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夕方のこと

作者: 日暮 記

 突然、何もしたくなくなった。

 何かが肩に張り詰める感じ、手にペンを持つ力、見えないものに追われるような焦燥感。それらすべてが、一息に抜け落ちていった。

 何かきっかけがあるわけでもなければ、決めていた制限時間が来たわけでもない。あまりにも唐突に、あるいは何日、何時間とかけて、自分を動かしていた糸が、ぷつんと切れてしまった。

 椅子に座っていた僕の腕は床に向かって放り投げられ、目は斜めに天井を向いていた。背もたれに椅子が倒れない程度にもたれかかる。無意識に組まれていた足は両方ともしっかりカーペットに着地した。外を走るバイクの音や、遠くのヒグラシの声が耳を通っては抜けていく。

 いささかその様は、部屋の隅に植えられた、くたびれたガーベラの花のようだった。

 植物はこのような感覚で生きているのだろうか。もっとも彼らは脳も内臓も、痛みを感じる神経すらもきっとない。我々人類の研究の成果としては、それらはないとされている。しかしきっと、何も感じていないなんてことはきっとなくて、そうでもないと今までの植物の進化の理由に結論がつけられない。その場の環境の変化を「感じ」て、どうすれば生き残れるのかを「考え」て、それに伴う進化を「行った」。こうしてみれば、案外高級な生き物のような面をしている人間も、根を見てみれば植物とそう変わらない。そう、根を見れば。植物だけに。

 ――こう、脳以外動いていないような状態になると、無駄にリソースが割り当てられるせいで、適当なことをもっともらしくいってしまう。でもきっと、こんな時間も必要なのだ。

 何も考えない。何も、自分を悩ませるようなことを考えない。何も、自分を縛るようなものを考えない。

 そんなものは一瞬忘れて、一瞬で思い出して、それを繰り返すだけでいい。


 なにもしていなくても腹は減る。昨日作りすぎた野菜炒めがあるのを思い出し、冷蔵庫から取り出した。幸い米は今朝きちんと炊かれたものがある。自分でも嫌になるが、温める時間が惜しくなり、米の温度で固まった油分を溶かしながら、胃にそれらを落とし込んだ。

 洗い物までして、また脱力。ふとカーテンを閉め忘れていることを思い出した。部屋に差し込む夕焼けが、いやに美しかったからだ。一面オレンジ色というわけではなかった。それまでの青さと、夕暮れの明るさが混じりあう、境界が曖昧になった空だった。まるで水に一滴落とされた絵の具の様に、じんわりと広がる夕焼け色は、まもない夜の訪れを指し示していた。


 窓を開ける。生ぬるい風が、今の季節を思い出させる。ベランダに出ると、学生の笑い声や車のクラクション、電車の汽笛などが、また私を日常に引き戻す。

 もういい時間だ。今日はここまでにしよう。そろそろブルーライトがきつくなってきた。

 今日は酒を飲む予定なので、きっと何を書いたかなんてことは覚えちゃいない。

 それでもとにかく、明日を生きる気力が今のところあれば、それだけでよいのだ。

 そんな戯言を思いながら、私は涼しい室内に足を進めるのだった。

気が向いたときに筆を走らせる様式をとっているせいで、各小節の文章量だとか、更新頻度に若干のばらつきがありますね。以下はお過ごしでしょうか。日暮です。

夏の、夕暮れと言いますか、お日様が沈みかけるような時間。ちょうど何もしたくなくなるような時間のことを書きました。

こんな感情でいつも小説を書いています。自分の名前もここからきている部分もあります。

今回は短めでしたが、ほかにもうちょい長めのやつも書いているので、よろしければご一読ください。

それでは、おやすみなさい。

2021/08/04 22:01

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