母と妹
気づけば12話が出来そうにないので休載するかもしれません。
マツリが、俺の家のリビングでテレビを見ている。
やましい気持ちで体に触ろうとしたら、笑顔で振り返ってきてぶん殴られた。
そのまま25連コンボを決められ、俺は地面に倒れ伏す。
マツリの「アハハッ」という無邪気な笑い声を背中に受けながら立ち上がろうと四苦八苦していると誰かが手を差し伸べた。
顔を上げると小山さんが俺のことを心配そうに見ている。
「大丈夫?」と言われた。俺はいつの間にか病院のベッドに横になっている。小山さんは俺の手を握ってくれていて、とても温かい。
でも俺は、周囲を見渡してマツリを探す。マツリは当然のように見舞いに来ていた。俺のベッドのすぐ横で、立ったままゲームをポチポチいじっている。
それを見て俺はやっと安心して、急に恥ずかしくなった。
俺の腕の片方に点滴が刺さっていて、動かない。もう片方の腕で、どっちか一人の頭を撫でなくちゃいけないと思う。
すると遠くで妹の泣く声が聞こえた。
俺はまず妹をあやさなくちゃいけない。そうしなきゃ落ち着いて眠っていられないのだ。俺は結局その動く方の腕を持ち上げて妹の頭を撫でた。
マツリはそんな俺を見て笑っている。
泣き止んでくれ……泣き止んでくれよ……と思いながら妹の頭を撫で続けた。
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「お兄ちゃん!起きて!」
なにか変な夢を見ていた気がする。
ぼんやりしたまま目を開けると妹がこっちをのぞき込んでいた。
部屋の電気が点いていて眩しかったので、ごろっと寝返りを打ってうつ伏せになる。
「……なんだよ勝手に入って……プライバシーの侵害だぞ……」
今日は日曜日。気持ちよく眠っているところを勝手に部屋に入ってきて起こすなど許されることではない。
「もう10時だもん!パン焼けたから降りてきて!」
「もうパン焼けちゃったのかよ~……」
寝ぼけながらそう不満の意を込めて言う。
しぶしぶ体を起こし洗面所に顔を洗いに行った。
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「で、なんだよ今日は。眠ってるとこ無理やり起こすなんて」
食パンにジャムを塗りながらそう尋ねる。妹はそういう迷惑はあまりかけないタイプだから不思議に思う。あと単純にキレてる。
「別に。起きるの遅いんだもん」
食パンをむしゃむしゃ食いながらぶっきらぼうに言う。なぜか妹の方が不機嫌そうだ。
「お前が恐るべき執着心で日曜日ごとに俺を10時に起こす妹ならなんも言わんが、今日だけだから聞いてんだ」
「……別にいいじゃん。それよりあとで映画見ようよ一緒に」
「なんだ甘えてきて……ってあれ?そういえば今日お母さんいないのか?」
「知らないあんな人」
……なるほどな。分かりやすいやつめ。
うちの家族は母、妹、俺の三人家族だ。
お母さんは精子バンクで人工授精して俺も妹も産んだので父親はいない。
妹は母のことが大好きだ。仕事が忙しくあんまり家にいないが、流石に今週みたいに土曜日も日曜日もいないことは珍しい。
「お前寂しいんだな」
「は!?意味わかんない。なんで寂しがらなきゃいけないの?それより後でホラー映画観よ。ビビったお兄ちゃんに抱き着かれたい」
「めちゃくちゃ寂しがってるじゃん」
それならしょうがないか。
食後、リビングで二人ソファに座って『シャイニングー!』ってホラー映画を観る。
あんま怖くなくて妹に抱き着かないでいたら、向こうから抱き着いてきた。どんだけ寂しいんだ。
山場であろうスプラッターな映像を見ながら妹はへの字の口を開く。
「このあとどうする?」
「どうするって……自分の部屋行く」
「やだ。リビング居てよ」
先週は妹の誕生日だったので、その楽しさの分の揺り戻しが来ているんだろう。
「お前マジでさっさと彼氏作れ」
殴られた。
ため息を吐いて説得する。ほんとに手のかかる妹だ。
「あのな、お母さんだって行きたくて休日出勤してんじゃないんだぞ?」
「……」
「お前とあんま会えなくて寂しいって言ってたぞ」
「いつ?」
「……」
適当な嘘こくんじゃなかった。また殴られた。
「言ってなかったけど本当だ。お前もわかってるだろ?」
「……うん」
「帰ってきたら一緒に怒ろうな」
「……うん」
妹に元気がないと俺は弱ってしまう。
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玄関の扉が開く。
「おかえりお母さん」
「おぉ~……ただいま。起きてたんだ」
今は深夜の0時すぎ。こんな時間になるなんて最近は超忙しいらしい。
母は靴を脱ぎながらニコニコ笑う。
「いや~家に帰ったらお出迎えがあるのって嬉しいよね」
「ご飯食べる?あっためるけど」
「うん。何かあるの?」
「ハンバーグ」
「うわ、偉いわ~。外食のお金置いてったはずだけど」
「それで買い物行った。暇だったから」
俺と妹で作った。どっちも料理はあんま得意じゃないけど。
母は椅子にドカッと座ってカバンを地面に置いた。いそいそ上着を脱いでいる。
電子レンジにお皿を入れる俺を見ながら母はニコニコしている。
「息子ガチャSSR引いたね」
ひでー言い草だ。運みたいに言いやがる。
「子供がどう育つかは親の影響でしょ」
「いや、あんたは勝手に優しく育ったSSSSRRRRだわ」
「Rが増えるのは意味が分からない」
静かな夜。電子レンジの動く音だけが聞こえる。
温まったハンバーグを母の前に置いて対面に座る。
母は「あちっ」と言いながらラップをはがしている。
「思うんだけどあんたって小さいころ入院してたでしょ?結構長く」
「うん」
「あんときに人格形成されたんじゃないかな~と思うわけ。だから私の影響じゃない」
「ふぅん。まぁどうでもいいけど、それよりお母さん」
そう言ってソファを指さす。
「娘もSSSSRRRR引いたね」
「……こっから見えないけど、もしかしてソファで寝てる?」
「うん。リン寂しがってたよ」
「うお~……ずっと起きてたのか……」
「やべ~……」と眉間にしわを寄せて苦笑しながらハンバーグをつつく。
「あの子先週で14よね?反抗期とか来ないのかしら」
「親から一定以上の愛情を注がれないと来ないよ」
「ひ~……」
テーブルに肘を置いた手をおでこに当てたままうんうん唸っている。
「日曜日はなるべく休むようにします……」
「マジで頼むね。俺の日曜日の自由に関わるから」
「……リン、あんたにべったりよね」
「お母さんのせいだろ?あと彼氏が出来ないあいつのせい」
「……いや、多分あの子本気であんたと一生一緒に生きるつもりよ」
「……マジ?」
「覚悟しといたほうがいいわ」
そんな話をして、母はごはんを食べ終わった。
母は俺に「ありがとう、おやすみ」と言って、寝ているリンを抱っこして部屋まで運んで行った。今日はそのまま一緒に添い寝するらしい。
俺もあくびをしながら自分の部屋に戻ってゆっくり眠りについた。
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「きゃーーー!」
妹の部屋から聞こえる悲鳴で目が覚めた。
びっくりして起き上がり時間を確認するとまだ朝の5時だった。
薄い壁を通して会話が聞こえてくる。
「なんでお母さん一緒に寝てんの!?」
「……ん~、リンおはよ」
「ちょっと、これ、あの、プライバシーの侵害なんですけど!」
どの口が言うか……。
と半分寝ている脳でツッコミを入れながら俺は再び瞼を閉じた。




