レクイエムは誰が為に13
「……」
目の前の光景を見て、あたしの視界は涙で歪む。今の朱美さんと凪には、別の存在が憑いてるってことは何となく理解できていたけど、それだけではこの沸き上がる焦燥感を止めることは出来ない。凪が、言わばあたしのために朱美さんを止めてくれているって事は分かっている……でもだめだ。
理解は出来ても許せない!
なんでアンタが朱美さんを抱きしめてんのよ……
なんでアンタが朱美さんにキスしてんのよ……
なんでアンタの指先が朱美さんの身体をなぞってんのよ……
なんで……なんでよ!
相手が他の誰かだったら……例えばミオちゃんだったらあたしもこんな気持ちになったりはしなかっただろう。選りに選ってなんで朱美さんと。
ハッキリと聞いた訳じゃないから正確なところは分からないけど……いや、間違いなくあの二人は過去につき合っていて、しかも、かなり深い関係にあったはずだ。その上、凪はともかく朱美さんは未だに凪との過去を引きずってる節がある。
更に言うなら二人の間には、何人たりとも入り込む事が許されない、深い絆のようなものが見え隠れしていて、只の……しかも決してまともとは言えない『霊体』であるあたしには、どう頑張ったって穏やかなんかじゃいられないじゃない!
どうして朱美さんなのよ……どうして!
相手が朱美さんじゃ、あたし勝てないじゃない!
朱美さんは、美人だし優しいし頭も良いし、何より凪と同じ能力者だ。凪と同じ立場で、同じ視線で、同じ道を歩み続けることもできるのだ。
あたしは……あたしは!
感情が爆発し掛けたそのとき、視線の先で凪と朱美さんがゆっくり離れて立ち上がった。
そしてこっちに向かって歩きだした朱美さんが、あたしに寂しそうな笑みを浮かべて肩を竦めて返してきた。それに対して、あたしと言えば、慌ててパッと視線を外した。どうも、我知らず朱美さんを睨み付けていたらしい。
それよりも朱美さんのあの表情…… やっぱり朱美さん、まだ凪の事が……嫌だよ……今は確かに凪の気持ち は朱美さんに向いてないかもしれないけど……朱美さんが本気で凪に気持ちをぶつけたら、きっと凪は朱美さんを選んじゃうよ!だってあたしは……あたしは只の霊体で……本当ならこの世に生まれ来てはいけない存在で……何の力もなくて、凪に迷惑ばっかり掛けてて……それに……さっきのみおちゃんと朱美さんの様子からすると、あの身体だってまともじゃなくて……やっぱりあたしは……あたしは生まれてきてはいけない存在なんだ……このまま、消えてなくなる運命なんだよ……凪……。
あたしが涙を堪えて俯いていると、ふわりと頭を撫でる気配が一つ。顔を上げると凪がいつものように、悪戯っぽい笑みを浮かべて覗き込んできていた。
「どうした、アキ?もしかして今の見て嫉妬したの?」
そう冗談めかして口を開く凪だったけど、あたしはいつものように軽口を返すことができず、それどころか堪えていた涙が溢れ出し、同時に抑えていた感情が一気に爆発する。
「ええそうよ……ええそうよ、悪い!? 幽霊ですらない出来損ないのあたしが嫉妬したら悪い?!生きてる意味も分かんない世界の理からも外れてる、あたしみたいな出来損ないは嫉妬したらダメだって言うの!?しょうがないじゃん!あたし凪のこと好きなんだもん!凪しかいないんだもん!……凪が他の誰かとキスしてんのなんて見たくない……他の誰にも凪を渡したくない!例えあたしがこの世の許さざるべき存在なんだとしても……凪と離れるなんて……凪と離れるなんて絶対にイヤ!」
「アキ……」
「あたしは凪が好きなの!凪とたくさんキスしたいし、エッチなこともいっぱいしたい!凪がそれを他の誰かとしてるなんて想像するのだってイヤだ!でもあたしは、そんなことをただ想う事すら許されない存在なんでしょ?!生きていてはいけない存在なんでしょ?!もしそうなら……凪と一緒にいることが許されない存在なら今すぐアンタのその手であたしを殺してよ?!そうすれば、例え結ばれることが出来なくても、アンタの心の中にずっといれる……ねえ!今すぐあたしを殺してよ!」
「アキ……お前が生きてちゃいけない理由なんて一個もないよ」
優しく微笑んでそう口を開く凪だったけど、今のあたしはそんな言葉では誤魔化されない!
「慰めなんていらない!」
「慰めなんかじゃ……」
「さっきのミオちゃんの様子と朱美さんの行動を見れば『あれ』がどういうものなのか、馬鹿なあたしでもよく分かるもん!『あれ』が造られた時、いっぱい他の人が犠牲になったんでしょ?!『あれ』はこの世に在ってはいけないものなんでしょ?!あたしだってそんな肉体で生き返るなんてごめんだわ!」
思い起こせば、この部屋に入った時に襲いかかって来たあの『何か』は、この肉体が造られた時に犠牲になった何の罪もない人達の助けを求める悲鳴だったんだ……それを、肉体の持ち主であるあたしが敏感に感じ取ってしまったんだわ。
「『あれ』がそんな忌まわしい存在なんだったら、それから造られたあたしも、生きていてはいけない存在なんでしょ?!」
「違うよア……」
「あたしが生きたいって思うことそのものが、現世の理から外れることなんだって事は言われなくてもよく分かる!」
「アキ、違……」
「だからあたしは肉体が欲しいだなんてもう思わない!だからせめて凪と結ばれたい!肉体的には無理でも、心で未来永劫繋がっていたいの!だから……だから、今すぐアンタのその手であたしを殺してよ……」
「アキ……」
「ねえ早……きゃっ!」
再度、凪に懇願しようとしたその時、唐突に『パァァァン!』と炸裂音が鳴り響く。ハッと顔を上げると、丁度その目の前で、凪の両手が拍手の後のように手のひら同士を合わせて掲げられていた。
どうも今の炸裂音は、凪が両手を合わせて鳴り響かせたらしい。
あたしが何も言えずに、その掲げられた凪の手を眺めていると、合わされた手のひらがゆっくりと解けていき、次の瞬間その凪の手のひらの上に、ポンッと一輪の花が現れた。
「へ?」
次いで凪は、左手でその花を摘んで右手の指をパチンと鳴らす。するとその花は瞬時に小鳥へと成り変わり、パタパタと飛び去ってしまった。
「……っ!な、何よ!ば、馬鹿にしてんの?!」
「まぁ落ち着けって。まだ確定もしていないような事に対してあんまり思い詰めすぎなさんな」
「そ……そんな言葉で誤魔化さないでよ……あたしだって、『あれ』がまともじゃないことぐらい分かってるんだから!」
「まぁ確かにあれはまともじゃないね。少なくとも20人を超える人間が犠牲なってると思う」
「だからっ!」
「でもそれはアキには関係無い事だよ」
「関係無い?関係無い訳ないでしょ! 『あれ』はあたしなのよ?!」
「違う。あくまであれは単なる入れ物だ。アキじゃない」
「揚げ足取りやってんじゃないわよ!そもそも入れ物だろうとなんだろうと、あたしが『あれ』から生まれたって事に違いはないでしょ?!」
「違う」
「え?」
「『あれ』は確かにアキの身体だけど、アキは『あれ』を基に造られたわけじゃない」
「え??」
「凪……どういうこと?」
「凪っち~! ミオ頭悪いから分かんないよ~!」
凪の言葉を怪訝に思ったのはあたしだけではなかったようで、朱美さんとミオちゃんの口からも疑問が吐いて出た。
「そのまんまの意味だよ。アキは『あれ』から造られたわけじゃない。あいつが言ってただろ?」
そう言いながら、凪は的場を指差した。的場は骨を砕かれた痛みの所為だろうか、隅で真っ青になってブルブルと震えている。
「……あいつ、『僕が彼女の肉体から情報を組み上げて』って言ってただろ?」
「「「あっ!」」」
「アキは正真正銘『紫藤亜紀』さんの肉体から造られた……言ってみれば彼女の分身なんだよ」
理解の色が広がる一同に、肩を竦めて返す凪。
「だから、アキは『あれ』がどうやって造られたかなんて気に病む必要はない。全てはあいつがやったことだ」
親指で背後を指し示しながらの凪のセリフに、指された本人の的場は恐怖の色を浮かべて、より一層身体を震わせ縮こまっている。
「でも……あの身体がなくっちゃ、あたしは生き返るどころかこうやって霊体でいることも出来ないんでしょ? つまりは『あれ』はあたしの所為で……」
「ああ、そう言う意味なら彼らの犠牲も無意味なものではなかったって事だね」
「へ?」
あたしは、凪の言葉を頭の中で噛み砕き……そして怒りを沸き上がらせる。
「そういう言い方って……そういう言い方ってないでしょ?!あの人達は、言ってみればあたしを生かす為に犠牲になったのよ?!何の罪もない人たちなのに……やっぱりあたしは生きていてはいけないの!今すぐあの人達を解放してあげるべきだわ!あたしが死ねば、あの人達を浄化してあげることだって出来るでしょ?!」
「順番が違う」
「何の順番よ!」
「彼らが犠牲になったのは、アキが造られるより前の話だよ。まず始めに『あれ』を造って、それを基にして魂を生成しようとして失敗。何度かそれを繰り返した上で、オリジナルの肉体を使った魂の錬成を思い付き、ようやくアキ魂を作り出すことに成功したんだ。ただ、やっぱり錬成される基になった肉体じゃないと、魂の定着は難しい。だからアキは『あれ』から遊離して、霊体としてあの部屋に存在しつつも、魂の繋がってる肉体が在るが為に消滅しないで済んだってわけ」
凪は一旦そこで話を切り、的場に向き直って問い掛ける。
「だろ?」
「な、何故それを……」
「死体じゃ、どう頑張っても屍鬼とかゾンビとかしか作れない。 アンタの目的は『紫藤亜紀』さんを『作り出すこと』なはずだろ?だったらそれじゃ、意味ないじゃん。そう考えれば、自ずと答えは出てくるよ」
凪のその言葉に、的場は敗北感に苛まれて力無くうなだれた。凪はそれを確認すると、今度は朱美さんに向き直る。
「アイツはアキの事を『No.9』と呼んでたろ?つまりアキより以前にそれだけの失敗があったってことさ。人体錬成で一番難しいのは魂の定着だって事は朱美だって知ってる筈だろ?なら『あれ』からアキが遊離してるって話を聞けば、素人のミオちゃんはともかく、いつもの朱美ならこのこと直ぐに気付いたと思うんだけど?」
「……返す言葉もないわ……」
諦め顔でそう言葉を返した朱美さん。その声に自嘲の響きが含まれているように感じるのは、あたしの気の所為ではないだろう。凪はそんな朱美さんの様子に肩を竦めて返して、今度はあたし達みんなに向かって口を開いた。
「だから言ったのさ。『彼らの犠牲は無意味なものじゃなかった』ってね。経緯はどうあれ、彼らのおかげでアキは今まで生き延びることが出来たんだ。それに感謝して、何としてでもアキを生き返らせる。その上で彼らにはきちんと成仏してもらうよ」
「……あたし……生きていてもいいの?」
「当然だよ。新しい肉体についても、俺が何とか出来ると思う。勿論、他の誰かを犠牲にすることなく……ね 」
いつものように悪戯っぽく笑みを浮かべそう言った凪を唖然と見つめながら、言葉の意味を心の中で噛み締める。
「……あたしは……」
心に広がる充足感……しかし同時に根深い不安があるのも事実だ。
あたしは、凪に視線を向けながら恐る恐る口を開いた。
「あたし……死ななくてもいいの?」
「勿論」
にこやかにそう答える凪。あたしは、正確な思考が出来なくなってるみたいで、とにかく頭に浮かび上がってくる疑問を次々に凪に投げ掛ける。
「あたし……生きていていいの?」
「当然」
「あたし……あたし、凪のこと好きでいていいの?」
「ぷっ……勿論俺は大歓迎だよ」
「あたし……凪と一緒にいていいの?」
「嫌だっつったって、無理矢理連れていくって」
「あたしが一緒で……迷惑じゃないの?」
「迷惑に思う理由が一個も思い浮かばないね」
「凪は……凪はあたしを好きでいてくれるの?」
「おっと、こんな人前で告白を強要かい?まあ俺は気にしないけどさいいかい?しっかり聞いとけよ?この俺鈴本凪は……」
凪はそこで一旦言葉を切り、あの人好きのする笑顔をにっこり浮かべた。
「意地っ張りで間が抜けているけど、心根が優しくて明るいアキのことを……心の底から愛しているよ」
あたしは唖然と凪を見つめ……いや唖然と眺めて今、凪が言った言葉の意味を考える。
凪が……あたしを好き?
「……あたしが……普通の人間じゃなくても?」
「普通っことにどれだけ意味があるのか俺には理解できないけど、俺が俺、アキがアキであるかぎりそんなことは問題にしない」
「あたしが……この世の理から外れた存在であっても?」
「もし世界が、アキをこの世ならざるものだって認識するんだったら、俺が世界を変えてやる」
「あたしが……」
再度問いを投げ掛けようとしたところで、凪はあたしの口元に人差し指を当ててそれを押し留めてウインクする。
「アキが俺を好きだと言って、俺もアキが好きだと言った……それ以上何か言葉が必要かい?」
「でも……でも!」
「青臭い言い方をすれば、俺らは『両想い』になれたんだ。一体他にどんなことを望むのさ?」
「……本当に?」
「本当」
「ホントにホント!?」
「ホントにホント」
「ホントにホントにホントにホント?!」
「クックックッ……間違いなく……間違いなく、俺はアキのことを愛しているよ……」
優しい笑顔を浮かべてそう言い切った凪を、唖然と見つめていたあたしの視界は、次の瞬間溢れ出した涙でぐにゃりと歪む。それを両手で覆いながら、凪の言葉の意味を噛みしめた。
「それがホントなら……あたし嬉しい……」
両手で顔を覆って凪の言葉に浸っていると背後で、ややご不満そうに甲高い声が鳴り響いた。
「面白くない面白くない面白くな~い!」
「っ!ミ、ミオちゃん?!」
慌てて振り向くと、ミオちゃんがぷっくり頬を膨らませてこっちにジト目を向けていた。
「なんでこうなるかなぁ~。アキさんに気を使って言ってなかったけど、ミオも凪っちのこと好きなんだよ?アキさんが生き返ったら、凪っちに、もーしょん掛けてアキさんと勝負するつもりだったのになぁ……あぁ~つまんないっ!」
「え?!いや……あの……」
「抜け駆けだ~抜け駆けだ~!ミオの純情返せ~!訴えてやるぅ~!」
拳を振り上げブーブーと訴えるミオちゃんだったけど、それは本気じゃなくて冗談の域を出ていなかったのでほっとする。
「……アキさん、今ほっとしたっしょ?」
「えぇっ!?」
「ブーブー!その程度の心意気なら、諦めずに付きまとっちゃうぞ~!奪っちゃうぞ~!凪っちミオと結婚して!」
「ミオちゃんだったら大歓迎だけど、もれなくお兄さんが付いてくるから遠慮しとく」
「な、何でここでお兄ちゃんが出てくるのさ!か、関係ないっしょ!」
「ブラコンにシスコンじゃ、俺たちの出る幕はないって」
「ちぃぃぃがぁぁぁうぅぅぅ!朱美さぁ~ん!何とか言ってやって下さいよぉ~!」
「えぇっ!?私?!え~とぉ……ミ、ミオちゃん、兄妹でそういう関係は……」
「だから!ち・が・うぅぅぅ!」
地団太を踏むミオちゃんの様子に苦笑を浮かべながらも、朱美さんはため息を吐いて自らの不満をポツリと漏らす。
「まぁ何と言うか……あれねぇ……私も少し不満があるかも……」
「ええっ!」
「だってほら、このままだと、何だか私がピエロみたいじゃない?勝手に思い込んで勝手に暴走して事態を悪化させて、その上、元とはいえ、恋人だった人を目の前で持ってかれるのを黙って見てなくちゃなんないし」
「そうそうそれですよ!朱美さんは、このまま黙って引き下がってもい いって言うんですか!?ここは2人で頑張ってもっと物語を盛り上げてですねぇ……」
眉にしわを寄せて難しい顔を無理矢理作り、人差し指をふりふりしてそう話すミオちゃんの頭を朱美さんは苦笑を浮かべて撫でる。
「ほら、ミオちゃん……言いたいことはホントはもっと別なことなんでしょ?」
「……」
朱美さんのその台詞に、ミオちゃんは緊張したように一瞬息を呑むと、目を瞑って大きく息を吐く。そして、目を開いてバツが悪いといった感じの笑みを浮かべると、ガバッと頭を下げて口を開いた。
「……一瞬でもアキさんの存在を疑っちゃってごめんなさい」
その「ごめんなさい」に、 あたしの心にほんわかとした、何とも言えない温かな風がそよいでいく。
そう……一連のミオちゃんの台詞は、謝罪の期を伺っていた彼女が、緊張をほぐすために行っていた軽口だったのだ。それが分かっていたから、安心して聞いていることが出来たし、一度弾けた心を落ち着かせることも出来た。
「ミオちゃん……有難う」
「え?ミオ、感謝されるようなことやってないと思うんだけど……」
驚いて顔を上げたミオちゃんは、今度は困ったような表情を浮かべ、ポリポリと頬を掻いている。
「それどころか、ミオ、アキさんの友達な筈なのに……」
そこで言葉を濁し、泣きそうな顔で俯くミオちゃん。
さっきの、あの態度を気に病んでのことだろう。
「ん……何でかな?あたしにもよく分かんないけど、自然とそう口から出て来ちゃった」
それはきっと、ミオちゃんの『ごめんなさい』に真摯な響きがあったからだろう。
ミオちゃん……あたしの為に心を痛めてくれて有難う……
あたしを心配してくれて有り難う……
何より、あたしを『友達』と呼んでくれて有り難う……
「ほら、ミオちゃん……そんな顔してたらアキが困っちゃうって。大体、今回ミオちゃんには落ち度はないよ。ミオちゃん、この手の荒事にはまだ慣れてないだろう?幾ら神眼に近い能力を持っていても、そこから得られた情報を吟味するには、まだまだ経験が足りないのさ」
そういいながら、ミちゃんの頭をポンと撫でる凪。
「そうやって直ぐ子供扱いしてぇ……くぅ……でも、あんなに簡単に……はぁ、なんか悔しいなぁ……」
ミオちゃんは、恨めしそうに凪を見上げながら、何かを誤魔化すようにそっぽを向いた。
「凪の言う通りよ。ミオちゃんが気に病むようなことは何もないわ。まぁ悔しいと思うなら、これから頑張る事ね。たくさんの物を見て、たくさんの人と出会って、たくさん恋をしなさい」
悪戯っぽく笑みを浮かべながら、そう語り掛けた朱美さんだったけど、ミオちゃんはそれがややご不満だったようだ。ぷうっと頬を膨らませ、これまた恨めしそうな視線を朱美さんに向けた。
「恋バナは関係ないですよー!朱美さんまでミオのこと、子供扱いしてぇ……」
「あら恋は重要よ?恋は良くも悪くも人を成長させてくれるわ」
「ふ~んだ。恋ぐらいしたことありますよ~」
「そうだよね?ミちゃんはお兄さんに恋をしてるんだもんね?」
「ちぃがぁうぅぅぅ!ミオは凪っちの事が好きなのぉぉぉ!」
再び地団太を踏むみおちゃん……と何故か一緒になって地団太を踏む真似をしているピスキー2人に、あたし達は声を上げて笑ったのだった。
「あはははは……俺は幸せもんだね。こんな美人3人に恋い焦がれられてる訳だからね」
「……言葉に全く重みがない」
「なんか馬鹿にされてる気がす るぅ!」
「私は恋い焦がれてなんかいないわよ……でも、そこはかとなく敗北感が漂っているのは何故なのかしら……」
口ではそう言いつつも、決してこの場の雰囲気は悪くない。それぞれ、心のに秘めていた葛藤がほぐれた所為だろうか?
しかし、そのほんわかした雰囲気も、次の瞬間一変してしまう。
「「きゃ!」」
突然の変化に驚いて、あたしとミオちゃんが軽く悲鳴を上げながら反射的に頭を抱える。
キアちゃんとフェイちゃんも、同じく驚いたのか、あたしとミオちゃんの陰へと慌てて身を隠した。
「……死霊達が騒ぎだしたようね……」
そう言いながら、朱美さんが厳しい顔で振り向いた先には、もやもやとした黒い霧状の何かに囲まれた一つの人影……。
「往生際が悪いねぇ。そんなんじゃ女の子に嫌われるよ?」
その人影は、死霊に依ろわれた、的場宗政。的場は、凪の軽口が怒りの琴線に触れたのか、凄まじい形相を見せながら、こちらを睨みつけて立っていた。
「き……きききき貴様等に……」
的場の怒りに呼応するかのように黒い靄が集り、的場の体の中へと取り込まれていく。
「こここここれ以上この場を好きにさせてたまるかぁぁぁ!」
その言葉と共に黒い靄の集まる速度が一気に加速し、そしてその靄を体に取り込み尽くしたその刹那に体が急速に膨れ上がり、次の瞬間、的場は異形の姿へと変貌を遂げたのだった。
ブクマ&☆ポチよろしゅう
lineやTwitterでの拡散も喜びーぬ




