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南北朝時代の林田隠岐守に転生して南朝で戦います  作者: 林田力
南北朝時代の林田隠岐守に転生して南朝で戦います
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佐々木道誉は裏切りたい

箱根・竹ノ下の戦いでは降伏して先陣になった道誉が再度裏切るという飛んでもないことをした。道誉は裏切りばかりとなるが、常に尊氏の味方という点では一貫性がある。表裏比興の者と評されるような行動であるが、尊氏との関係では逆に誠実と信頼できる。尊氏は彼に対して特別な信頼を寄せ、その忠誠心を高く評価していた。


戦いの前夜に道誉の使者は尊氏に近づいた。その目には決意が宿っており、尊氏は彼の言葉を静かに聞いた。

「主は過去に裏切りました。その罪は消し去ることはできませんが、今度は違います。私は尊氏様の味方として戦います」

尊氏は道誉の言葉に深く考え込んだ。過去の裏切りが忘れられるわけではなかったが、尊氏は道誉に再び信頼を寄せる決断を下した。尊氏は道誉が尊氏とともに戦う意志を示していることを理解した。


戦いで道誉は先陣に立ち、その勇敢な姿勢が仲間達を鼓舞した。彼は再び裏切ることなく、尊氏と共に戦い抜いた。道誉の忠誠心が再び証明され、尊氏との絆はさらに深まった。それは彼らが共に築き上げた信頼の証であり、歴史に残る偉業の一部となった。


新田義貞は一二月一三日に全面撤退を決断した。殿しんがりは肥後から参戦した菊池武重が奮戦した。武重は千人の兵士で大軍を食い止めなければならなかった。この窮地に武重は槍と集団槍戦法「槍ぶすま」の発明で対抗した。武重は周囲に自生していた竹を切らせ、先端に小刀を結わえさせて即席の槍を作らせた。

「敵軍を引き付けるだけ引き付けろ。隙間を作らず、一斉に槍を立てるのだ」

菊池勢は、槍を手に取り、それを使いこなす技術と勇気を持って戦った。槍は彼らにとって新しい武器であり、その扱いには熟練が必要であったが、彼らは新たな時代に適応しようと決意した。この「槍ぶすま」によって菊池勢は千人の兵で三千人の敵兵を倒した。これは菊池千本槍と伝えられるようになる。


菊池千本槍によって戦場は新たな武器である槍の光り輝く場所となった。長大な槍は、それまでの騎兵主体の戦闘から、歩兵の重要性を際立たせる武器として台頭してきた。鎌倉時代は騎兵が主であり、弓と刀が主要な武器であった。槍が武器として登場したことで歩兵の重要性が増しつつあった。槍の長い射程と優れた突撃能力は歩兵に戦術的な優位性をもたらし、その存在は戦場のバランスを変えつつあった。


槍の普及は、戦国時代への布石ともなった。やがて一番槍や賤ヶ岳の七本槍という言葉が生まれ、槍は武将の象徴となった。武士達は新たな武術と戦術を学び、戦場においてその能力を高めていった。槍の登場は、日本の武道や戦術の進化に大きな影響を与え、歴史的な転換点となった。


天皇方の敗因として公家の問題と義貞の問題がある。実質的な総大将は義貞であるが、名目上の総大将が親王であり、親王取り巻きの公家が仕切っていた。義貞は公家に泣かされていた。


天皇方は直義を敗走させた後で追撃せず、伊豆国府に在陣した。このために尊氏が鎌倉を出陣して足柄峠に布陣する余裕を与えてしまった。これは勝機を逃した義貞の失策と批判される。しかし、強行軍を嫌う公家の意向に足を引っ張られたものであった。


義貞自身も問題がある。鎌倉武士の伝統を持つ義貞は平原の騎馬戦は得意でも、山岳戦は苦手である。同じ南朝の武将でも楠木正成とは対照的な存在である。義貞に比べると足利氏は三河国に勢力を持っており、また、尊氏の母の実家の上杉氏は丹波を本拠とする。鎌倉武士の固定観念から自由になっている。


義貞の家臣は全軍が天竜川を渡った後に橋を破壊しようとした。足利勢の追撃を遅らせるためである。しかし、これを義貞は制止し、橋はそのままにした。

「敵に追いつかれまいとして、橋を切り落としたと言われては末代までの恥」

この義貞の行動には肯定と否定の両面の評価がある。

先ず肯定面である。橋を破壊することは民間の人々の不便になる。このために義貞の行動は称賛された。

次に否定面である。武士の名誉という道徳観念に捉われて合理的な戦術を取れない硬直性がある。このこの武士の道徳は平和な時代に形成された観念である。源平の合戦を戦い抜いた武士達にも、この種の感覚はない。鎌倉時代初期の梶原景時の変後に御家人の渋谷高重は梶原景時を以下のように酷評した。

「近くの橋を落として館に立て籠もれば良かったのに逃げ出して、その途中で討たれた。みっともないことだ」



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