レクイエムは誰が為に10
『く……』
私は、何とか伊邪那美の支配の中でも自我を保ち、伊邪那美に神としての強大な力をこの場で発揮されるのを防いでいた。
甘かった……伊邪那美は私が思っていたよりもずっと強大で、しかもずっと激しい気性の持ち主だったようだ。
本当は、一瞬でもいいから凪を動けなくして、その隙に的場に留めを刺そうと思ったんだけど……このまま伊邪那美に全てを奪われたら、いくら凪でも無事には済まないだろう。それどころか、確実にミオちゃんとアキさんにも被害が及んでしまう。
これはどう考えても私のミスだ。こうなった以上、私の命はどうなってもいい。何とか伊邪那美を抑えて、その隙に凪に私の命を絶ってもらう他ない。
私は唯一なんとか自由に動かせる眼球を凪に向けて、何とかその意志を伝えようと試みる。
しかし、私はそこで、凪を包み込む異様な気配の存在に気が付いた。
嫌な気配ではない。それどころか、思わず跪いてしまいたくなるほどの冷厳さと、無条件でこの身を捧げてしまいたくなるような尊厳を、その気配からは感じるのだ。
『……何、この気配……』
『ア、アレハ!?』
伊邪那美の気配に動揺が走る。いや、動揺と言うよりも更なる憤怒に近い。
まさか……
『貴様……何故ココニ……何故コンナトコロニイルノダ、伊邪那岐!』
『ば……馬鹿凪!伊邪那岐なんか降ろして……そんなことしたら、火に油を注ぐようなものだって分からないの?!』
『ヨクモ……ヨクモヨクモヨクモヨクモォォォ!!』
膨れ上がる伊邪那美の怒り。しかし、そんな伊邪那美の姿を目にした伊邪那岐の表情は、憂いと哀愁で曇っている。
『……』
『何故ダ……何故貴様ハ……何故貴様ハ!』
詰め寄る伊邪那美に、逃げる様子も見せず、伊邪那岐は只じっと、その憂いを含んだ瞳で伊邪那美を見つめ続ける。
『貴様ハ!!』
ガバッと伊邪那岐の襟首を掴み引き寄せながら、更に言いつのる伊邪那美。
『貴様ハ貴様ハ貴様ハ貴様ハ貴様ハァァァ!』
『……』
伊邪那美の体から自然と雷が迸り、伊邪那岐へと伝わってその体を舐め回して焦がしていく。しかし、伊邪那岐は、変わらず伊邪那美を見つめ続けている。
『何…故……何故ナノダ……』
伊邪那美の瞳から、一筋の雫が滑り落ちる。
『何故ナノダ……何故……何故ナニモ言ッテハクレヌノダ……妾ノ気持チ分カラヌ程ニ、オ主ノ気持ハ離レテシマッタノカヘ?ナラバイッソ、オ主ガ手デ、妾ノ命奪ッテ頼ウ……』
そう言って、その場にズルリと崩れ落ち、伊邪那美はしずしずと泣き始めた。
『……』
泣き崩れている伊邪那美の傍らに、伊邪那岐は無言で片膝を突く。そして、涙が伝わる伊邪那美の頬にそっと触れ、閉ざされていた唇を開いて伊邪那岐は声を絞り出した。
『……スマヌ……』
その言葉に伊邪那美は顔を上げ、涙に濡れたその瞳で伊邪那岐に恨めしげな視線を向ける。
『……』
『スマヌ……全テハ私ノ弱イ心ガ招イタ事。ダガ信ジテ欲シイ……私ハアノ日以来、1日タリトモアノ日ノ事ヲ後悔シナイ日ハ無カッタ……オ主ノ事ヲ想ワヌ日ハ無カッタノダ……』
『伊邪那岐……』
『重ネテスマヌ。私ガ悪カッタ……モシ出来ルノデアレバ、愚カナ私ヲ許シテ欲シイ……』
その言葉に、伊邪那美の心は熱くなる。
差し出された伊邪那岐の右手を両手で胸元に引き寄せて、ギュッと握りしめて目を瞑る。
そして数秒の後、伊邪那美はコクンと頷き口を開いた。
『……嬉シイ……』
伊邪那岐は、その言葉に微笑みを返し、伊邪那美の顎に手を掛けると自分の方へと引き上げる。
伊邪那美は目を開けると、そんな伊邪那岐に幸せそうな笑みを返し、伊邪那岐を受け入れる為に再び目を瞑ったのだった……って冷静に実況してたけど、よく考えたら、これって周りから見たら『私』と『凪』の痴話喧嘩以外の何物でもないわよね……すると何?!ミオちゃんやアキさんから見たら、私がよよと泣き崩れて凪に甘えてしなだれ掛かってるように見えるわけ?!ちょっと待ってよ!私にもイメージってもんがあるのよ?!
『っ!!』
あ……温かい……これって凪の……ヤ、ヤバい……あ……って、ちょっと待ってよ!キスくらいで……ん……って私、そんなに男に餓えてないって!伊邪那美!私の身体使って何盛り上がってんのよ!今すぐ出て……あっ!ちょ、 ちょっとやめ……んんっ!これ以上、私の身体で勝手に盛り上がるなぁぁぁ!伊邪那美!今すぐ私の身体から出ていけぇぇぇ!
ブクマ&☆ポチよろしゅう
lineやTwitterでの拡散も喜びーぬ




