イケメンと食堂
沢山のブックマークと身に余る高評価、おまけに感想まで頂いた衝撃で気絶してしまい、気付いたら3話が出来ていました。ありがとうございます。
「あ~、疲れた」
チャイムが鳴り、4時間目の授業が終わった。勉強は苦手じゃないがずっと椅子に座ってるのは苦手だ。
今日は金曜日なので食堂で昼食を食べると決めている。食堂で食べるときはよくマツリと一緒だ。弁当の時は自分の席でスミさんと話しながら食べる。
マツリを誘おうと教室を見渡していると男子生徒がこっちに向かってくるのが見えた。
「やあ水嶋君。昼食一緒にどうだい?」
話しかけてきた男子は三枝空という名前で、それほど親しくはないがたまに話す仲だった。彼は非常にイケメンで学年で1、2を争うモテ男なので少し気後れする。だが誘ってもらって嬉しいのでもちろん断ることはしたくない。
「もちろん!どこで食べる?」
「ああ、忘れてた。食堂でいいかな?」
「よかった。俺も今日は食堂で食べるつもりだったんだ」
と、そこまで言って気付く。約束しているわけではないが食堂にいるときはマツリと食べる。まして三枝君ほどのイケメンと一緒ならマツリは進んで一緒に食べようとするだろう。その許可を取ってなかった。
「女子も一緒でいいかな?小日向茉莉っていう子なんだけど」
「あ~、今日はちょっとやめてほしい」
「?わかった」
二人きりで秘密の話があるのだろうか。
とにかくマツリにLINEで「今日は食堂にいるけど超絶美人と食べてるから邪魔するな」と送った。
「了解しました。彼女さんとてもイケメンですね」とすぐ返ってきた。普通に教室の扉の前でこっちを見ていた。見栄がばれて恥ずかしい。
~~~~~~~~~~
食堂についた。マンモス校らしくかなり広い。三枝君を見て多くの女生徒が色めき立つのが分かった。
直接話しかけてくる勇者もいるが三枝君はつまらなさそうに無視して奥へと歩いていく。
「男子席に行こう」
「うん」
食堂には男子席と呼ばれる男子専用のテーブルがある。俺はマツリと一緒に食べるために男女共有のスペースで食事をするのであまり詳しくないが椅子がソファだったりと優遇されているのは知っている。
席に着くとメニューを広げながら笑顔で三枝君が話しかけてくる。
「なんにする?」
「あ~、ラーメンにしよっかな」
「僕は親子丼かなぁ。おい!そこのお前!」
呼びかけられたメイド姿の給仕が嬉しそうに寄ってくる。この食堂は食券制だけどそういえば男子席だけはフルサービス制だったな。
メイドさんに注文を終えて、食事が来るのを待つ。
「それで、三枝君。話したいことがあるんでしょ?」
「あ、わかった?そうそうちょっと聞きたいことがあって」
なんだろう。と思って次の言葉を待っていると「あ、三枝様だぁ〜♡」と言って見知らぬ女子が三枝君の隣に座ってきた。男子席で食事が出来るのは男子だけだが豪気な女子は普通に入ってくるようだ。肉食系のパワーを感じる。
「おい!お前!男子席に座るな!」
「えへへ、ごめんなさ〜い」
怒鳴られても嬉しいようで席から立ち上がって後ろで三枝君にくっついている。三枝君はくっつかれることは嫌ではないらしい。「全く……女子はルールも守れないバカばっかだ……」とぶつぶつ言っている。
次第に三枝君を見て女子が集まってきた。流石に男子席に突撃するような女子は少数らしく5人ほどが三枝君の後ろできゃあきゃあ言っている。対して俺には誰もいない。何これ?
「ごめんね、それで話の続きなんだけど」
あ、二人きりの秘密の相談とかじゃないのか。じゃあなんでマツリの同席は拒否したんだろう。と思ったがすぐその疑問は氷解した。
「さっきも話に出た小日向茉莉って女はキミのお手付きだったりする?」
「え?」
「いや、あの女気に入ったからよければ譲ってほしいんだけど水嶋君のお気に入りみたいだから横取りしたら悪いなって思って」
「あ、あぁ。なるほど」
こりゃマツリの前ではしづらい話だな。いや、他の女子がいるのにこういう話をする時点でだいぶ男らしい(?)けど。少なくとも俺にはない部分だ。希代のモテ男のやることだし俺も見習おうかな。
「俺とマツリは付き合ってないから、三枝君と付き合うかどうかはマツリに聞いてよ」
「そっかぁ!分かったよありがとう」
三枝君に告白なんかされたら100%飛び上がって喜ぶだろうなぁアイツ……。
と思ってなんかへこんでしまった。これはあれだ。付き合ってもいないのに寝取られた気になるやつだ。俺はマツリのことが大好きだがマツリは俺のこと友達としてしか思ってないだろうから間男は恋心を隠してクールに去るぜ……と考えて少し涙が出そうになった。
いい加減、幼馴染離れする時が来たのかなぁとしみじみ思う。
その後もラーメンを食べながら三枝君と話をした。結構気さくで明るい人だ。女子にはぶっきらぼうだけど別に男子としては普通な範囲だし特別厳しい感じじゃない。モテるやつは女子に気を使わないんだなぁと見ていて思う。まあ俺は女子と仲良くお喋りしたいという下心満載男なので真似するのは無理だろうが。
俺と三枝君の話に強引に女子が割り込んできて、三枝君に舌打ちされて、でも嬉しそうにしているという感じだ。
何回か三枝君の後ろにいる優しい女子が気を遣って俺に話しかけてきてくれたけど、内心の喜びを隠し、なるべく紳士っぽく見えるよう笑顔で対応すると「あ、うん」と変な顔をされて黙られてしまう。なんで?
ラーメンも食い終わり、昼休みが終わるまでまったりおしゃべりしていると少し事件が起こった。
気を利かせてお冷を運んできたメイドさんがすっころんで俺に水をぶちまけてしまったのだ。
「うわっ!大丈夫水嶋君?おいお前!この!愚図がこっちこい!」
三枝君は慌ててそのメイドの女の子の襟首を掴んで怒鳴っている。メイドさんは顔面を蒼白にしてガタガタ震えているし三枝君の後ろにいた女の子たちも絶句して成り行きを見守っている。
俺は慌てて三枝君を止める。
「ちょっちょっと!全然大丈夫だから放してあげてよ」
そう言っても三枝君は理解できないという風に手を放そうとしなかったので強引に引きはがす。
「え?水嶋君なんで自分に水ぶっかけた女子なんかかばうの?」
「いや、別にそんなに水くらい大したことないからさぁ」
「いや、大問題でしょ。許されないことだよこれは」
「いやいや許されることだよ。俺が許してるし」
そう言っても納得していないようでソファにどっかりと座って腕を組んでいる。メイドさんは震えながら俺に謝り倒し水を拭き始めた。女の子たちは俺の顔を口をポカンと開けてみたまま固まっている。
空気がヤバいので笑ってなんとか和ませようとする。
「まあおしゃれ番長の俺としては、もし制服にぶっかけられたのがジュースだったらブチ切れてたね」
「……」
あんまり和まなかったようだ。