小山さんとお買い物1
ブクマ評価感想ありがとうございます。昨日ヘイトフルエイトという映画を観ました。超面白かったのでおすすめです。面白すぎて放心していたらいつの間にか8話が出来ていました。
約束の15分前に待ち合わせ場所に着いた。
駅に併設されたショッピングモールの東出口だ。今日はこのモールで小山さんと買い物をする。
俺は内心超浮かれていた。妹にはデートじゃないと言ったが、異性と二人きりで買い物なんて、デートと言い換えることも可能だ。
俺が着いたときには既に小山さんが居た。なんとなく先に着いて待っていたかった。マツリとゲームなんかせずに一時間くらい前から待っていたらよかったか。
いやいや、デートはデートでも、彼氏彼女のデートではないんだからそんな気を使うべきじゃない。と思いながら待ち合わせお決まりのセリフを言う。
「ごめん、待った?」
「あ、水嶋君。ほ、ほんとに来たんだぁ~……」
「ううん今来たとこ」という言葉は返ってこず、代わりになんか微妙な顔で迎えられた。
あれ?なんか妙にしおらしい気がする。
小山さんの私服は似合っていた。オシャレ番長だのとフカシこいたこともあるがファッションに詳しくなさ過ぎて褒める言葉が出てこない。
なんか、茶色いスカートがひらひらしてて、長めだけど重たくはない感じで、スニーカーと合わさってその、ラフな感じ?いや、ラフって適当って意味ではもちろんなくて。その。
こんな感じだから褒めないほうがいいだろう。
というか何度も言うが彼氏彼女のデートではないんだからそんな気を使うべきじゃない。変に褒めたら下心が透ける。
そんなことをごちゃごちゃ考えている間、不思議なことに小山さんは黙っていた。
もっとグイグイ俺を引っ張っていってくれるのかと思っていたのに今日は様子がおかしい。
「えっと、じゃあ早速行こっか」
「う、うん!」
結局俺が先導することになった。
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「あの~申し訳ないんだけど、俺今日は小山さんの買い物の付き添いのつもりで来たからなんもプランとか考えてないんだけど……」
「そっそうだよね!ごめんちょっとぼーっとしちゃって!」
笑顔もぎこちなく、いつもの甘ったるい感じのしゃべり方もなりを潜めている。極めつけにこっちの顔色をちらちらと窺ってきているように思う。
右手と右足が同時に出ていて、彼女が普段からなんば歩きでないのならこれは緊張している証だろう。
……もしかしてこれは……意識されてる!?
友達同士とはいっても所詮男と女。俺が浮かれているように小山さんは緊張しているのだ。
ここは俺がいいとこ見せて、いっちょハートを掴むしかねぇ!
「よっしゃ!じゃあ俺が」
「ご、ごめん!トイレ!」
「え?」
まさかトイレを我慢してただけ?
いやいや流石にそんなはずは……。と思うが分からない。
トイレから出てきた小山さんがスッキリしてスッキリした表情になってたらトイレが原因だったことになるが果たして……。
妙にドキドキした気持ちで小山さんのトイレを待っていると、急に声を掛けられた。
「ねぇかっこいいお兄さ~ん♡今一人~?」
目の前には大学生くらいのセクシーなお姉さんが立っている。
99%逆ナンだろう。
俺は学校ではモテないが、外出先では割とモテてよく声をかけられる。
「いえ、今日は友達と一緒に来ています。だからすんません」
「あ、え、そ、そうですかはい」
俺の返事を聞くと急におどおどしてそのままどこかへ去っていった。
全くいつもいつも、肉食系のクセにこれくらいで引き下がってんじゃねぇ!もっとガッツ出せよ!と思うが今日だけはあっさり引いてくれてよかったと思える。小山さんがいるからな。
と考えているといつの間にかすぐ横に小山さんが立っていた。俺の顔をまじまじと見つめている。
「……よかったの?」
……もしかしてついていきたそうにしてましたか俺は。だってしょうがないじゃんセクシーだったもん。
「今日はもう既に小山さんとの先約があるからね」
当たり前のことを言うと小山さんは俯いてしまった。小さな声で何か呟いている。
「うん……うん……そうだよね。水嶋君なら大丈夫だよね……」
「小山さん?どうかした?」
もしかして今日は調子でも悪いのか?
そう思った途端、ニコッと笑顔で顔を上げて
「ごめ~ん♡ちょっと色々考えててぇ、でももう大丈夫!」
何か吹っ切れたようで、いつもの小山さんに戻ったように見える。
思い当たる原因はトイレくらいしかない。マジで我慢してたのか。
「じゃ、行こっか!楽しまなきゃ損だよね~」
と言って俺の腕を引いて歩き出した。
あっ、友達にもこの距離感なんだ。
と密かに鼻の下を伸ばしながらついていった。
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モールを雑談しながら歩く。話のタネになるかなと疑問を投げる。
「そういえば、ちょっと悩みなんだけど聞いてくれる?」
「なに?」
小山さんは笑顔で俺を見上げる。
「さっきみたいに誘われた時、なんか俺だけ妙にあっさり引き下がられる気がするんだけど、女性から見てなんか分かる?」
「あ~分かるよ~。あたしも同じふうに思ったもん」
え、マジか!長年の疑問にとうとう答えが出る日が来たか!?
小山さんは「えっとね」と少し言いにくそうに言葉をつづけた。
「男の人って~、あたしたちをこういう顔の「女」として接してくるでしょ?それで、言いにくいけどあたしたちも実は同じで、アタックする時はこういう顔の「男」に話しかけてるつもりなんだよねぇ~」
「ほう」
「なのに水嶋君は名前聞いてきたでしょ?」
「うん」
名前が分からないとなんて呼べばいいか困るし。
「それされた時、恥ずかしくなっちゃったんだよね~。こっちは「男」に話しかけてるのに水嶋君は「あたし」に話しかけてくるんだもん。ヤバいぐらい失礼なことしたって正気に戻るって言うか。だから水嶋君は女子にとっての黒歴史なんだよ」
女子にとっての黒歴史!?
この世で一番の汚名じゃん。
「やっぱり「男」に話しかけてるんだから「女」に返事してくれたほうが楽だって皆思うんじゃないかな~」
「そ、そうだったのか……」
バリバリショックだったが、参考になる意見だった。やはり自分の性格を矯正するところから始めなければ。
そう考えこむ俺に、弾むような声で小山さんは言った。
「でもあたしはずっと水嶋君みたいな人を探してたから嬉しかったけどね!」
アハッと笑う小山さんを見て俺はぽーっとした。
「ラブ」だ……。
性格の矯正はしないでおこう。そう思った。