建武の新政は派閥対立を解消したい
建武の新政は様々な派閥対立を抱えていた。
第一に足利尊氏と護良親王の対立である。尊氏は鎌倉幕府に代わる新たな幕府を開くことを理想とした。そのような尊氏を護良親王は危険視し、自らが征夷大将軍になることを求めた。
護良は早い段階から多くの武士に呼び掛け、各地で転戦して倒幕に大きく貢献した。一方で倒幕の決定的な貢献は尊氏である。有力御家人の尊氏が裏切ったからこそ幕府配下の多くの武士達も倒幕に参戦した。護良の令旨に応じた武士達と高氏（当時）の呼びかけに応じた武士達の派閥対立が生じた。
第二に後醍醐天皇と護良親王の政治思想の対立である。後醍醐天皇は天皇親政を理想とした。公家も武家もなく、天皇の下に統一的な支配を行うことを目指した。これに対して護良親王は伝統的な朝廷では武家を統制できないと考え、自分が武士の棟梁である征夷大将軍になることを求めた。
尊氏と護良は対立したが、御醍醐と比べると政治思想は近い。対立は誰が武士の棟梁になるかである。護良の熱烈な支持者であった赤松円心は護良失脚後に失脚の原因となった尊氏を憎まず、尊氏の支持者になった。これは政治思想の点では護良と尊氏が重なるからだろう。
第三に阿野廉子派と大塔宮護良親王派の対立である。阿野廉子は後醍醐天皇の寵愛を受けていた。天皇に近い阿野廉子派が人事や恩賞で優遇されるという不公平な対応がなされた。
特に後醍醐天皇の綸旨ではなく、護良親王の令旨で動いた武将は評価されなかった。典型は赤松円心である。足利尊氏や新田義貞や楠木正成らは鎌倉幕府と戦った功績が評価されて国司になったが、円心だけは本領安堵のみであり、新たな恩賞は何もなかった。
円心の本拠の播磨国では新田義貞が播磨守になった。新田義貞は上野守と越後守も兼ねている。上野は義貞の本拠地の新田荘がある。越後も新田一族の領地がある。これに対して義貞は播磨には縁がない。義貞の播磨守就任は円心にとって腹立たしいことであった。
「尊氏も義貞も正成も円心も長年も、皆その功績は等しく、恩賞も公平にするべきなのに円心だけは本領安堵であった。何の咎もないのに不公平である」
この差別には後醍醐天皇側近の万里小路藤房からも批判の声が出た。
円心は播磨守護になる。この経緯には諸説ある。
第一に本領安堵のみという不公正な人事に対する埋め合わせとする。
第二に護良親王の巻き返しによる推薦とする。円心は護良親王失脚後に播磨守護を没収されており、護良親王と連動していたとすることが自然である。
第三に播磨守の義貞の推薦とする。上野介と越後守になっている義貞は播磨まで手が回らず、有力な味方が欲しかった。しかし、後の円心と義貞の対立関係からすると現実味が乏しい。
第四に足利尊氏の推薦とする。尊氏は建武の新政に不満の武士を味方にしようとしていた。これに円心が恩義を感じたとすれば円心の後の行動の説明がつく。一方で護良親王と尊氏は対立しており、この時点で尊氏が円心に恩を売るだろうか。そこまで護良親王派を切り崩していたのだろうか。
