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南北朝時代の林田隠岐守に転生して南朝で戦います  作者: 林田力
南北朝時代の林田隠岐守に転生して南朝で戦います
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林田隠岐守は冊封体制に入りたい

朝貢そのものにもメリットはある。朝貢することは冊封体制に入ることである。これは国際連合に加入するようなものであった。国際社会で生きていくためには必要なことであった。勿論、冊封体制に入る上では、それなりのルールに従わなければならないという制約がある。それを嫌がる意見もあるだろう。つまり冊封体制に入るか否かは、国際協調主義と一国主義・孤立主義の対立であった。


冊封体制と現代の主権国家間外交の相違は、前者には中華皇帝を主とする主従関係があることである。朝貢国が明の臣下になることを意味する。これは対等な主権国家という建前を持つ現代の外交とは異なる。しかし、現代の価値観で冊封体制を否定しても不毛である。当時の社会には個人関係にしても集団同士の関係にしても平等者同士の関係はほとんどなかった。常に上下関係が存在していた。人と人、集団と集団が関係を結ぶ際に上下関係があることは当たり前であった。


その当時の日本人にも中華への朝貢を屈辱と感じる人がいたことは確かである。しかし、平等思想を持たないにもかかわらず、屈辱と感じることは逆に不思議である。中華と日本の国力の差を認識せず、無根拠に日本に優越意識を持つ「井の中の蛙」の発想だろう。それ故に冊封体制の拒否は一国主義に収斂する問題に過ぎない。


征西府が明から冊封されることは強力な権威をもつことになる。南朝と言っても吉野の朝廷から何の援助も受けていない征西府にとって、これは切実な問題である。


さらに朝貢貿易は朝貢国に多大な実利をもたらす。朝貢貿易は朝貢国の品物と引き換えに明の商品を下賜される。実質的には朝貢品と引換えで明から品物を買うことになる。朝貢国は献上品を献上すると、明は威信にかけて献上品の数倍の価値のある下賜品を与えてくれる。実際、足利義満の勘合貿易は多くの利益をもたらした。


これらの理由から征西府は明への朝貢を進めた。征西府は明への貢物を用意し始めた。刀や工芸品を献上することになった。征西府は明に使節を派遣することになったが、明の制度をよく理解していなかった。そこで明に詳しい僧の力湘に教えを請うことにした。

力湘は征西府の要請を受け、明について講義を行った。林田隠岐守は明の政治・経済・軍事・社会・文化などを学んだ。林田隠岐守は明の国力に驚愕した。明の軍事力に驚いたが、明の文化・芸術にも感心した。特に絵画に感銘を受けた。


征西府は明に使者を派遣し、使者は皇帝に拝謁した。明の使者が征西府を訪れ、懐良親王は「日本国王良懐」の冊封を受けた。懐良ではなく、良懐となっていることについては当時の作法であえて字をひっくり返して名乗ったためである。征西府は朝貢によって権威を高めただけでなく、明の威信も高め、朝貢による朝貢外交の有効性を示した。


使節の供応は林田隠岐守の責任であった。手配は全て行き届いていた。席次は考え抜かれており、皆楽しんでいるようであった。林田隠岐守の念入りな事前準備は完全に報われた。


征西府は明の冊封体制に入ったことにより、明の制度を学ぶことができた。征西府は明の制度を学び、統治に活かした。林田隠岐守は朝貢船に金堀衆や鋳物師も同行させた。明国の採鉱技術や鋳造の方法を学ばせるためである。


日本が明国から学ぶことには造船技術があった。日本の造船技術は遅れていた。源実朝が陳和卿の大船を造らせたのも、政治からの逃避ではなく、先進的な造船技術を得るという意味があった。

「あれが帆柱か」

林田隠岐守は停泊していた明の船を指さして日本の船大工に尋ねた。

「何のために立てるのだ?」

「風を受けて進むためです」

「なるほど、しかし、なぜあんな高いところに作る? もっと低いところでもよかろう」

「それは……」

答えられない。その程度の知識しかない。

「帆布は何だ?」

「綿糸から織ったものです」

これも漠然としている。

「では、あの船はどうやって進んでいるのか」

「櫂を使って漕いでいます」

「なんとも奇妙なものだなあ」



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