足利尊氏は逆賊の冤罪を晴らしたい
多々良浜の戦いに勝利した尊氏は、太宰府天満宮に足を運んだ。太宰府天満宮は、冤罪で左遷された菅原道真を祀る場所であり、尊氏は道真の運命に共感していた。尊氏自身に逆賊の汚名という冤罪を晴らしたいという思いがあった。尊氏は戦での勝利と神の加護に感謝し、菅原道真を祀る神社に手を合わせることが、彼の信仰心と共感を表す方法と感じていた。
その日は静かな午後で、鳥のさえずりと風のざわめきが神社を包んでいた。尊氏は境内を歩んでいった。石畳に足音が響く。尊氏が本殿に到達した時、突如として空気が静まり返ったように感じられた。尊氏は一礼し、手を合わせて祈り始めた。
「菅原道真公、あなたの加護を受け、多々良浜の戦いに勝利しました。感謝の念と信仰心から、ここに参りました」
尊氏の前に、ふと、微かな光が輝くような存在が現れた。それは菅原道真の霊だった。
「あなたの勝利を見届けていたのだ。私の加護があなたに宿ったことを知り、喜びと誇りに思う」
尊氏は感慨深そうに頷いた。
「あなたの霊が私達を導いてくれたのです。私は道真公の冤罪を知っています。私もまた逆賊という名の汚名を着せられました。冤罪で左遷された道真公の運命に共感し、私もまた逆賊の汚名を晴らすことを願っていました」
道真の霊は優しい眼差しで尊氏を見つめた。
「その思いがあなたを勝利に導いたのです。あなたの勇気と決断が勝利をもたらしたのです。私はただ、その一端を担ったに過ぎません。しかし、勝利だけが全てではありません。勝利の力を使って、国を治め、人々を幸せにすることこそ、真の偉業です」
尊氏は真剣な表情で道真の言葉を聞いた。
「その通りです。私は勝利を手に入れたいだけではありません。国を再び安定させ、人々に平和をもたらしたいのです」
道真の霊は満足げに微笑んだ。
「あなたの心は正しい方向に向かっています。私の加護が、あなたの使命を支え続けます」
尊氏は再び手を合わせ、感謝の言葉を捧げた。
「道真公の言葉は私に勇気を与えてくださいます。どうか私を導いてください。国のために、人々のために、最善の決断をする力を授けてください」
太宰府天満宮の中庭に広がる静けさの中で、足利尊氏と菅原道真の霊は対話を続けた。彼らの心は一つに結ばれ、太宰府天満宮の境内には深い静寂が流れた。
尊氏は冤罪を晴らし、国を平和に導くため、天神の加護を信じ続けた。後に尊氏は京を奪回することになるが、その後も天満宮の存在を心に留めていた。京で道真を祀る北野天満宮にも深い敬意を示した。天満宮は尊氏にとって、冤罪を晴らし、神の加護を受けた証となる場所であった。
「道真公、私は再びお参りに参りました。お陰さまで京を奪回し、冤罪を晴らすことができました」
尊氏は心の中で祈りながら、北野天満宮の前に立つ。彼の言葉は風に乗って、神社の中に届いたように感じた。すると、神社の中から静かな声が返ってきたかのように聞こえた。
「足利尊氏、お前の勇気と信念に敬意を表す」
声は軟らかく、穏やかだったが、その言葉には力強さが宿っていた。
「道真公、私はお陰さまで勝利を収めましたが、まだ達成すべきことがあります。国を安定させ、平和をもたらすために、私は努力し続けます」
尊氏の言葉に、再び神社からの声が応えた。
「お前は道を正し、神の加護を受けている。その信念を忘れず、国のために尽力せよ」
尊氏は感謝の念を胸に抱きながら、頭を下げた。そして、心の中で神社に誓いを立てた。尊氏は道真の霊との対話を通じて、自身の信念と使命を強化し続けた。尊氏は国を安定させ、平和をもたらすために全力を尽くすことを誓い、天神の加護を信じて歩み続けた。その信念と努力によって、彼は日本の歴史に名を刻むこととなった。
尊氏は受動的消極的であったが、菅原道真の霊と対話した時はシャキッとなった。尊氏が矛盾の人と評される一因である。




