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幽限會社 霊界データバンク  作者: 天川降雪
第一章
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不慣れな孝士が足を

 不慣れな孝士が足を引っぱった感はあるが、午前中だけでかなりのチェックエリアを回ることができた。折戸がうまく支えてくれたのだ。このあたりはさすが先任のベテランといえよう。

 コンビニで買った昼食を車のなかで食べて済ませると、軽く休憩してふたりはまた仕事に戻った。そして午後も順調にノルマを消化し、夕方前には残りのチェックエリアが一件のみとなった。

 だが最後のチェックエリアへゆく前、折戸はどこかに電話をかけて誰かと連絡を取りはじめた。そうしてから向かった先は、チェックエリアの場所ではなく、臼山町のとある場所だった。

「なんです、ここ?」

 道路端に路上駐車した軽四のなかから、外を眺めている孝士が訊いた。

「円商だよ。ハリソンおまえ地元だろ。知らねえの、この学校?」

 折戸は運転席側のウィンドウを全開にして、うまそうにたばこをふかしていた。

 折戸が言った円商とは、円島女子商業高等学校のことである。その名の通り、円島市にある女子高だ。

 孝士は車のサイドウィンドウ越しに見える高校を注視した。その敷地を囲んだ塀の切れ目には校門があり、いま何人もの帰宅する生徒の姿が見える。ちょうど授業が終わったころなのだろう。

「いや、円商は知ってますけど、なんでここに?」

「待ち合わせ」

「誰とですか?」

「決まってんだろ、JKよJK。ぴっちぴちの一七歳」

 と、折戸は目を細めてにやにやしながら言う。

「うちで雇ってるバイト、かな。まあとにかく、残りのチェックエリアはそいつがいないと話になんねえのよ」

「へえ」

 孝士は自分のタブレットPCを手に取り、電源を入れた。ルートナビを起動して、最後にひとつ残ったチェックエリアを確認する。地図にある赤い円をタップすると、情報を示すウィンドウが開いた。もうタブレットの扱いには慣れてきた孝士だったが、彼はそこであれっと思った。いままでのほかの情報表示と、ちょっと体裁が異なっていたからだ。ウィンドウの左上にエクスクラメーションがあり、要対処という文字が見える。

 これはなんだろうと折戸に訊ねようとしたとき、車の後ろのほうからコンコンと音がした。反射的にそちらへ顔を向ける孝士。すると孝士と折戸が乗っている軽四のすぐ横に、円島女子商業高校の制服を着たひとりの少女が立っていた。どうやらさっきの音は彼女が車のサイドウィンドウをノックしたのだ。

「開けてー」

 腰を屈め、後部ドアの窓から車内を覗き込む少女のくぐもった声が聞こえた。折戸が集中ドアロックを解除すると、彼女はドアを開けて後部座席に乗り込んでくる。

「よう、ごくろうさん。今日もいっぱい勉強してきたか?」

 身体をねじって後ろを向いた折戸が、気安い感じで少女へと言った。

「ん、まあね」

 少女のほうは割と冷めた反応である。明るめの茶髪をポニーテールでまとめた彼女は、やや目尻が吊り上がっているせいで外見もクールな印象だ。

 円商の制服は薄いブルーのシャツにワインレッドのスクールリボン。いまは夏服だからブレザーは着ていない。ボトムは紺を基調としたトーンオントーンのチェック柄ミニスカートで、よくある感じの制服だった。

 現役の女子高生。孝士にとってそれは自分が学生だったとき以来、まったく接点のなくなった謎多き生命体である。興味本位からつい、無遠慮な視線を送っていることに彼は気づいてない。そのうちふと、ふたりの目があった。すると少女は眉間にわずかな皺を寄せて、

「誰、この人?」

「うちに中途採用されたニューフェース、針村孝士くんでーす」

 と、おどけた調子で折戸。

 孝士はどぎまぎしつつ、なにか言わねばと考えもなく口を開いた。

「ああ、えと……そう、針村です。よろしく」

「こいつ、覆盆子原れのん。さっき言ったバイトな」

 折戸から紹介されたれのんへ、ぺこりと頭をさげる孝士。

「ふうん。霊バンに就職しようなんて人、いたんだ」

 さしたる関心もなさそうにれのんが言う。その言い草には、さすがの折戸もあきれたようだ。

「おまえなあ、自分の雇い主でもある会社にそりゃねえだろ」

「言っとくけど、あたしバイトじゃないし。中田の伯父さんの手伝いしてるだけだもん」

「支社長から小遣いもらってんだろ。バイトみたいなもんじゃねえか」

「ちがいますう~。それにこの人、どうせまた簾頭鬼さんがうまく言いくるめて、どっかから連れてきたんでしょ。霊バンのいつものやり口じゃん。かわいそう」

 いま、れのんの口からなにかとんでもなく不穏な言葉を聞いた気がした孝士は、思わず折戸をちらりと見やった。

「おいばかっ、人聞きの悪いこと言うなっての!」

「あーもういいよ。今日はどこ? はやくすませて帰りたいんだけど」

 れのんに言われた折戸は、あわてて前を向いた。

「そ、そだな。時間ねえや、急ご。仕事仕事~!」

 折戸が軽四のエンジンを始動させた。それから彼は、まるで孝士に口を挟む暇を与えぬかのようにアクセルを乱暴に踏んで、車を出した。


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