レクイエムは誰が為に7
亀裂から外に抜け出した瞬間、闇は粉々に砕け散り、あたしの視界は真っ白に染め上げられた。
徐々にその光に目が慣れてくると、ぼやけて見えていた外界の様子が、次第にハッキリと形を成していく。あたしたちは元いた場所に戻っており、あたしの肉体の入ったガラス管と相対していた。
あたしは、頭を巡らし状況を確認する。朱美さんは、肩を怒らせ、呼吸を荒らして俯いているが目立った外傷はない様子だ。凪は両手を頭の後ろで組んで、緊張感もなくニヤニヤ呑気に構えている。あたし達と相対する形で立ちはだかっている的場は、今の攻撃をあっさりと打破されたことが信じられないのか、青ざめた顔で唖然とこちらを見つめていた。
ミオちゃんは……あれ?どこ行った?あたしがそう視線を巡らしていると、凪が朱美さんに歩み寄りながら口を開く。
「いや~やっぱり困った時の朱美大・明・神♪お前なら絶対何とかすると思ってたよん。俺じゃあ、みんなを巻き込んじゃう可能性があったしさ~」
「……」
「ん? 朱美?」
反応を見せない朱美さんを、凪は怪訝そうに首を傾げ俯く朱美さんの傍らから体を傾けのぞき込んだ。
「朱美ちゃーん、どうったのぅべし……」
おお!見事な振り下ろしの右!
朱美の放った拳をまともに喰らい、凪は朱美さんの拳と床に挟まれ悶絶する。
「な…何故……」
ピクピクと痙攣しながらそう訊ねる凪の姿はあまりにも滑稽だったんだけど、今の朱美さんの行動が理不尽な物であったことは事実で、少しばかり凪に同情する。
上げた朱美さんの顔は耳まで真っ赤に染め上がり、眉間には深いシワが穿たれていた。しかしそれは怒りと言うよりも、羞恥であったことをあたしは瞬時に理解し、敢えて何もツッコミは入れないと心に誓ったのだった……何か恥ずかしいものでも見せられたのかな?
その時突然、それまで口を閉じて様子を見ていたキアちゃんが、慌てたように飛び出した。
「キ、キアちゃん?!」
あたしは訳も分からずその後を追う。
「キアちゃんどうしたの?」
『ミオちゃんの様子が変なんだ!』
その台詞にハッと視線を上げると、あたしの肉体が入っているガラス管の前に横たわっている機材の陰で頭を抑えて座り込み、ガタガタと震えているミオちゃんの姿が目に入った。
「ミオちゃん?!」
あたしの声に気付いた朱美さんと凪が、何事かとこちらに駆け寄ってくるのが見える。
「ミオちゃんどうしたの?!」
再度あたしは問いかけたが、ミオちゃんは全く反応を見せずに小さな幼子のようにのガタガタとただ肩を震わせている。
「ミオちゃん?!」
「ミオちゃんどうしたの?!」
「ミオちゃん!」
「……」
口々にあたし達が呼び掛けても、青ざめた顔で頭を抱えてガクガクと震えるだけで、反応らしい反応が返ってこない。彼女の顔を覗き見ると、その瞳は焦点があっていない。
フェイちゃんとキアちゃんも必死に呼び掛けているんだけど、それにも反応を返そうとしなかった。
そうこうしていると、やがてフェイちゃんとキアちゃんは、何か言い争いみたいなことを始める。会話が聞こえないので内容までは分からないけど、キアちゃんがフェイちゃんに何か尋ねているってことは分かった。そう言えばフェイちゃんは、ミオちゃんと一緒にいたはずだから何か知っているはずなのだ。
「フェイちゃん!ミオちゃんどうしちゃったの?!」
業を煮やして、あたしはフェイちゃんにそう尋ねた。彼は困ったような顔で振り返り、訳が分からないといった感じで首を振る。
『分からないんだ……分からないんだよ!僕ら、さっきの死霊達からは逃げる事が出来たんで、ミオちゃん、みんなの役に立つんだって色々調べ始めたんだ!それでアキさんの身体を能力使って視ようとした途端にこんな風になっちゃって……嫌な予感はしたんだよ……強引にでも止めればよかったよ……ヒック……』
泣き出したフェイちゃんをキアちゃんが慰めている。
「アキ。彼らは何だって?」
「よく分からないんだけど……どうも、ミオちゃんがあたしの肉体を視た途端にこんな風になったみたいで……」
「えっ?!何ですって!?」
そう反応を返してきたのは、問を投げかけてきた凪本人ではなく、傍らにいた朱美さん。朱美さんは唖然とミオちゃんを見詰めていたかと思うと、ゆっくりと視線をあたしの肉体の方へと移し、顔を青ざめながらミオちゃんへと視線を戻した。
「朱美さん?」
朱美さんは、あたしの問い掛けには答えず、頭を抱えて震えているミオちゃんの両肩を掴むと、一言一言噛み締めるように、再度みおちゃんに呼び掛ける。
「ミオちゃん……貴女……視たの?いいえ……『視えた』の?」
恐る恐るのその問いに、ミオちゃんの瞳の瞳孔が閉じていき、徐々に焦点が合ってきた。
「朱美……さん?」
「そう……私は朱美よ?分かるわね?」
ミオちゃんは唖然とした表情でコクンと頷き、次いで顔をくしゃくしゃに歪めて涙を溢れさせ、ガバッと朱美さんに抱き付き泣き始めた。
「うぇ~ん!朱美さん、怖かったよぉ~!」
「もう大丈夫よ……やっぱり貴女をここに連れてくるべきじゃなかったわね……」
泣きじゃくるミオちゃんを優しく抱きしめながら、朱美さんは苦渋に満ちた表情を浮かべる。
いったい何があったんだろう……あたしは、そう尋ねたい気持ちをグッと堪えた。何故なら、どういう訳か、2人からあたしを拒絶するような気配を感じ取ってしまったからだ。
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