1.5話 シュベルト家の人々
本編にはあまり差し支えない内容です。短いです。
シュベルト家のダイニングルームは、7人が食事するのにぴったりな広さである。我が家は夕食は7人で揃って食べるのが暗黙の了解となっていて、今日も例外ではない。
「まぁ、リリー!その服着てくれたのね!やっぱり似合うわ!」
「天使だ、天使がいる」
そう言ったのは、エミリアお母様とゲオルクお父様。
恥ずかしくて居たたまれなくなる。
「お母様、ありがとうございます。でも普段着るにはちょっと」
私がそう言うと、お母様はハニーブラウンの目を見開いた。
「あのね、若いうちはこれくらいの色合いの物を着るものなの。本当はもっとお洒落な服をたくさん買ってあげたいくらいなのよ?」
「そうだ。今度ボーナスが入ったらその服に合うアクセサリーを新調しよう」
お父様が青灰色の瞳を細めながらそんなことを宣った。私は慌てて首を横に振った。
お母様みたいな美しい赤髪ならばお洒落な服も映えるだろうし、お父様みたいな澄んだ青灰色の瞳であれば宝石も一層輝くだろうけれど、どちらも持ち合わせていない私にはもったいないとしか言いようがない。
でも、私は自身の色味が嫌いというわけではない。いや、そう思えるようになったのは間違いなくこの二人のおかげである。二人がたくさん褒めてくれ、愛情を注いでくれているからこそ、無駄なお金を使わせたくないだけ。ちなみに、お母様の瞳とお父様の髪色をかけ合わせれば私の色に近いのが、本当に本当に嬉しい。
「母さん、父さん。買いたい気持ちはすごくわかるし、俺も惜しみなく金を出したいけれど気をつけないと。変な虫がつく」
「まぁ、あれだ。馬子にも衣装ってやつだし、俺が選んでやっても」
「もう、ハインツ兄さんは素直じゃないんだから。僕はエルマー兄さんに賛成」
この3人は、お兄様たち。上からエルマー兄様、ハインツ兄様、ヨハン兄様。一番下にあたる私も含め、それぞれ2歳ずつ離れている。
3人とも赤毛に青灰色の瞳をしていて、特徴は違えどおのおの容姿に優れている。エルマー兄様は美しく、ハインツ兄様はワイルドで、ヨハン兄様は可愛らしい。
余談ではあるけれど、昔、同級生の男子に、"出がらしリリー"と陰口を叩かれたことがあった。私はショックを受けるどころか嬉しかった。出がらしということは、出どころが同じという意味なのだから。大好きな両親と兄たちと家族だと言われたようで、つい口元が緩んでしまった。
ちなみにその後すぐ、その男子からは全力の謝罪があった。どうやらお兄様たちの口撃と攻撃によるものだったらしい。
「兄様たちも、本当にありがとう。気持ちだけで十分嬉しい」
日頃のことも含めお礼を言った。
「リリーは無欲だな。もっと俺たちを頼っていいんだ」
「ほんと可愛げがないよな」
「可愛いってことね」
「なんだよ、腹黒ヨハン」
「なんだい、脳筋ハインツ兄さん」
「また始まった。俺を巻き込むなよ」
こうして和やかな?食事が始まったのだった。
「リリー、わしのソテーをやろう」
そう言いながら、笑顔で私のお皿に白身魚のソテーを置いてくれているのが、ジークお祖父様。青灰色の瞳を細めて私を見つめてくれる、どこまでも優しい人。
皆溺愛しすぎではないだろうか。
所詮は孤児だというのに。
そう思いながらも、くすぐったくて、温かくて、大好きな家族。
失いたくないとしがみついてしまう日常。
私は本当に幸せ者である。