レクイエムは誰が為に12
『……サラバジャ……』
そう唐突に頭の中で鳴り響き、私の身体から伊邪那美の気配が徐々に消え失せて、次いでとある感情に満ちていく。同時に、凪の身体からは伊邪那岐の気配がすうっと抜けて行ったのが分かった。
「んぐ……」
伊邪那美の気配が完全に抜けた直後にこの身を襲ったのは、何とも言えない喪失感と倦怠感。そして……今まで意地を張って避け続け、自分自身に嘘を吐いてまで認めようとしなかった現実を否応無しに突きつけられる。
そっか……私は未だにコイツのことが好きなのか……。
気付いていなかった訳じゃないけど、ただ認めたくなかったこの事実。女々しい自分を……弱い自分を……他の誰でもない、自分自身が許せなくて、その想いに向き合うことをしてこなかったのだ。
伊邪那美が消えて、凪が、伊邪那岐の気を使って伊邪那美を正気に戻そうとしていたのだと気付いたとき、私の中で沸き起こったのは口惜しさだった。
一瞬でも口惜しいと思った自分が許せなくもあったけど、否応無しに自分が未だ凪への想いを引きずっている事に真正面から向き合わされた。
そして同時に凪が私のことをどう思っているのかにも気付かされる。いくら凪でも、別れた直後の私にだったらこんなことはしなかっただろう。凪にとって、私は既に過去の女であって、今はその心に別の女性を住まわせているのだ。だから、手っ取り早く伊邪那美を正気に戻せる、このような強引な方法を取ったのだ。それに気付いたとき、私は何とも言いようのない喪失感に見舞われたのだった。
ふと、眼に涙をためたアキさんの顔が目端に止まり、私の心の奥底に、チクリと何かが突き刺さる。
私は……そして無意識のうちに、アキさんに嫉妬していたってわけだ……だから無意識の内に自分を追い詰め、あれしか方法が無いだなんて馬鹿なことを思い込んだんだろう。
未だ私に唇を押し付けている凪の肩を軽く叩いて、離れるように合図を送る。すると凪は、一拍置いてすぅっと離れ、この男には珍しい、少し困ったような顔で私の顔を見ている。そして眼を瞑って軽くふうっと息を吐くと、直ぐに元の凪に戻って目を開いた。
伊邪那美が去ってから今まで施されていた、ただ触れるだけの優しいキス……伊邪那美が去った事に、この凪が気付いていなかった筈はないだろうから、これは、女心の分からないこの馬鹿なりの精一杯の贖罪のキスなのだろう。でも……こんなことされたら余計未練が残るっつーの!
でもこのキスが凪の心内を、再度私に気付かせた。そうなのよね……これは……これはどう贔屓目に見ても、兄妹へのキスだわ。
凪が離れたので私もすっくと立ち上がると、涙を堪えて私を睨み付けてくるアキさんと視線がぶつかった。私はそんなアキさんに、何とか笑みを浮かべて肩を竦めて返す。するとアキさんはハッと息を呑み、決まり悪げに視線を外した。勘の良い彼女のその瞳には、一体私はどんな風に映ったのだろうか、少し気になるところだ。
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