妹を慰める
ブクマ、評価、感想ありがとうございます。感想として直接応援いただくのも、ブクマ、評価として無言で背中を押していただくのも凄く嬉しいです。おかげさまで気付けば6話が出来ていました。
午後の授業が終わった。今日は部活もないのでさっさと帰る。
どうせならマツリと一緒に帰ろうと思ったが、何やら用事があるから先に帰ってと言われたので一人帰路についた。
小山さんとはあの後LINEを交換した。交換した瞬間目の前でいそいそとスマホを操作して『よろしくね~!』と送ってきた。犬が「よろしく」と言っているスタンプで返事すると「アハハ、かわい~」と笑った。
その笑顔を思い出すと、胸の上の方がキュンと切なくなる。あぁ……恋の痛みだ。好きな人が増えてしまった。
そんな風にしっとり考えながら家の扉を開く。妹の靴があった。今日は早いお帰りのようだ。
「ただいま」
リビングの扉を開けながらそう言ったが返事がない。自分の部屋にいるのかな?と思って見回すとテレビの前の長めのソファでうつ伏せになっていた。
首を横に曲げてなくて、明らかに寝ている体勢ではない。その体勢で寝れるやつは呼吸をケツでしているだろう。
カバンを置いて近づくと「……おかえり」と小さい声が聞こえた。何か落ち込んでいるようなので優しく声をかけてやる。
「……どうした?なんかあったのか?」
「……」
「遠慮せず言ってみな?」
「…………い」
「ん?」
「彼氏が!!!できない!!!」
その切実な叫びを聞いて俺は胸が揺さぶられる思いがした。万感の思いを込めて拍手をしてやる。
「それでこそ俺の妹だ!!!」
「やだーーーーーー!!!」
ガバッと起き上がって拍手をやめさせようと掴みかかってきた。手を抑えられたので拍手ができない。
「またフラれたのか」
「うん……」
妹、水嶋鈴は中学二年生だ。この年でいまだ彼氏が出来たことがないというのは少数派だろう。最近妙に焦り始めている。
愚痴を語り始めたので聞いてやる。
「あのね……田中君がね……あ、サッカー部のイケメンなんだけど、八人の彼女の内一人と別れたから皆でその後釜を狙ってね……」
「うん……」
「アピールしたんだけど私は結局選ばれなかったの……」
「そうか……」
「親友のキミちゃんが選ばれたの……」
「キミちゃん……」
存分に落ち込むがいい……。叶わぬ恋は辛いよな……。
そう共感と同情をしながらリンの頭を撫でると、撫でる手の隙間から睨まれた。
「優しくしないで……」
「えっ」
「……大体、私がモテないのはお兄ちゃんのせいなんだからね!?」
恐ろしいほどの八つ当たりが飛んで来た。
どういうプロセスを経たらその結論になるのか。
「自分に魅力が足りないのを人のせいにしてはいけないよ」
「うるさい!だってお兄ちゃんのせいなんだもん」
「じゃあどういう理屈か言ってみろよ!」
「どんな男子でもなんかお兄ちゃんと比べちゃうんだもん!」
お、え?
「お兄ちゃんならこんなこと言わないのになーとかこうしてくれるのになーとか、いちいち考えちゃうせいでなんか積極的になり切れないの!私の恋愛に介入してこないでくれる!?」
「お、お前男の趣味悪すぎだろ……」
サッカー部のイケメンより非モテの兄の方に魅力を感じるとかゲテモノ食いにもほどがある。
妹はプイと横を向いて拗ねたように話す。
「だってしょうがないでしょ。私にとって身近な男子ってお兄ちゃんだったんだから。お兄ちゃんみたいなのが男子の普通だと思うじゃん」
その言葉を聞くと妹が不憫に思えてきた。幼少期の刷り込みで男を見る目が歪んでしまったのなら確かに俺にも責任がある。
「お兄ちゃんが男のクセに優しすぎるのがいけないんだ……」
「そ、そんなこと言ったって兄なんて皆こんなもんだろ?」
知り合いに妹持ちがいないからわからないけど……。
姉と弟の組み合わせはまだいるけど、兄と妹の組み合わせは珍しい。男が生まれたのに更に子供を産む親なんてそういない。
「……知り合いに一人兄を持ってる女の子がいるから話聞いたんだけど」
「うん」
「毎日怒鳴られるって」
「マジか……」
もしかして俺たち仲良すぎ?
そう思っていると妹が両腕を俺の肩にかけてすり寄ってきた。
「……その子は怒鳴られるのに慣れてるみたいだったけど、それ聞いたとき私怖くなっちゃった。もしお兄ちゃんがそんなだったらすごく嫌だなって思った。……ねぇ、お兄ちゃんは私にいつまでも優しくしてね?」
さっき優しくするなと言った口ですぐ逆のこと言うな……。
と言ってやろうかと思ったが、妹の目が本当に不安で揺れていたのでやめた。
「当たり前だろ?お前が俺のプリン勝手に食わない限りは怒鳴ったりしないよ」
そう言うと、妹は「うん……」と笑顔を見せて、そのままもたれかかるように抱き着いてきた。
「お兄ちゃん、もし私に彼氏が出来なかったら付き合ってよ」
「何をバカなことを……と言おうと思ったけど、もし俺にもこのまま彼女が出来なかったらこっちからお願いしたいかも」
「ふふふっ、いーよ。あ、でも兄妹で恋愛ってどうなんだろ」
「さぁ?他にいなさすぎて分かんないな」
妹は小さな笑い声を漏らしながらぎゅーっと力を込めて抱きしめてきた後、パッと立ち上がって離れた。
「ありがとお兄ちゃん!元気出た!」
そう言ってドタドタと自分の部屋に走っていった。
まだ両腕に妹の体温が残っている。
「さてと、俺も着替えるかぁ」
そう呟いて立ち上がり、カバンを持ち上げて自分の部屋に向かった。