小山さんとお買い物3
昨日蟲師というアニメの露を吸う群れという大好きな話を見返してました。久しぶりに見てもやっぱり大好きな話でした。と考えてたら気づけば10話が出来ていました。
「男の人が好きっていうのは本当なんだ。
やっぱりかっこいいし、特別な存在だし、あの腕に抱きしめられたら心地いいだろうなって思う。
中学の時とか、沢山の人と付き合ったな~。
その頃は乱暴に扱われてもあんまり気にならなかった。別に普通のことだし、胸の奥になんかモヤモヤした違和感みたいなのはあったけど、それより男の人と付き合える喜びが大きかったかな。
怖くなったのは高校一年の春。
新しくできた彼氏とデートに行ったの。
二人きりのデートだったから気合入っちゃって、おめかしして行った。珍しいんだよ!普通何人か同時だから。
ヒールなんか履いてね。
それで案の定上手く歩けなくて。
彼は褒めてくれるわけなんてなくて、どんどん先に歩いて行っちゃうし、あたし何やってるんだろって思いながら必死についていった。
それで結局転んで彼を突き飛ばしちゃったの。
その時には足は痛いし、頭の中もぐちゃぐちゃでもうわけわかんなくなってた。
ヒールなんて二度と履かない。全部無駄な努力。頑張っただけ落ち込むんだって思って涙が出そうになったなぁ。
すぐに突き飛ばしちゃった彼を助け起こそうとして近寄ったら、顔を殴られた。
あたしに別れを告げて、去っていって、それでおしまい。
あたしの見当違いの努力は、パンチ一発生み出すだけだって。
そう思ったこの日から、男の人に乱暴に扱われることが怖くなっちゃった。
どう?ありきたりかなぁ?」
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「あ~話してすっきりした~!」と小山さんはぐーっと伸びをした。
俺は真面目な話が苦手だ。聞いていてすぐ辛くなるからだ。
これも案の定、目尻のあたりがぐっとなんか熱くなってくる。
でも対照的に彼女は伸びをしながら力を抜いている。
まるで本当に気にしていないような口ぶりだった。
いくら昔のことだとしても、こうしてすぐ思い出せるほど彼女の心に根を張っていて、今でもヒールが履けないほどの傷を残している話のはずなのに、どうしてそんなに彼女は平気そうなんだろう。
「こんなことがあっても男の人は好きなままだから、す~ぐアタックしちゃうんだよね~。ちょっと乱暴にされただけでショック受けるの分かってるのに。ふふふ、男の人は好きだけど相性は悪いみたい」
「……なんでそんな辛いことが、平気そうなの?」
密かにかっこよく慰めようと思ってたのに、彼女は必要なさそうに見える。
出番を無くしたセリフたちが喉の奥でぐるぐるしている。
俺がそう言うと、彼女は前のめりにテーブルに両肘をついて、その上に顎を乗せた。
俺の方を見て、穏やかに微笑んでいる。
「実はこの話はすでに昨日決着がついたことなんだよね」
「昨日?」
彼女は不思議そうにしている俺の顔を見て「ふっふっふ」と笑った。
それから楽しそうに話し始めた。
「昨日あたしが食堂歩いてたら、三枝空君っていうイケメンがいたんだ。あたしその時彼氏いなかったから丁度いいって思って突撃したの。彼の話し相手はなんだか不思議な雰囲気の男の子だった。ずっと微笑んでて、人当たりはよさそうだけど妙に飄々としてるっていうか」
「ふむ」
「でね、その男の子にメイドさんがお水をぶちまけちゃったんだ!」
「……」
「三枝君がメイドさんに掴みかかって、ヤバいって思ってあたしはもうガクブル。そしたらその男の子が言ったんだ。「これくらい大したことない」って」
そこで小山さんはニコッと笑った。
「あたしその言葉を聞いてフッて力が抜けたの。それで同時に、あたしはあの時、こう言ってほしかったんだなって思った。突き飛ばしちゃった彼に「大したことないよ」ってそう言ってほしかったんだって」
「だからあたしは昼休みが終わった後、その男の子、水嶋君にお礼を言いに行ったのです」と言って笑った。
俺は胸にじわっと温かいものが広がるのを感じた。
手を自分の頭に持っていって撫でる。
「……何してるの?」
「いや、自分を褒めてる」
「ぷっ!あはは!」
彼女は真面目腐ってそんなことを言う俺を見て噴き出した。俺はその笑顔を目に焼き付けるようにじっと見た。
彼女の笑顔はいつまでも見ていられると、そう思った。
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「今日は付き合ってくれてありがと!」
「こちらこそ、すごく楽しかった」
ショッピングモールの目の前、人の行き交う大きな交差点は夕日に照らされている。
橙色の光の中で彼女と別れた。
信号機が「カッコー」と音を立てている。離れていく彼女の背中に向かって俺は声を張り上げた。
「小山さん!」
彼女が振り返る。
「キミは、ヒールの似合う女の子だ!……と、思う!だからその、いつか履いて見せてくれたら嬉しい」
俺は精一杯言葉を選んだ。
この想いは彼女に上手く伝わるだろうか。きっと伝わるだろうな。
彼女は遠くで手を振っている。
人ごみに紛れてすぐ見えなくなった。
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西日を受けながら小山くるみは手を振っている。
……ねぇ水嶋君。
本当はね。あたしは今でも男の子のこと、ちょっと怖いんだ。
ヒールだって、まだ履けない。
でも大丈夫だって思えるのは水嶋君のおかげなの。
あの日食堂で三枝君に怒鳴られて、あたしは声も出せないで泣いてた。体が芯から冷えて震えが止まらなかった。
そしたら「ごめんなさい」って謝る声が聞こえたんだ。
顔を上げれば、水嶋君が三枝君に必死に謝ってた。
あたしはなんかすっごく安心した。
あたしが怖くて怖くて、どうしても体が動かないとき、代わりに謝ってくれる人がいるんだって思ったら安心したの。
ぎゅって胸の奥の奥が掴まれたみたいに、でも苦しくなくて、体温があって……。
だから水嶋君がいてくれるなら、あたしは大丈夫なんだ。
今日は本当にありがとう。
いつかヒールを履いて見せるから、それまでもう少しだけ寄りかからせて貰えると嬉しいな。




