急に会いに行って大丈夫なの?」
「私はあの宴会の時に仲間意識のようなものが芽生え、何時でも来ていいといわれているので大丈夫でしょう」
「じゃあ私、本来の光闇流の技見てみたいな!光魔法も闇魔法もあるから再現できるかもだし!」
「頼んでみましょう」
「にしても、どのくらい強いのかしらね?」
「少なくとも私よりは強いことは確実ですが、他の覚醒者と比べたことはないので何とも・・・」
「俺が見た覚醒者はとても強かったが、何をやっているのかさっぱりだったな」
「私が見た人は、魔法1発だけでダンジョン解放連盟の覚醒者の人を撤退させたらしいし、すごい人なのかな?」
「お二人が見たという覚醒者は双方とも四変王と呼ばれる強者5人に含まれていますし、格が違うのでしょう。」
「私が助けられたあの黄泉という方は、かわいらしいのにとっても強かったわね」
「アレはですね・・・ランキング機能を常時見ている変人がいたのですが、最も早くレベル500を超えた、とのことです。その為原初の覚醒者、などともいわれていますね。」
「そういえば、そもそも覚醒者の定義ってよくわかんないんだよね。レベル500を超えたら覚醒者?」
「俺もよくわからないな。覚醒者が強い、というのははっきりとニュースなどでもやっているが・・・」
「ふむ。では、覚醒者について教えましょうか。覚醒者の条件はたった1つです。レベル500を超えていて、特定のまとまりがあるスキルが5つあった場合にそれらをまとめて生じる、ミソロジースキルを持っていること。この1点に尽きます。」
「そういえば、あの時のあの男も覚醒者なのかしら?」
「・・・そうですね。あの男はバンパイアのスキルを持つ覚醒者でした。」
「えーっと、何があったのかわからないけど、その人は黄泉さんに討伐された、でいいんだよね?」
「そうなりますね。目の前でバッサリと・・・え・・・?」
「ど、どうかした?聞いちゃいけないこと聞いた感じ?」
「・・・お嬢様。」
「なぁに?そんな険しい顔してどうしたの?」
「あの男が逮捕された、という話を聞きましたか?」
「はぁ?何を言っているの?死者を逮捕できるわけが・・・」
「違います!あの男は、死んでない!あそこは物理無効特殊G級ダンジョンの内部だったんです!で、あればあの後ダンジョンの入り口に・・・」
「・・・逮捕された、という話を聞いた覚えはないけれど、1年以上たっても何もないということは、逮捕されたのではなくって?」
「そうでしょうか・・・?不安ですので、この後デストロイヤーに問い合わせて・・・」
「やめなさい。今行う必要はないでしょう?ダンジョン解放連盟の本部襲撃後でも問題ないはずよ」
「それも、そう、ですね。私としたことが、焦りで冷静さを欠いてしまいました」
「まぁ、私も、あの時襲ってきた人がその辺にいるかも、って思ったら生きた心地しないし、気持ちはわかるよ。私の場合はダンジョン外の拠点に黄泉さんが乗り込んで支部ごと殲滅した、って聞いたから少し安心してるだけだし・・・」
「俺も、襲ってきたあの男たちが野放しにされている可能性があるとしたら、居ても立っても居られないだろうな。むしろ美咲が肝座りすぎてるんだよ」
「そうかしら?生きていても生きていなくてもこの呪いが解けることにかかわらないから、たいして気にしなかったけれど・・・生きているのなら、本人を叩きのめして無理くり解除させればいい話ですわね。目的としてはいいかもしれません」
「お嬢様・・・」
「さて、今日はもう夜遅いですし、寝ましょう?」
「はーい」「そうしよう」「寝室までご案内いたします」
3人が睡眠を開始したことを確認した元黒は、鮮色中学学長に連絡を取り、無事会うアポイントを取ることに成功した。技を見せてほしいというと渋られたが、「あなたの学校に通っている生徒が見たいといっていますよ?」というと「仕方ない。見せるか・・・あれは非効率的なのだがな」と言質を取ることに成功した。
いよいよ明日、あの忌々しいダンジョン解放連盟の本部に襲撃をかけ、終止符を打つ。そう考えるだけで黄泉は眠れず、デストロイヤーのクランハウスのバルコニーで夜風を浴びていた。
「やぁ黄泉さん。こんな夜遅くにどうしたんだい?」
「・・・ヴィドさん。ついに明日、決着がつくと思うと、気持ちが高ぶって眠れなくて」
「気持ちはわからなくもないが、万全な状態で・・・」
「私がどれだけこの時を待ちわびたか!あいつらのよくわからない呪いのせいで、私の仲間たちは皆、目を覚まさない!あの時生かされた私が、私こそがどうにかしないといけないのに!手がかりすら手に入らなかった!それが、不意に見つかった。落ち着けるわけが、ないでしょう?」
「・・・陳腐なことしか言えないが、それを彼らが望むと思っているのかい?」
「そんなわけない!あの人はやさしいから、私が無茶をするなんてこと、望むわけが、ない。でも、私には、こうすることしかできない!私には戦闘しかない!みんなにかけられた呪いを解くことは、私には、できないのだから・・・」
「で、あれば、少しでも体を休めるべきだと思うよ」
「・・・そう、ね」
黄泉は去っていき、ヴィドだけがこの場に残る。ヴィドは胸ポケットから煙草を1本取り出し、火をつける。勢いよく吸って、煙を吐き出す。
「ままならないものだ。あんな、一昔前にはまだ子供として扱われた少女にあのような重荷を背負わせるこの時代も、それをどうにかする力もない私も・・・」
「あはは、それを言われちゃうと、耳が痛いね。俺らが保護したのに、結局あの子を超えることもできず、あの子の助けにすらなってあげれなかった。」
「・・・駆逐さん、不意に出現するのはやめてくださいよ」
「あ、ごめんごめん。」
「並列存在を離れたところに出現させるそれ、前兆とか一切なしでびっくりするんですから」
「ごめんって。ま、明日成功させれば、あの子の重荷も少しは降りるだろうさ」
「そうですね・・・そうだと、いいなぁ・・・」
「んん?泣いてるのかい?」
「いえ、たばこの煙が目に染みただけですよ」
「そうかい。そういうことにしておこう。だが、これだけは言わせてくれ。彼女がこの状況に陥るまでに君が関与できたことはない。このことに関する責任は、当時最前線にいた我らが負うべきなのさ。」
「はは、そうですね」
「んじゃ、お休み。君も体調を万全にしておくれよ?」
「えぇ。あいつに偉そうに説教して、俺が体調崩したら笑われてしまうでしょうからね」




