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闇より舞い落ちるひとひら  作者: レムウェル
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レクイエムは誰が為に8


 最悪ね……私は、泣きじゃくるミオちゃんを胸に抱きしめながらキュッと唇を噛みしめる。想定していた状況の中で、最悪の結果が私たちの行く手を阻む形になってしまったようだ。


 私が上のあの部屋で見つけたノートに記されていたのは、人の肉体を作り出す禁忌の技術……しかも、1人の人間を全く同じ姿でもう1人作り出す秘術を交えて、事細かに書き記されていたのだった。


 それは、現存するクローン技術を応用し、それに式神を作り出す呪法を組み合わせ、西洋の錬金術まで上乗せした悪魔の技術だ。


 あのノートにはこうあった。


『……ネックとなるのは、元の肉体と霊子的にも全く同じ遺伝子情報を組み込むことであったが、以下の方法でそれを解決することが出来た。プラントを満たす蒸留水を霊的なエネルギーで常に満たし続けること……即ち大量の人間の生命エネルギー(この場合は魂と言っても差し支えないだろう)を圧縮し、蒸留水に行き渡らせる事で、肉体的な遺伝子情報と同時に霊的な構成情報を写し取りやすい【場】をプラントの中に作り出す方法だ……』


 細かい技術的な事までは理解できなかったが、つまりはこう言うことだ……アキさんの肉体を作り出すために……幾人もの人間が、あのガラス管を満たしている液体の犠牲になっていると言うことだ!しかも、あのノートには、更なる狂行が書き記されていた!


 あの液体を作り出すために、『生きたまま』身体を的場の術で沸騰させられ、霊子的なレベルまで分解されたというのだ!


 強すぎるミオちゃんの能力は、あの忌まわしい存在の全てを見通してしまったのだろう……この娘の瞳には、あの液体がどう写っていたのか……想像するだけで身の毛がよだつ!


「……ふぅ……」


 私は猛る気持ちを何とか抑え、ミオちゃんの背中を撫でることで心を鎮める。


 出来ることなら的場をこの場で犠牲になった人達と同じ目に遭わせてやりたい……でもそんな事をしてしまえば、私も的場と同じところまで堕ちてしまう事になる。それに今は、それよりも先に考えなくちゃならないこともある。


 アキさんにはなんて言おう……私の不安が現実の物となった以上、 このまま凪の希望通りこの肉体で、アキさんを生き返らせる訳にはいかない……いや、それどころか、あの肉体からアキさんの魂が生成されたならば、生き返らせる事そのものに抵抗が出てきてしまうのだ。


 しかし、となればどうすれば良いかなんて、私には結論を出すことなど出来やしない。少なくとも、邪なる存在として今すぐアキさんを祓うなんて事は出来る筈もない。凪の言うとおり、彼女にも生きる権利はあるだろう。


 でも……アキさんを甦らせる事は、諦めてもらう他ない……。


 そう結論付けるしかない自分の能力のなさに辟易するが、こうなってしまった以上凪には何としてでも承知してもらう。


 それが出来なければ、私は全力を持って凪の行動を止めなくてはならない……例え凪と刺し違えることになったとしても。


 私は、落ち着き始めたみおちゃんを妖精達に任せ、立ち上がって的場の元へと歩み寄る。


 抑えていたつもりだった怒りが滲み出ていたのだろうか、的場は青ざめた顔で立ち上がることもままならず、お尻を床についたままジリジリと後退っている。


 アキさんの方へ視線を向けることは出来ない。自分の中で、まだ解決策が見いだせないでいるからだ。


 ハッキリと告げた方がいいのだろうか?でも……


 私はブルブルと頭を振って的場を見据え直す。今はこいつをどうするかだ……そう考える事が結論を先送りしているだけだって事は百も承知だけど……。


 私が目の前に立つと、的場は私の気配に怯えながらも虚勢を張って、何とか笑みを浮かべようと試みている。だが、どう頑張っても頬をピクピクとひきつらせるのが精一杯なその姿は、私の中のイラつきを更に強めて行く。


 そのイラつきを抑える為に声も上げずに睨み付けていると、的場は頼んでもいないのに、どもりながらもペラペラと話し始めた。


「ぼぼぼ僕は何も知らない!そそそいつは僕の術を逃れたらしくて、むむむむむ向こう側にはいなかった!ぼぼ僕も一緒に向こう側にいいい行ったから、ぼぼ僕には何があったか分からない!だだだだから僕には何の責任もな……ヒィッ!」


「責任が……なんですって?」


「だだだだからそれは、そいつが勝手にそうなっただけで、僕には一切関係はな……ヒ、ヒィィィ!」


 ついには、四つん這いになって逃げ出し始めた的場の襟首をむんずと掴み、無理矢理引き立てこちらを向かせると、まるでこちらのご機嫌伺いでもしてるかのような卑屈な笑みが目に入り、私の中で何かがプチンと切れる音が鳴り響いた。


「どの面下げて……どの面下げて『責任がない』なんて言いやがるか!!」

「うぎぁぁぁぁぁ!!あがっ!あがっ!」


 私が、怒りに任せて掌底を鼻っ柱に叩き込むと、的場は鼻血をまき散らしながら吹き飛んでいく。


 そして私は、吹き飛んだ的場に更に近寄ると、顔を両手で抑えながら床を転がり回っているコイツの大腿部に向けて、思いっ切り足を踏み込んだ。


「うぎゃぁぁぁ!!」


 バキンと骨が折れる鈍い音が鳴り響く。


「あがっ!いだっ!いだいぃぃぃ!!」


「犠牲になった人達の痛み……僅かばかりでもその身に刻んで消え失せろ……」


 這いずり回るこの男に止めを刺そうと私はナイフを取り出し振り上げる。


「朱美……そこまでだ」


 振り降ろそうとしたその刹那、凪にガシッと羽交い締めにされた事で私は我に返った。


「……何で止めるのよ……アンタはこの男にも生きる権利があるとでも言うつもり?」


「僕はそこまでお人好しじゃない。今コイツに死なれると、聞きたかった事も聞けなくなっちまう。 止めを刺すならその後にしろ」


「……聞きたい事って?」


「決まってる。アキの身体についてだ」


 その言葉を聞いたその瞬間、私の中で覚悟が決まる。


 凪……アンタが気付かないはずないわよね?みおちゃんの様子と的場の性格……そしてアンタの知識があれば『あれ』がどういった由来の物か……アキさんがどういう存在か!


「そう……なら……」


 私がアンタを絶対止める……最悪でも的場の息の根だけでも止めて禍根を断つ!私の命に代えてもアンタに現世の理に反するようなごうは負わせない!


 私は一旦力を抜いて、次の動作にスムーズに移れるように、全身の神経を尖らせる。


 凪には私の持ついかなる術も通用しない。しかし、凪の方も私に対して攻撃をしてくるなんてことは有り得ない。何故ならアイツは、自分の能力が強すぎる事をよく理解してるからだ。だから私が術を使えば、それを防ぎきってから行動を起こすはず。


 私に許された猶予は、その術が切れるまでの十秒足らず……それまでに『あの術』を完成させなきゃならない。


「……なら……貴方が『それ』を望むなら、私は全力をもって貴方を止める!」


「待て朱美!話を聞けって!!」


 待ってなんかいられない! 私がアンタを止めるにはこれしか方法がないのよ!


 私は術の詠唱を行いながら懐の紙人形を取り出し、凪と的場を取り囲むように投げ放つ。


「……そらをも引き裂く神の御雷をここに!」


「朱美さん?!」


「朱美!……チッ……」


 雷鳴と共に激しい稲光がこの場を覆いつくすが、凪は舌打ちとともに鈴の音をならして障壁張り巡らした。この私の最大の呪術も足止め程度にしかならない。それどころか、私が扱うどんな術も凪の前では意味をなさない。


 だから……『私以外の存在』の能力を使ってアンタを止める!


「……舞い降りたまえ伊邪那美命イザナミノミコトよ……世界を産み落とした神がひと欠けよ……死者をも統べし汝が能力を我が元へ!」


 何枚もの呪符を私を取り囲むように散りばめそう唱えると、呪符は激しい雷光を私に向かって解き放つ。その雷光がこの身を貫くと、私の身体は自由を失った。


 そして視界が暗闇に包まれると、目も耳も口も鼻も利かない状況で、頭の中に老練な女性の声が鳴り響く。


『妾ヲ喚ビ降ロセシ愚カナル者ヨ……汝ガ願イヲコノ場ニ唱エヨ』


 私は必死に自我を保ちながら、何とかその問いに答えるため口を開く。


「……わ、私の願いは、貴女の能力を持って、凪の行動を止めること……」


 私の能力ではそれが果たせない……だから、凪に勝る神の力でなんとかアイツを抑え込む。私に、伊邪那美の能力を全て使い切る技量は無いが、凪を抑えながら的場を葬る事くらいは出来るはず!


 もしかしたら私の自我は伊邪那美に取り込まれてしまうかもしれないけど、その時は凪と的場を巻き込んで、自分の命を絶つつもりだ。そのために、ミオちゃんを妖精達に預けたのだ。妖精達ならきっとミオちゃんを守ってくれるだろう。


 アキさんには悪いけど、私にとっての最優先事項は、今となっては凪の行動を止めることとミオちゃんを無事に家に帰す事だ。


 アキさん御免……私はこれ以上貴女の力になってあげれない……でも、凪にこれ以上、ごうを背負わせる訳には行かないの!恨むならこの私を恨んで!


『凪……トハ?』


 その問いかけに思い浮かぶのは、出会った頃の凪の姿……そして今まで凪との記憶が頭の中を巡り始めた。これが走馬灯って奴かしら……楽しかった頃の記憶を目の前に、私の決心が軽く揺らぐが、それが只の感傷にすぎないってことは、誰よりも私が一番分かっている。


 私は深く息を吐きながら、心をなんとか落ち着けた。


「……凪は……私の目の前にいる……」


『男ダナ!?』


「……へ?え、ええそうですけど……」


 妙に怒りが籠もっているその台詞に、私は怪訝に思いながらもそう答えた。


『ヤハリカ!オ前ハアノ男ニ騙サレタ哀レナ乙女ト言ウワケダナ!?』


「……はい?」


『任セテオケ!』


「へ?何を??」


『妾ガオ前ノ恨ミヲ晴ラシテヤロウ!!』


「へ?……ええぇぇぇ!?ちょ、ちょっと待っ……」


『何モ言ウデナイ……オ前ノ恨ミハ妾ガ引キ受ケタ!』


「いや違っ……」


『男トイウ奴ハ……イツモイツモイツモイツモォォォ!』


「おーい」


『男ハ全員コノ世カラ消シ去ッテクレゥゥゥ!!』


「っ!ちょ、ちょっと待てぇぇぇい!」


『伊邪那岐メェェェ!「私にはお前が必要さ♪」ナドト言ッテオキナガラ、妾ヲ恐レテ逃ゲオッテェェェ!』


「……い、いや今はそれは関係な……」


『コノ恨ミ……晴ラサデオクベキカァァァ!』


「だからちょっと待ってってば!」


 そして……私の視界は一気に回復し、私が放った術なんて比較にならないほどの雷撃が、凪に向かって伸びていく姿がこの目に飛び込んできた。


「ちょ……ちょっとタンマァァァ!」


 しかし私の絶叫は、伊邪那美の耳には届いた様子もなく、雷撃は凪に直撃しのだっ た。



ブクマ&☆ポチよろしゅう

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