レクイエムは誰が為に5
「おっと」
足元がグニャリと歪むと黒い染みから死人のどす黒い手が大量に突き出し、俺たちは一瞬にして黒い塊に覆われ て、次の瞬間には異世界へと引きずり込まれてしまっていた。
前後左右上下の感覚が曖昧で、視界は両目が開いているのかどうかも怪しいほどに真っ暗だ。おそらくは、死霊達が住まう異空間なんだろう。
「どうもお遊びが過ぎたみたいだね。失敗、失敗」
この俺、鈴本凪は、頭を掻きながらほかの仲間の事へと思考を巡らせる。
取り敢えず、ミオちゃんはピスキーの1人が救い出してくれたみたいだから大丈夫。
アキは間に合わずに一緒に引きずり込まれてしまったみたいだけど、すぐ近くにいたもう1人のピスキーが駆けつけていったから多分大丈夫だろう。
朱美は……まぁ朱美だから大丈夫か。
それぞれをそう結論付けると、今度はここをどうやって脱出するべきかに思いを巡らし始める。
「さて、どうやって出ようか……な?」
目の前に人影発見。それもこの世の者とは思えないほどの美男子だ。
「う~ん、どこの誰だ?これほどまでの美男子なら、忘れるはず……」
ポン--
「あぁ、どっかで見たことあると思ったらシャイでキュートな鈴本凪くんじゃないですか。見たことあるはずだよね」
毎日鏡で見ているわけだからね。
『……』
俺の一連の言動に反応も見せず、『俺』はじっと俺を見詰めている……俺に『俺』って、何かややこしいなぁ。
『……』
「さて……何の用かな?」
『……君ハ何ヲ怖レテイルノカナ?』
口を開いた目の前の『俺』は、表情もなくそう問いを投げ掛けてくる。
「……なるほど。君は俺の恐怖の具現化という訳か」
俺の思考は瞬時に高速回転を始め、一瞬でそう結論を導き出す。
『……流石ダネ。理解ガ早イ。ソウサ。俺ハ君ノ心ノ中ノ最モ奥底ニ押シ込メラレテイタ恐怖ノ具現化……君ハ何故ソレホドマデニ自分自身ヲ怖レテイルンダイ?』
「決まってる……溢れる才能、輝く美貌!その能力は神をも従え、その微笑みは道行くおばさま方の絶大なる支持を得る……全てにおいてパーフェクトなこの俺を怖れず、一体何を怖れるというのだ!」
『……』
俺のオペラ張りの名演説にも『俺』は無表情を貫き通す。
俺が感心して見詰めていると、唐突にその顔に何か含んだような笑みを浮かべて『俺』が口を開いた。
『……君ハ何故、自ラノ身ヲ道化ニ貶メテマデ能力ヲ抑エヨウトスルンダイ?』
その台詞に……いや、その顔に浮かんでいるしてやったりの笑みに、俺の心はスウッと冷えていった。
「……」
『怖イ怖イ、ソレガ君ノ素顔カイ?ソレホドマデニ強大ナ能力ヲ持チナガラ、コノ場ヲ力ズクデ脱シヨウトシナイノハ、周リヲ巻キ込マナイヨウニスルタメダロウ?歯ガユイネ……君ハ君デアル限リ、常二周リヲ死ニ巻キ込ムリスクト隣リ合ワセトイウ訳ダ』
「……はぁ……もっと歯ごたえが有る奴かと思ったけど、この程度か」
『何?』
「自分の安全が確保出来たことを理解した上でそんなこと言っているんだろう?正直がっかりだよ」
『何トデモ言エバイイ……ドッチニシロ、君ハソノ強大ナ能力ヲ振ルエズ、コノ場ニ釘付ケダ。僕ノ力量ジャ確カニ君ヲ恐怖デ縛ルコトハ出来ナイダロウガ、結果トシテ君ヲコノ場二留メテオク事ガ出来ルノナラ同ジ事。ココデ他ノ仲間ガ朽チテイクノヲ指ヲクワエテ見テイルガイイサ。ククク……アハハハハハ!』
「フン……主の品位が知れるね」
『俺ノ役目ハ君ヲコノ場二留メル事……君ノソノ台詞ハ、僕ニハ負ケ犬ノ遠吠エ二シカ聞コエナイヨ』
『俺』は、自分の優位性を確信しているような口調だったけど、俺からしたらその優位性とやらにすがっているようにしか見えないんだよね。
「何より呆れちゃうのは、この程度の罠で俺たちを留めておくことが出来るって思っているってところだよね」
『フフフ……ソウ言ウナラ何トカシテミタラドウダイ?確カニ俺ニハ君ヲ恐怖デ縛ルコトハ出来ナイガ、周リヲ巻キ込ムコトヲ君ガ怖レテイルッテコトハ歴トシタ事実ダロウ?ハン!ホラヤッテミロヨ!』
あらあらこの程度の状況で勝ち誇っちゃってるよ。この辺が主である的場の力量を現しちゃってるんだよね。
「何故?」
俺は鼻で笑でってそう訊ねた。
『何故?何故ダッテ?君ガコノ程度ッテ言ッタンダロ?ナラコノ場でソノ言葉ヲ証明シテ見セロヨ!』
「何かイラついているみたいだね?どうしたんだい?いっちょ前に自尊心を傷付けられたとでも思ったのかい?」
『……貴様……』
「俺はね、何もしなくていいんだ」
『何?』
「俺が何かしなくても、朱美がなんとかするだろうから」
『ハ……ハハハ……自分ジャドウニモ出来ナイモンダラ、女ニ何トカサセヨウッテワケカイ?同ジ男トシテ……』
「羨ましい?」
『違ウ!情ケナイッテ言イタインダヨ!』
「隠すなって。君、モテなさそうだもんね。どうせ友達もいないんでしょ?」
『放ットケ!大体死霊ニ友達ガイテタマルカ!』
「君じゃない。君の目を通してこっちを見てる三流能力者に言ってんだよ」
『……』
その台詞に、『僕』の表情ががらりと変わる。図星を突かれて向こう側にいる素の的場宗政が出てしまったんだろう。
「こそこそ隠れてこんな戦い方しかできないような三流が、ちょっと策が当たったからって粋がってんじゃないよ」
『何トデモ言エ……ドウセソノ朱美トヤラモ、今頃俺ノ術中ニハマッテ……』
「ぷっ」
『何ガ可笑シイ!』
「いや、恐怖に震える朱美の姿を想像しちゃったもんでね」
それはそれで見てみたい気がする。
『見下ゲタ奴ダナ……味方ガピンチダト言ウノニ……』
「こんなものは別にピンチでもなんでもない」
『負ケ惜 シミヲ……』
「そもそも俺たちを恐怖で縛ろうとしたのが間違いだ。恐怖っていう物はね、やろうと思えばいくらでも克服できるもんなんだよ。俺らは、こんな所で一人こそこそ研究ゴッコしている君じゃあ想像もつかないくらいの修羅場をくぐり抜けてきてるんだ。君程度が作り出した恐怖なんて、いくらでも乗り越えられるさ」
『……貴様……ドコマデ僕ヲ馬鹿ニスレバッ!』
怒りを露わにする『俺』の姿に、俺は内心肩を竦める。
仮にも僕の姿で目の前に現れたんだから、この程度の安い挑発に簡単に乗ったりしないで欲しいんだけど……ん?
「お?」
『なっ!』
唐突に僕ら二人がいる空間に亀裂が入る。その亀裂は、鈍器で殴りつけた車のフロントガラスのように無数に走り始めて徐々に広がりを見せている。
「ほらね?まぁ人生ってそんなもん。気を落とすなよ青年」
『バ、馬鹿ナ!コンナニアッサリ、コノ結界ガ破ラレルナンテコトガアッテイイハズガナイダロウ!?』
既に『俺』には俺の声は届いてないみたいだ。
ただオロオロと立ち竦む『俺』を尻目に亀裂は一気に広がって、叩きつけられたガラス瓶のように細かく弾けたのだった。
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