幕府の手先
「この辺りには隠れ切支丹がいるという噂を聞いたが……」
「さあ……知りませんね」
「そうか……。もし、そのような者がいれば、すぐに名乗り出るように」
「分かりました」
「それなら、良い」
「はい。ご苦労様でした」
「私は切支丹ではありません。だけど、神を信じることの自由を奪うことは間違っていると思います!」
「ありがとうございます……。最後に一つだけ教えてください。もし、私が切支丹になったらどうしますか?」
「別に何も変わりませんよ。ただ、困っていたら助け合いましょう」
「……そうですか。それを聞いて安心しました」
「皆さん!どうか最後まで諦めないでください!」
「おうっ!!」
幕府は切支丹禁制策を推し進めた。しかし、取り締まり強化だけでは効果がなかった。それどころか、切支丹を弾圧すればするほど、かえって切支丹が増えていく始末だった。
「……何としても切支丹を根絶やしにしなくてはなりませぬな」
「そうですな……」
ある潜伏切支丹の父親は百姓だったが、母親は遊女だった。そのため四郎は幼い頃から遊郭で育った。島原の乱が起きるまでは貧しいながらも平穏に暮らしていたが、乱が起きたことで生活は大きく変わった。幕府軍によって廓や遊廓は全て焼き払われた。母親も一緒に焼け死んだ。
その後、母親の実家に引き取られたが、そこでも差別を受け続けた。しかし、彼はそれを恨むことはなかった。なぜならば、自分は神に選ばれた特別な人間なのだと信じていたからだ。だからどんな酷い扱いを受けても耐えられたし、むしろ誇りさえ感じていた。
そんな彼に対して周囲の人間は冷たかった。特に幕府側の人間の態度は酷かった。彼らは切支丹を徹底的に弾圧した。切支丹狩りと呼ばれる拷問が行われ、多くの切支丹が殺された。中には子どもを殺す親もいた。
そんな状況の中で、彼は切支丹であることを隠しながら生きてきた。切支丹であることが露見すれば殺されるかもしれない。だから必死になって隠してきた。
ある日、彼は一人の男と出会った。彼は幕府の役人であり、キリシタンを取り締まる仕事をしていた。そんな彼に四郎はある頼み事をした。
「お願いです!どうか私を切支丹として処刑して下さい!!」
「何だって!?」
「私は切支丹なのです!!だから早く殺して下さい!」
「何を馬鹿なこと言っているんだ!そんなことをしたらお前は地獄に落ちてしまうぞ!?」
「構いません!私は天国に行って神様になるんです!」
「バカを言うんじゃない」
「でも、このままでは殺されてしまいます」
「安心しろ。俺に任せておけ。必ず助け出してやる」
「本当ですか!?」
「ああ、約束する」
「ありがとうございます」
それから数日後、彼は処刑された。
「私は天国に行きたいのです」
その言葉を最後に彼は息を引き取った。この知らせを聞いた時、男は心の底から喜んだ。これで自分が出世できると思ったからであった。
「やったぜ!俺はついにあの憎き切支丹を始末したんだ」
「よくやりましたね。さすがです」
「はっはっはっ、もっと褒めてくれ」




