源頼朝の再挙
源頼朝と三浦一族は安房国で合流し、再挙した。房総半島を北上して上総国と下総国に進む。上総介の上総広常は約二万の大軍を率いて頼朝に合流した。頼朝は大軍を率いた広常に低姿勢にならず、逆に遅参を咎めた。しかし、広常は様子見で遅れたのではなく、上総国の敵対勢力と戦っており、最初から反平家であった。
広常は頼朝の父親の源義朝の家人であった。平治の乱でも義朝に従い、敗走する途中まで義朝と一緒であった。義朝と別れた後に自力で上総国の領地に戻った。広常は大武士団の長として頼朝にも傲岸不遜な人物とされ、それが理由で頼朝に誅殺されたと描かれる傾向がある。しかし、広常の謀反は冤罪であった。
歴史作品では頼朝に合流した時から描かれがちであるが、義朝の郎党として忠義を尽くした人物という前半生を知ると異なるイメージがある。むしろ頼朝はもっと広常を大事にすべきであったのではないか。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』（2022年）は広常の謀反を冤罪と描き、その死を多くの視聴者が悼んだ。
頼朝の軍勢は武蔵国に入った。足立遠元らが一〇月二日に頼朝を迎えた。遠元は平治の乱では源義朝の陣営で戦った源氏の家人である。頼朝を真っ先に出迎え、頼朝から武蔵国足立郡を本領安堵された。これは頼朝が最初に本領を安堵した例になる。
本領安堵と言っても足立氏が足立郡を一円支配していた訳ではない。足立という名字からすると先祖代々足立郡に土着しているイメージがあるが、むしろ当時は新しい領地の地名を名字にする傾向があった。たとえば北条義時は江間義時と名乗っている。足立氏には足立郡司の子孫との説があるものの、京都から来た中級貴族が土着した説が有力である。足立氏は足立郡の外来者であった。
源頼朝が武蔵国に入ると重忠は去就を迫られた。重忠は三浦氏の衣笠城を一緒に攻めた河越重頼、江戸重長と相談した。
「佐殿の軍勢が武蔵国に入った。どうしようか」
重忠が問題提起した。
「佐殿に帰参するか、平家方として戦うか…」
重頼が答えた。
「帰参といっても、我々は既に三浦氏と交戦している。頼朝公に帰参するのは容易ではないだろう」
重長も答えた。
「確かに、我々が三浦氏と戦った今、頼朝公に帰参することは簡単ではない。しかし、もはや平家方に未来はないのが実情だ」
「その通りだ」
「では、帰参の意志を示すべきか」
「そうだ。佐殿に帰参を申し出よう」
三人は重々しい表情で頷き合い、重忠の決断を確認する。彼らは帰参の準備を整えるために動き始める。
重忠や河越重頼、江戸重長ら秩父平氏は一〇月四日に帰参した。重忠は先祖の平武綱が八幡太郎義家より賜った白旗を掲げた。このパフォーマンスは自己を義家になぞらえたい頼朝から好感を得た。
「この度はお目通りいただき、誠に光栄です」
重忠は堂々とした姿勢で頼朝に挨拶した。
「畠山重忠、汝の忠義と勇気に感銘を受けた。白旗を掲げたことは、源氏の誇りだ。その勇姿を後世に伝えよう」
頼朝は深い感慨に浸りながら、重忠に敬意を示した。頼朝は重忠の白旗に藍革を付け、先陣を申し付けた。
「汝は我が先陣を務めよ。我が命を受け、勇敢に戦場で立ち向かえ」
重忠は喜びと感謝の念に胸を満たし、新たな使命を授けられたことを知る。重忠は頼朝の命令に従い、白旗の物語を後世に伝えるために、一族郎党と共に奮闘することを誓った。
「是非とも、佐殿の命に従い、白旗の物語を後世に伝えるために奮闘致します」
白旗の誓いと共に、畠山一族はその使命を果たすために奮闘する日々が始まった。彼らは白旗を象徴とし、勇気と忠義の心を持って、頼朝の下で活躍することとなる。
三浦一族は攻撃された恨みから重忠の帰参に反対した。
「我ら三浦一族は、畠山一族を許すことはできん！彼らが我らに加えた恨みは深い！」
「重忠がここに戻ってきても、我らは歓迎しないぞ！」
頼朝は武士たちの声を聞きながら深く考える。
「畠山一族を取り込むことは重要だが、三浦一族の恨みも理解せねばならん。」
頼朝には重忠の協力がなければ武蔵国を掌握できないという計算があった。頼朝の理解と決断により、重忠らとの戦争の災禍は回避された。
頼朝は重忠と三浦一族の双方に言った。
「三浦一族と畠山一族が手を取り合い、共に歩む道を見つけることができると信じている」
畠山氏と三浦氏の武士達の間に、和解と共存の意志が芽生える。双方の間には、かつてないほどの信頼と友情が育まれていくこととなる。
頼朝は秩父平氏の江戸重長に武蔵国雑事を委ねた。
「江戸重長よ、武蔵国の雑事は汝に委ねる。我が頼みに応じ、国を治めよ」
「かしこまりました。この使命を全ういたします」
重忠には鎌倉への先陣を命じた。鎌倉は頼朝の父の義朝と兄の義平が暮らした場所であり、頼朝は鎌倉を源氏の本拠地とするつもりであった。
「畠山重忠、汝に先陣を務めさせよ。我が名の下に、鎌倉を目指せ」
「かしこまりました。我が使命を全ういたします」
河越重頼が武蔵国留守所総検校職であったが、頼朝は秩父平氏の個々と結ぶことで自己の支配を強めた。
風が吹き抜け、草原が揺れる中、重忠は頼朝の軍勢の先陣として鎌倉に向かった。抵抗らしい抵抗はなかった。逆に参陣を希望する武士達が集まった。重忠は来る者拒まずの精神で参陣を歓迎した。
「参陣を歓迎する。平家の勢力は依然として強固である。我々はここから先も団結し、勝利を手に入れねばならん」
「はい。我らは平氏に挑む覚悟で参じました。勝利のために全力を尽くします」
結局、敵はほとんど姿を現さず、重忠は一〇月六日に無傷で鎌倉を手に入れた。鎌倉に入った頼朝は鎌倉殿と呼ばれ、南関東の統治者としてふるまった。頼朝の家来は御家人と呼ばれた。重忠も御家人になった。
