戸惑いのコンツェルト1
『………いだ……』
……い……
『ま…しょ……つ……だが……』
……い……や……
『ほ……は……いま……』
……いや……
『どうせ………は……』
いや!
『本物には……い……』
いやいやいや!
『所詮は作り物だ。壊れたらまた作ればいい』
いやぁぁぁぁぁ!!
……アタシハ……"何"?
アタシハ……アタシハ……絶対ニ許サナイ……
コンナアタシニシタアイツヲ……
アタシハ絶対ニ許サナイ……。
「アキ!」
……は……
「アキ?」
……あ……は……
「ア~キ~?」
……あたしは……
「アキ!」
……あたしは一体……
「アキ?」
「……?……っっっうひゃぃっ!い、いいいいいきなり目の前に出てくるなぁ!」
「いきなりとは酷いな。何度も呼んでるんだけど?どうかした?」
怪訝な顔でそう問いかけてくる凪の顔を見て、自分が何をしているのか思い出す。あたしは凪の仕事にくっついて来ていたのだ。
そして移動中にふと頭を過ぎった『あること』に思考を占領され、どっぷり深みにはまっていたのだった。
「あ、ちょっと……あの、か、考え事してたの……」
「ふーん……ここから先は結構危険が伴うから、考え事は後にした方がいいよ。それと、俺から半径1メートル以上離れないように」
「分かった。気を付ける」
そう言って頷くあたしを見て安心したのか、凪は再び前を見て歩き出した。あたしはその後ろを着いていく。
……知られたくない……アキはアキだと言ってあたしを受け入れてくれている凪には、絶対に知られたくない。
最近、以前とは違う夢を見る。いや……あれは夢なんていう曖昧なものじゃない。あれは記憶……おそらく生きている頃のあたしの記憶……。
あれにどんな意味があるのかは分からないし、正直なところ内容そのものにはあまり興味がない。問題なのは、その記憶の中のあたしの心だ。信じたくない……自分の中にあんなどす黒い部分があるなんて……。
あの部屋でくすぶっていたときの敵意なんて、この前凪が言ったとおり可愛いもんだったと今更ながら理解した。あれは悪意なんていう生温いもんじゃない……あれは殺意だ。それも生半可な殺意じゃない。ひと一人殺したところで到底収まるとは思えないほどの、ドロドロとどす黒い、底無しの憎悪を孕んだ殺意だった。
あたしは目の前を歩く凪に目を向ける。出会ったばっかりのときはただただウザい奴だった。幽霊相手に愛だ恋だと騒ぎ立てる、ちょっと痛い人でしかなかったはずだった。それが今では……。
だから知られたくない。あたしがこの世に存在する意味を与えてくれた凪には、あたしの中に、このどす黒い感情がくすぶっていることは絶対に知られたくない。
そう……絶対に……。