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闇より舞い落ちるひとひら  作者: レムウェル
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未来へのファンファーレ4


「……って訳で、直ぐに肉体を作り上げて、アキと結び付けないと、アキの存在が危ういんだ。あんたの能力が有れば、ヒト1人の肉体を作り上げる事も出来るだろう。俺らに力を貸してくれないかい?」


『なるほどのぉ。そういった事情であるならば、力を貸すこともやぶさかではないぞ? 但し、妾の能力も万能ではない。ヒト1人を作り上げるとあらば、それ相応の『贄』が必要じゃ』


「っ!『贄』って……」


「分かってるよ」


「ええっ?!」


 伊邪那美神の衝撃的な一言に、凪は肩をすくめはしたものの、事も無げにそう答えた。


「ちちちちちょっと凪!『贄』の話しなんて聞いてない!つーか、誰も犠牲になんかならないって言ってたじゃん!」


「ん? ああ、別に誰かを犠牲にするつもりはないよ?」


 そう肩をすくめると、凪は伊邪那美神に向き直る。


「『贄』は俺の左目だ。それだけあれば十分でしょ?」


『なるほど……お主の左目ならば過分なほどじゃ。ヒト一人どころか十人分に相当する』


「あ、やっぱり?俺って存在は、神様の基準も覆す程いい男だって事だよね?いや~罪だよね~」


『良いおのこである事は認めよう。お主は伊邪那岐の次に良いおのこじゃ」


「たは~。やっぱり伊邪那岐神にはかなわない?」


『当然じゃ』


「ちょっと待てぇぃ!だだだだだめだめだめダメよ!!」


 質屋の換金みたいなノリで進む会話に、あたしは慌てて待ったを掛ける。


「まぁ、そう言うと思ったけどね」


 焦るあたしに苦笑を浮かべ、凪は幼子に言い聞かせるように語り出した。


「現世において、何かを得ようとするならば、それ相応の代償が必要になるのは当然のことさ」


「それはそうかもしれないけど……」


「その代償が俺の左目だけで済むなら、これは僥倖っていうやつだよ。なんせ俺らのやろうとしていることは、神の摂理に反することだ。本来なら誰かの命と引き換えにしなきゃなんないことなんだしね」


「それも分かるけど……」


 分かるけど……分かるけどそんなに簡単に割り切れる話じゃないよ……だってこれってあたしの問題なはずで、ホントなら凪は無関係だったはずで……なのに……なのに凪は何の見返りも求めずに、あたしを助けてくれているのだ。


 出会ってからずっと凪に負担を掛けっぱなしだもん。その上凪の左目を奪うだなんて……。


 あたしは意を決して伊邪那美神に向き直る。


「い、伊邪那美神!あたし、やっぱり凪を犠牲になんて出来ないです!凪の左目を差し出すくらいなら、あたしの何かを犠牲にし……」


『却下じゃ』


「んごっ!」


 即答?!しかもセリフ途中だし!!


『悪意で言うとるわけではないぞ?お主はまだ人間ひとになり切れておらぬ。それでは『贄』としての資格が認められぬ。いや、例えお主が普通の人間であっても、人間1人を作り上げるには足りぬのだ。それこそ命を賭けねば術は完成せぬであろう。それでは意味はあるまい?』


 伊邪那美のその言葉に、あたしは意気消沈する。確かに、自分の身体を作るのに、自分の命を使ってしまっては本末転倒だ。


『そう肩を落とすでない。お主ではかなわぬ事なれど、こやつの並々ならぬ霊力ならば何ら問題はない』


「そうそう」


 事も無げにそう言う凪だがそれは話が違う。


 あたしが睨みつけると、それに気付いた凪が肩をすくめて苦笑した。


「はは……分かってるって。アキは『これは自分の問題で、これ以上、俺に迷惑かけたくない』って思ってるんだろ?」


「……」


 凪の言葉に無言で頷く。


「でもそれは、思い違いって言うものさ。なぜなら……」


 凪は表情を改め真面目な顔で言葉を続ける。


「これは、どちらかというと俺の我が儘だ。俺がアキを欲するあまりに、この世の摂理も省みず、神の意志をも振り払って、一つの御霊を人間ひとへと作り替えようとしているんだから」


「え?」


「だから、ここは俺自身が犠牲を払わなくちゃならないんだ……アキ……悪いけど、今回のこの俺の我が儘、何も言わずに聞いてくれ」


 何時になく真剣な表情の凪の様子に、あたしは反射的にこくりと頷いた。


「よし……じゃあ、早速儀式を始めよう。伊邪那美神……ちゃっちゃっとやっちゃって」


 そう言って、伊邪那美様に向かって歩を進めた凪を見送りながら、あたしの心は不安で揺れていた。


 この儀式が始まる前に感じていた言いようのない不安……凪があたしに何かを隠しているという確信が、あたしの心の奥底に警鐘を鳴らしているのだ。


 このまま儀式を進めていけば、きっと何かを激しく後悔することになりそうで怖い……。


 この不安が杞憂であると願いたい。でも一方で、不安が的中すると確信を持っているあたしが居るのだ。


『それでは贄を受け取るぞ?凪とやら、近こう寄れ』


 あたしがどうしたものかと口を開くのを躊躇している中、伊邪那美神様と凪はそれには構わず儀式を開始する。


「あっ!」


 反射的にそう声を上げるあたしに、凪は首を傾げて無言で問いを投げかけてくる。


「あ、あの……ホントに凪は大丈夫なのよね?」


 違う……あたしはそんなことを聞きたい訳じゃない。聞きたいことはもっと別なことだ。しかし、何を訊ねればい いのかはっきりと形が浮かばないあたしには、こう訊ねるほかに他はなかった。


「大丈夫。少なくとも死ぬことはないよ」


 にこりと笑ってそう言うと、凪は再び伊邪那美神様と向き合った。


 応えた凪のそのセリフは、あたしの予想していたセリフと同じ……。


 違う……違う!あたしの聞きたいのは……


 激しい焦燥感に包まれるも、あたしには2人を止める言葉が見つからない。


 伊邪那美神は、魔方陣から一歩外に出ると、凪の左目に手を伸ばし、あたしには理解不能な言葉を口ずさむ。


 すると、伸ばした腕が指先から砂のように崩れだし、その崩れた部分が霧のように変化すると、凪の左目へと吸い込まれていった。


「くっ……」


 凪の額には汗が滲み、苦痛のためだろう、眉をしかめて歯を食いしばっている。


 いつも……どんな時でも平気な顔で流していたあの凪が、苦痛に表情を歪ませているという事実だけで、この儀式がどれほど危険な物であるのか想像できる。


 凪!言葉が……言葉が声になって出て来ない……あたしはどうしたら……どうしたら!


 心の中で地団太を踏むあたしをよそに、儀式は一つの大きな山場へと突き進む。


 伊邪那美神の砂化が右腕から体幹部へと広がり、次第に全身へと広がっていく。遂には全身を砂化させ、あれよという間に凪の左目へと吸い込まれていった。


 同時に魔方陣が……特に伊邪那美神がいた魔方陣の方が激しく光を放ち始め、その中で霧が蠢き一つの物体が浮かび上がり始める。


 そして、初めはぼやけていたその輪郭が瞬く間に人型に成形され、魔方陣の中に一人の人間の肉体が作り出された。


 その瞬間、あたしは全ての不安を忘れてその肉体に目を奪われる。視線の先にある肉体が誰の物であるのかを、他の誰よりも自分自身が理解したのだ。


 心に沸き上がるのは、本能的な歓喜の念……


『これは……あたしだ!』


 そしてあたしはへなへなと、力無くその場に座り込んだ。歓喜と驚きで、霊体のくせに腰が抜けたのだ。


 視線が生まれいでた肉体に釘付けになって離れない。


 あたしは霊体だから自分自身の姿を鏡で見たことなんてないんだけど、目の前の肉体が自分の姿であることは、理屈ではなく本能で理解できた。


 感情が制御できず、只々歓喜に打ち震えて、その肉体を見つめる以外の行動を取ることが出来ない。


 その時ドサリと音がして、あたしはハッと我に返る。


 音のした方に頭を向けると、凪が額に脂汗を浮かべて四つん這いになっているのが目に入った。


「な、凪ぃぃぃうべしっ!」


 慌てて駆け寄ろうとしたあたしを、魔方陣の縁に張り巡らされている結界が遮った。


 伊邪那美神は、難なく通り抜けたのに……。


「うぐぅ……な、凪!大丈夫!?」


 あたしは仕方なく、ドンドンと結界を叩きながら、息の荒い凪に向かって声を掛ける。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……だ、大……丈夫……はぁはぁはぁ……」


「ちっとも大丈夫じゃないじゃない!」


 あたしの視線の先で、凪はゴロリと仰向けに寝転がり、その荒い呼吸を整えている。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……いやぁ~さすがにバテた……」


『バテたどころではないはずじゃが?常人なれば意識を保つのも困難なほどの苦痛を味わったはずじゃ』


 呆れ顔でそう言う伊邪那美神に、 凪はニコリと笑みを返した。


「まぁ、それはそれ。男の子な俺としては、好きな女の子の前ではカッコ付けたいものなのさ」


『フン……男の見栄はいつの時代も変わらぬものよのぉ。伊邪那岐も似たようなセリフを何度となく吐いておったわ』


 鼻で笑って肩をすくめる伊邪那美神の様子を見ると、決して凪のセリフに共感を覚えているわけじゃないらしい。


「はぁはぁはぁ……はぁ……ふぅ……そいじゃ、直ぐに肉体と霊体の融合を」


 凪は、身体を起こし、胡座をかいて呼吸を整えそう願う。


『……良いのじゃな?』


「当然。俺はそのために貴女を呼んだ」


『……』


 凪の言葉に、少し考え込むように目を瞑って俯く伊邪那美神。


 幾秒かの後、彼女はゆっくりと顔を上げ、一瞬……本当にほんの一瞬だけだけど、あたしに視線を向けて、そして凪へと視線を戻した。


「っ!!」


今のは……何?ほんの一瞬の間に流れ込んできた『あれ』は一体何だったの?


 今の光景を垣間見て肉体を見たときの興奮は、嵐の中の砂埃のように消え失せる。


「……おい……」


 珍しく、怒りを含んだ凪の呼び掛けに、伊邪那美神は憐れむような表情を浮かべてそしてまた目を瞑る。


 凪の様子で、伊邪那美神から垣間見た……いや、彼女があたしに向かって送ってきた『あの』映像が、真実であることを悟る。


「ちょっと……ちょっとどういうことよ凪……」


「…………はぁ」


 頭をポリポリと掻きながら、そう深いため息を吐く凪。


「あたし聞いてない……あんなこと聞いてないよ!」


 伊邪那美神様からの無言のメッセージ……それは……


「あれじゃ意味ないじゃん……あれじゃ人間に転生する意味がないよ凪!凪と……凪と一緒に居れないなんて……あたしは一体何のために転生するのさ!」


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