レクイエムは誰が為に16
「……とまぁ俺としては、アキに嫌われたんじゃないかって心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で……ホントしようがなかったんだって」
本当にそう思ってるのか疑いたくなるような軽いノリで、さっきの一連の草芝居に至った経緯を語り終えると、爽やかな笑みを浮かべて口を閉じる凪。
あたしが凪の様子に疑いの目を向けていると、意外にも朱美さんがフォローの言葉を入れてきた。
「まぁ、疑いたくなるのも分かるけど、凪の言ってることは本当よ?ふざけているように見えるのはこの男流の照れ隠しよ」
「そうはっきり言われてしまっては、恥ずかしいではありませんか朱美さん」
「あたしの知ったこっちゃないわよ。面倒だからちゃっちゃっと話を進めちゃって」
そっちが本心かい!
「……とまぁ、とにかく僕はアキのことが好きなあまり、愚かにもあの様な方策を取るに至ったわけであります。これもあなたを愛するが故……このワタクシめの愚考をお許しいただけたりはしないでしょ……ぐわぁぁぁ!」
「……」
あたしの右ストレートを喰らって、水面を跳ねる飛び石のように吹き飛ぶ凪。
「まぁ、あれもあの男流の照れ隠し……なんだ、満更でもなかったのね」
「そこは見なかった振りしてつかーさい」
ふざけた凪の様子の中にも、真実が……と言うか全てホントの事なんだっていうのは言われたあたしが一番理解していた。
だからってあんな恥ずかしい台詞、素直に受け取れるわけないでしょ!
「がぁぁぁ!」
あたしがやり場のない怒りに頭を抱え苦悩しているのを余所に、他のみんなは深刻そうな顔で話を始めていた。
「……このまま紫藤さんの身体、置いて行っちゃうってのは可哀想な気がしますけど……」
「でも、わざわざこのまま向こうに持ち帰る必要もないわ。亜紀姉は、死んだらお墓は作らずに知らない土地で風に流して欲しいって常々言っていたのよ。この場所はあと2~3日もすれば消え去って行くし、この場でお別れした方が……」
「それほど悩む必要はないよ。火葬して向こうに連れて帰って、あとはお前の好きにすればいい。お前自身の手できちんと決着つけとかないと、あとで絶対後悔するぞ?」
その言葉に、朱美さんは一旦息を吐きながら目を瞑る。
「……そうね」
何か吹っ切ったような笑みを浮かべ、素直にそう答える朱美さん。あたしの右ストレートに吹き飛ばされてもゾンビのように復活する凪の一言で、朱美さんの心も決まったようだ。
「それじゃ、後は……」
「アキの身体についてはこの場に置いていく。それこそ向こう側に持ち帰っても処分に困る。生ゴミとして出すわけにもいかんでぐあおうえやぁぁぁ!」
「誰が生ゴミだぁぁぁ!」
「喩えが極端なのよ。冗談にしても質が悪い」
「つーか笑えないっしょ。罰当たるって凪っち……って、今のが罰か」
呆れ顔の2人と怒り心頭のあたし。普通、本人目の前にしてこんな冗談言えるか?
「ま、まぁ冗談はこの辺にしておこう。この身体は、今処分するわけにはいかない。もうほんのちょっとだけ存在してもらわないと困るんだ」
「アキさんの新しい身体が出来るまでね?」
「そう言うこと。さすがに肉体の錬成するには疲れすぎちゃったよ。明日改めて儀式を行う。それまでの間、肉体が無かったら何があるか分からない」
「分かったわ」
犠牲になった皆さんご免なさい……もう少しだけ待ってね?あと少しで全てが終わるから……。
あたしが筒の中のあたしを見上げていると、凪がその筒を制御しているらしき機械に手を伸ばす。
「ただ、向こうに行く前に一つ確かめておかなくちゃいかないことがあるんだ」
機械の上をさまよっていた凪の人差し指が一つのボタンの上でピタリと止まり、そのボタンをポチリと押した。すると、筒の中を満たしていた液体がどんどん排水され、遂には完全に抜け落ち、筒のガラス戸がパカリと開いた。
凪は何も言わず繋がれていたあたしの身体を解放して抱き上げ、側にあったストレッチャーの上に横たえた。
……何と言うか……こうみんなに堂々と裸を晒されるのはやっぱり気恥ずかしいような……
「出してしまって大丈夫なの?」
あたしが気恥ずかしさから視線を逸らしていると、朱美さんが凪にそう問いかけた。
そうだ、恥ずかしがってる場合じゃない、と思い直してあたしはキッと顔を上げる。
「2、3日……と言うか、明日までだから大丈夫。明日には儀式をしてアキの新しい身体を作り上げる」
朱美さんの質問にそう答えながら、凪は横たえられたあたしの身体に手を翳し……
ムニュ--
あたしのおっぱいわし掴み♪
「……って何さらすんじゃコラァァァ!」
「うべしっ……」
あたしの放った右ストレートが、凪の顔面に突き刺さる。
「……一応フォローしておくと、凪はセクハラしようとしたわけじゃなく、アキさんの身体の情報を読み取ろうとしただけよ?」
「そ、その通り……」
苦笑いを浮かべる朱美さんのフォローに、床に崩れ落ちた凪が指を一本立ててふりふりしながら言葉を続ける。
「あ、いや、だっていきなりだったから……」
「……アキ……」
「ごごごごゴメン凪……」
「……Aかと思ってたんだけど、Bだったんだな。着痩せするタイプだったんだ?」
「余計なお世話だ!」
「なんだ凪っち、結局セクハラ込みじゃん」
「セクハラじゃないって。アキの身体の情報をより正確に……うべしっ!」
「どっちにしてもやってることはセクハラと大して変わらんわい!」
凪の頭に踵をめり込ませながら、あたしはそう怒鳴り上げた。
「恥ずかしがる必要ないって。朱美もアキと大差はない」
「んな問題じゃなぁぁぁい!」
「そこで私を引き合いに出すのは止めてくれる?」
「だってミオちゃんだと明らかにミオちゃんの方が大きいし」
「……」
朱美さんは、チラリとミオちゃんの胸元に視線を走らせると、サングラスを取り出して装着し、後ろを向いてしゃがみ込んでしまった。
「……朱美さん?」
「……今は一人にして……」
気にしてたのか。
「まぁ今ので大体分かった」
いつものように何事もなく復活していた凪は、そう言いながら立ち上がった。
「たったあれだけで?」
「まぁね。視るんじゃなくて読み取るイメージ。読み取って頭の中にコピーを撮るんだ。慣れればみおちゃんにも出来るよ」
凪の言葉にうんうんと頷きを返すミオちゃん。
その時ふと、疑いの目を向けるあたしの様子に気付いた凪が、肩をすくめて口を開いた。
「ホントだって。何なら身長と体重からスリーサイズ、全身に広がる性感帯まで事細かに語ろうがぎやぁぁぁ!」
「いいかげんにしろぉぉぉ!」
懲りもせず吹き飛ぶ凪に、あたしはそう怒鳴り散らしたのだった。
その後、立ち直った朱美さんが、亜紀さんの身体を聖なる炎で火葬して、 あたし達は写しを後にしたのだった。
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