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レオ林田一家の殉教

レオ林田一家は慶長一八年一〇月七日に役人によって牢屋敷から有馬川の中州に連れ出された。火刑にするためである。アドリアノ高橋とレオ武富の一家も同じである。祈りのためにローソクを持って集まった信徒たちは二万人に膨れ上がり、レオ林田一家にすがりついて衣服の端を切り取ろうとする者もいた。

「子ども達だけは殺さないでくれ!」

「そうだ! 子ども達だけでも見逃してくれ!」

「頼む! 子どもだけは!」

「お願いだ! 子どもだけは何卒ご容赦を!」

「やめて下さい!お願いですから、子供たちを殺さないで下さい!」

集まった人々は次々と叫び始めた。

「うるさい奴らめ! 黙れ!」

執行人が怒鳴ると、辺りはシーンとなった。

「我らは信仰のために死んでいく。有馬の切支丹達がこれからも信仰を守っていくことを祈る」

レオ武富勘右衛門は群衆に向かって発言した。

「お前たち切支丹どもは、いつもそう言うのだな? だが、今日こそ年貢の納めどきだ。観念しろ!」

役人達は三家族八人を柱に縛りつけた。

「皆のもの、心静かにせよ。これより火刑を執行する。しかし、今一度考えて欲しい。貴殿らの罪は何であるか?」

奉行の声であった。

「それは、主キリストの教えを信じたことです!」

レオ林田助右衛門は答えた。

「そうか……」

奉行は寂しげな表情を浮かべた。

「さあ、みんな死ぬ覚悟を決めろ!」

執行人は大声で言った。執行人達は四方八方から火をつけた。

「うむ……」

レオ林田助右衛門は目を閉じて呟いた。

「父上ぇーっ!!」

ディエゴ林田が絶叫した。

「主がお望みならば死にましょう。子よ、天を仰ぎなさい」

マルタ林田は燃え上がる炎と煙の中で子ども達を励ました。

「おお、主よ。これから先、何があろうと、決して離れることはありません。この身を焼かれようと、地獄の業火に抱かれようが、決して貴方から離れないでしょう」

「ああ、主よ、どうぞ、我らをお導き下さい。主よ、ご加護をお願いします」

「ああ、主よ。我らは貴方を崇め、讃え、お慕いし、祈ります」

「ああ、主よ。貴方を愛しております。心の底から、この身が朽ち果てるまで」

「ああ、主よ。貴方は偉大です。貴方は素晴らしい」

「ああ、主よ。貴方の慈しみに感謝いたします。貴方のお恵みを胸に刻み、日々を過ごしていきます」

「ああ、主よ。私は貴方と共にいます。いつまでも、どこまでも、共に歩み続けさせて下さい」

「おお、主よ。今日もまた、私は貴方の許を訪れました。私の心を、魂を満たして頂きたいのです」

「おお、主よ。私は貴方の忠実な僕でございます。私の全てを捧げ、永遠に尽くさせていただきたく存じ上げます」

「おお、主よ。貴方が私に与えてくれた奇跡の数々を忘れません。貴方が授けてくださったものは全て、今もなお、輝き続けております」

「おお、主よ。貴方を崇拝しております。この世の誰よりも、深く、強く、熱く、激しく、狂おしくなるほどに……」

「おお、主よ。私は貴方に救われました。あの地獄のような場所から抜け出すことができます。感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」

ディエゴ林田の縄が火でちぎれると、彼は走って母マルタのところへ行き、マルタは彼に天を指し示してともに殉教した。ディエゴ林田は「イエス、マリア」と唱えつつ息絶えた。

マグダレナ林田は縄が切れると自ら燃え盛る薪を手に取って頭上に置き、右手で頭を支え、神への感謝を示し神にその身を捧げた。信徒達は涙を流しながら祈った。火刑が終わると柵を乗り越えた。役人は棒を振り回して群衆を追い払おうとするが、多勢に無勢だった。

役人が危険を感じて引き揚げると、人々は遺体を取り囲み、熱心に祈りを捧げ、賛美歌を歌った。マグダレナ林田の腕など遺体の一部は崇敬のために切り取られた。処刑場の土も持ち帰られた。残った遺体は長崎に運ばれて葬られた。


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