小山さんとお買い物2
ブクマ評価感想にレビューまで頂いて、ありがとうございます。今回と次回は少し真面目な話です。ちょっとだけ我慢してくれ~私はこういうのも好きなんです~とぶつぶつ悩んでいたらいつの間にかできていました。よろしくお願いします。
その後のデートは順調だった。
小山さんが行きたいお店に行って、それに付き添った。お互い気を遣わなかったと思う。
服屋に入った時なんかは、何着も何着も試着して、俺にいちいち感想を求めた。
俺は何を見ても「超似合ってる」としか言えなかった。
ファッションは分からない。ただ全部似合ってるように見えた。
小山さんが可愛いから似合ってるように見えるのか、全部センスが良かったのか分からなかったから、第三者の意見としてあまり適してはなかったと思うけどそれでも小山さんは嬉しそうに笑った。
俺の顔色を窺ってくるようなことはもうしなくて、それが嬉しかった。
小物屋さんにも行った。
俺がドクロマークの銀のネックレスを「かっこよくね?」と見せたときは「アハハ」と笑うだけだったので買うのをやめた。
……ここだけは気を遣わせたかも。
どの店でも視線を集めたし、会話するところを聞かれてびっくりしたように見られたこともあった。でもあんまり俺は周囲が気にならなかった。ただ、楽しい時間だった。
少し事件が起こったのは靴屋さんに行った時だ。
店員さんが怯えるように近寄ってきた。
「も、申し訳ありませんお客様。当店は女性専用の靴屋でして……その……」
「ああ、すみません。彼女の付き添いです。一緒に見て回っていいですか?」
「は、あ、彼女さんでしたか!も、もちろん構いません!」
「……日本語って不便ですね。そう思いません?」
はてなマークを浮かべる店員さんを見て小山さんはクスクス笑っている。
店員さんに彼氏彼女と誤解されたが、まあ別に構わないだろう。彼女はそのまま店員さんに商品の説明を受けている。
「男の人の付き添いで買い物なんてそんなのあり?」
「金持ちは男の人を金で雇ってそういうことするって聞いたことあるよ」
「え~それマジ?やば~」
そんなひそひそ声が聞こえてきた。
訂正しようかどうか迷って小山さんの方を見ると全く気にしていなさそうだったのでほっとくことにした。
小山さんにそっと近づいて話しかける。
「ブーツってかっこいいよな」
「えー?可愛いでしょ~」
感性の違いにおかしく思いながら一緒に店員さんの話を聞く。
「今日のコーデに合う靴ですと、そうですね。ベージュのスカンツですから何でも似合うとは思います。今のスニーカーですとカジュアルな雰囲気ですが、大人っぽい靴も似合うはずですよ」
それ!そういうことが言いたかったの!と待ち合わせた時、服を褒めれなかったことを思い出しながらうんうんと頷く。そうそうカジュアルね~カジュアル。その言葉が出なかったな~。
「ですから例えば、ヒールのパンプスとかどうでしょう。色は黒か……赤か。お客様なら赤をお勧めしますかね。ただ他の服に合わせやすいのは黒……お客様?どうかされました?」
「あ……あ……あたしは……ヒールは……」
小山さんの方を見ると少し口を開けて固まっている。様子がおかしいと思って声をかける。
「小山さん?」
「あっ」
ビクッと体を緊張させて後ずさった。俺の方を見て小さく震えている。
すぐハッとして「あ、あ、その」と弁明するように声を発した。
「ご、ごめんね~ちょっとその、何でもない。ほんとごめんびっくりしちゃった」
明らかに何か動揺している。
落ち着かず、少し気分が悪そうに見えたので店員さんに断って店を出た。
「ごめん。もう大丈夫なんだ~。靴屋さん戻ろ?」
少し顔が青白く見えた。
俺はグッと伸びをして、肩を回しながら言う。
「いや~、それよりちょっとショッピング疲れちゃったから、下の喫茶店とか行かない?そろそろ休憩しようよ」
小山さんは「ごめん」と俯いた後ニコッと笑って「そうしよっか~」と言った。
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コーヒーをすすりながら申し訳なさそうにしている小山さんの方を見る。対面のテーブル席だ。
人が行き交ってあまり静かではない喫茶店の喧騒もどこか遠くのことのように感じる。
小山さんは自分のコーヒーを見つめながらポツリポツリと話し始めた。
「……実は今日お母さんに早く帰って来いって言われててね」
「え?お母さん?」
「いや~昨日浮かれてたからお母さんに水嶋君のことバレちゃって~。それで、そんな怪しい人、女の子の買い物に付き合うなんて言う人には何されるか分からないから、早く嫌われて帰って来いって」
小山さんはコーヒーカップを両手で握ったまま喋る。
「あたしは水嶋君のこと大丈夫だって信じてたから普通にしようと思ったんだけど、やっぱりちょっと不安で、それで挙動不審だったかも」
そんな事情だったのか。トイレじゃなかった。
それにしても男の人との外出を心配する母親なんて珍しい。
「なんというか……過保護なお母さんだ」
そう言うとぶんぶんと首を振って否定した。
「違うの!その、あたしのせいなんだ。あたしが彼氏とのデートから帰ってくるたびに、その、泣いちゃうから、それで心配してくれてるだけなの」
そう言って俯いた。
その言葉を聞いて俺は、喉の奥に突き刺さっていた疑問がやっと形になって口から出てきた。
「もしかして、男の人苦手なの?」
そう言うと小山さんは顔を上げてまた、ぶんぶんと首を振った。
「ううん!男の人は好き。ほんとだよ!異性の魅力っていうか、女の人にはないかっこよさに惹かれちゃうんだ」
その後「でも」と言って、少し小さい声で付け足した。
「……乱暴なのはちょっと苦手」
がやがやと人の話し声が聞こえる。遠くでモールの館内アナウンスが響いている。
小山さんはこちらをチラッと覗き見て笑った。
「しょーもない話聞いてくれる?」
俺はあまり真面目な話は好きじゃない。コーヒーをすすりながら笑った。
「まぁしょうがない。悩み事を聞いてあげるのも友達の務めかな」
小山さんはアハッと笑って、なんでもないことのように話し始めた。