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尾藤知宣

仙石秀久の改易後は尾藤甚右衛門知宣が領主になった。知宣は織田信長の家臣であった。知宣は信長には信頼されていたエピソードがある。美濃攻めのある戦いで織田信長の先手が敗北し、本陣まで危うくなったことがある。

「尾藤はいないのか」

信長は家臣に尋ねた。

「三の備えにおります」

「ならば苦しからず」

信長は慌てた様子がなかった。その後に二の備えも破られたが、知宣のいる三の備えが受け止めて突き返し、敵は敗れて引き退いた。


その後に知宣は森長可の配下になったが、羽柴秀吉の配下に移る。合わないことがあれば移動することが正解である。秀吉の配下では黄母衣衆となった。黄母衣衆は馬廻から選抜された武者で、黄色の母衣指物の着用を許された。


草創期の秀吉家臣団の和やかなエピソードがある。秀吉が長浜城主の頃に秀吉家臣の戸田勝隆と一緒に狩りに出かけた。勝隆は山鳥と兎を仕留めた。しかし、知宣は何も獲物がなく、落ち込んだ。


「獲物がなければ面目もたつまい。ならば釣りでもしよう」

勝隆は帰り道の沢で釣りに誘った。知宣は見事な鯉を二匹釣り上げたが、勝隆は何も釣れなかった。そこで、二人は兎と鯉を交換して帰った。


小牧・長久手の戦いでは池田恒興と森長可の部隊の軍監になった。小牧山攻めを提案した森長可の意見を承認して共に出撃したが、羽黒で酒井忠次や榊原康政らの奇襲を受けて敗走した。


九州征伐では仙石秀久の後任の軍監になった。秀久が積極的に攻撃して失敗したので慎重に徹した。


知宣は宮部継潤や黒田官兵衛・長政親子らとともに日向国に出陣したが、深刻な食糧難に陥った。山に入って山芋や筍を取って飢えをしのいでいた。宣教師の中には近い将来に豊臣勢は食糧難で自滅すると予想する者もいたほどであった。


新たに豊臣秀長が兵糧米一万石を携えて到着した。諸将は秀長が兵糧米を自分達に分け与えてくれるものと期待した。ところが、秀長は兵糧米を高額で売却して利益を得た。これに諸将は腹を立てたが、秀吉の弟の秀長の意向を恐れて誰も文句を言えなかった。


秀長は諸将を招いて宴会を行おうとした。知宣のところにも招待の使者が来た。

「それがしは秀長様に支払う食事代の持ち合わせはない。よって欠席させていただく」

知宣は激怒して使者を追い返した。


その後に根白坂の戦いが起こる。継潤の守る根白坂砦が島津に攻め込まれた。継潤は空堀や板塀などを用いて砦を堅守した。秀長は諸将を集めて軍議を開いた。

「幸いにも島津勢が出てきました、一人残らず討ち果たせるでしょう。ここで勝てば、その勢いのまま薩摩を攻めることも可能です」

黒田官兵衛は出撃を主張した。

「仙石の時と同じく罠である。島津の戦術は表より裏に人数を多く控えさせるものである。それぞれの陣を堅固に固めよ」

軍監の知宣は慎重論を唱えて援軍を出させなかった。ところが、秀長配下の藤堂高虎が独断で僅かな手勢を率いて救援に赴き、島津に大損害を与え、豊臣勢の大勝利になった。ここでも知宣は深追いを危険とし、敗走する島津勢を追撃させなかった。深追いし過ぎないことは軍略の基本中の基本である。特に島津は釣り野伏を得意とする。


根白坂の戦いの報告を受けた秀吉は知宣の消極性に激怒し、所領を没収して追放した。知宣の武具の幾つかは秀吉の命で加藤清正に渡った。後に知宣は小田原平定後の天正一八年(一五九〇年)七月、下総の古河で秀吉の前に剃髪して現れて赦免を求めたが、激怒した秀吉に斬殺された。秀吉の恐怖政治は普通に呼吸しているだけで息苦しさを感じてしまうほどであった。


前任の軍監の仙石秀久は小田原の陣に浪人を率いて参陣し、秀吉に帰参が認められ、大名として復活することになる。秀久が戸次川の戦いで大敗して多くの将兵を死なせたことを考えると不合理である。知宣も根白坂砦を救援しないことで将兵を見殺しにしたことになるが、救援に行くことでより大勢の将兵を死なせる危険を避けたためである。


秀久と知宣の大きな相違として、秀久は小田原の陣に参戦した、これに対し、知宣は小田原の陣が秀吉の勝利に終わった後で来た。これが秀吉の怒りの理由である。また、秀久は徳川家康の陣を借り、家康のとりなしがあった。


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