隣の席の女の子
続き書こうか迷っていたのですが、なんと4つもブックマークがつき、それに10ptの評価もいただきまして、あまりの嬉しさに気付けば2話が完成していました。これからもよろしくお願いします。
わが高校は特大のマンモス校である。全生徒は約2000人もいて、男子生徒も100人近くいる。他の男子は「男友達が沢山出来るから嬉しい」なんて言っているが、俺は「男が俺一人だったらよかったのに」と思っている。そしたら2000人のハーレムだったのに。
学校に着き、教室の扉を開ける。ちなみにマツリも同じクラスなので一緒だ。
扉を開けた途端、野太い怒鳴り声が聞こえた。
「おい!ガム買ってこい今すぐ」
太った男子生徒が取り巻きの女子生徒に使い走りを頼んでいるようだ。言いつけられた女の子は目を輝かせて「はい!」と返事をして喜んで教室を出て行った。
女性は皆肉食系だと言ったが、その関係は主従の形をとることが多い。男性が王様で女性はその召使のようになっている。
男性は貴重なので大切に扱いましょう、というのはこの世界の常識だ。男性の立場が上なのは不思議なことではない。
そういえば俺はあんまり女性に使い走りを頼まないな、と思った。
ガムを買ってきてもらうお金を預けるほど信用できる女友達がほとんどいないし、そもそも自分で買いに行くのも別にめんどくさくないから使い走りを頼んだことがないわけだがそこが他の男性との差なのか、と気づいた。
女性を顎で使うことが男らしくて好まれるのかもしれない。
そう思い至って隣にいたマツリに使い走りを頼むことにした。
「おい!ガムが食いたい。今すぐ買ってこい!」
「ははぁ!どうぞ」
そう言ってマツリはポケットからガムを取りだして渡してくれた。たまたま持っていたらしい。
……いやあのそれが目的ではないんですが……。
マツリは全然キュンときている様子はない。首をかしげてガムをこっちに差し出している。ただ普通にガムを分けてもらっただけになってしまった。
「……ありがと」
お礼を言ってガムをポケットに入れる。別に今本当に食いたいわけではなかったし、今食えば授業中に噛むことになってしまうだろう。まあ男子生徒は授業中ガムを噛んでいても叱られないだろうが。
自分の机にカバンをかけ椅子に座る。残念ながらマツリとは席が離れている。彼女は自分の席に腰を下ろして友達と談笑し始めたようだ。
「おはようございます。水嶋様」
椅子に座ると右横から声をかけられた。隣の席の白木澄さんだ。
今は5月なので同じクラスになってまだ1か月。知り合って間もないが気が合うのでよくおしゃべりする。ちなみに俺の名前は水嶋銀という。
「おはようスミさん。ね、昨日のドラマ見た?」
「はい。『恋をするのは15から』ですよね。見ましたよ。面白かったです」
「ねー!マジで面白いわあのドラマ」
こうして同じ好きなドラマの話が出来るのはスミさんだけだ。趣味嗜好が似ているのだ。マツリは性格は合うが好きなものは割と違う。俺は泣ける映画が好きなのにアイツはホラー映画なんか見せてきやがる。
スミさんがうっとりとした表情で話す。
「あんな恋愛してみたいものです」
「……」
俺はどんな恋愛でもいいからしてみたいものです。
そう思ってちょっと気分が落ち込んでしまった。この世界で誰とも付き合ったことがない人間なんてほとんどいないだろう。女性は男なら誰にでもアタックするし、男性は何人でも同時に付き合うからだ。
恋愛なんて出来て当たり前なのに……。と落ち込んでしまった。
「……スミさん。何で俺はモテないんでしょう」
「えっ」
スミさんは凄い表情でこっちを見ている。
「そんなに変なことを言いましたでしょうか」
「いえ……失礼ながらおモテにならないというのが意外だったのと、あと男性が女性に恋愛相談をするなんて世界初だろうなと面食らってしまいました」
なるほど。
モテないというのが意外というのは地味に超嬉しい。これはスミさん的には俺は男としてアリだということにならないか?
俺からしてもスミさんが彼女になってくれたら嬉しいなと常々妄想していたのだ。
……ついに恋愛ドラマで勉強した恋の駆け引きをフル活用する時が来たようだ。
俺は俄然勢いづいて身振りを加えてスミさんに言った。
「俺は彼女がいない、つまりフリーです。とても彼女が欲しいです。スミさんのような素敵な彼女が」
「はぁ……」
これ脈ないじゃん。
もう嫌になっちゃった。もう嫌。恋愛なんて一生無理だしドラマとかくそくらえ。男と女がなんぼのもんじゃいアホ。
……脳内八つ当たりが済んで冷静になると自分のこういうところが女性を遠ざけているんだな、と思った。男で「女と付き合いたい」なんて言ってるやつを見たことがない。多分相当はしたなくて嫌われる行為なんだろう。
俺は下品だからモテないのだ。こう考えるとかなり腑に落ちた。
「さっきの言葉は忘れてください。俺は今日から貞淑に生きます」
「えぇ……」
スミさんは俺の突然の変わり身に困惑している。もう忘れてほしい。ここからまき直しを図るんだから。
俺はまだスミさんを彼女にすることを諦めていないぞ!……いや、もう無理か?
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白木澄は困惑していた。
隣の席の男子、水嶋銀が何でモテないのかと相談してきた挙句まるでドラマの告白まがいのことをしてきたからだ。
男子がモテないということがそもそもあり得ない。女の子はどんな男子でも付き合いたいと思うものだし、それに水嶋銀は見た目も悪くない。何より多くの男子のように太っていないのが好印象だ。
彼が女子にまとわりつかれていないのはひとえにその態度のせいだろう。男子というのは女子には仏頂面で、男友達にだけ笑顔を見せるものだ。
だが彼は誰にでもにこやかに話しかける。自分からアタックすることしか知らない女子にとって彼はどうしたらいいか分からない相手だ。男は偉そうにふんぞり返っているもので、それに慣れているのだ。
彼の不思議な態度も、女子を異性として見ていないとしか思われなかった。つまり彼には男色の疑いがかけられている。
白木澄も彼は女子に興味がないのだろうと思っていたので彼女が欲しいと言われても現実感がなかった。
だからこそ彼とは緊張せずに話せるのだ。男の人と友達のように話せるなんて、まるで平等な感じがして、とても嬉しい。若者の間ではそういう男女平等的な創作がちまちま流行ってて、「恋をするのは15から」もそういう作品だし、時代を先取ってる感じがする。
とはいえ「恋15」も男性権利団体からコンプラ違反だって凄いバッシング受けてるんだけど……。
そもそも告白は女子からするものだし、男子の告白は「俺と付き合え」という命令形が普通だ。彼が今口にした「とても彼女が欲しい。スミさんのような素敵な彼女が」という回りくどい告白なんて、ドラマでも女性側がするものだった。
だから白木澄は全く反応が出来なかったし落ち着いた今も何が起きたか理解ができていない。
さっきのは彼なりのおふざけだと思い、まさか自分が本気で告白されたとまではいくら夢見る女子高生でも夢にも思わなかった。