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闇より舞い落ちるひとひら  作者: レムウェル
18/40

レクイエムは誰が為に2


「いやぁぁぁぁぁ!!」


 あたしは頭を抑えてその場にしゃがみ込む。


 襲い掛かってきた『それ』は、あたしの頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱し、あたしの心の奥底に恐怖と混乱を撒き散らした。


「アキ?!どうしたアキ!!」


「アキさん!」


「アキさんどうしたの?!」


 みんなが口々に何かを言っているのは分かったが、あたしにはそれに応える余裕はない。


「あ…あっ……あぁぁぁ!!」


「アキ!……アキに何をした!」


「ぼ、僕は知らない!」


「アキさん!」


 これは……何?


「アキさんしっかり!」


 黒板を爪で引っかいた時に生まれる耳障りなあの音を何百倍にもしたような不快感が、頭の中を凄い早さで何度も行き来し、反響して更に激しくなりながら駆け巡っている。


『ア、アキさん……』


『どうしたの?!』


 それは音のようにも思えるけど、耳から入ってきたものではなく、頭の中を直接、形のない何かで掻き毟られてるような感覚だ。


「あ…あ……た…すけ……」


「アキ!」


恐怖と不安の旋律が連弾となって頭の中に鳴り響き、もう気が狂ってしまいそう!


「アキ! しっかりしろ!!」


 助けて……誰か……


「アキ!!」


 誰か!


「アキ!!」


 誰か……だれ……なぎ…凪!凪ぃ!!


「凪!助けて!!」


「アキ!!」


「っ!!」


 あたしは凪の声に引き戻され、ブラックアウトしていた視界が一気に開けて……目の前で……目を瞑って?あたしの唇に……自分の唇を押し当てている?凪を……凪?へ?……え?ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!


「何やってんのよこの性犯罪者がぁぁぁぁぁ!!」


「んな理不尽なぁぁぁぁぁ……」


 あたしの拳に見事頬を打ち抜かれ、エコーを残して吹き飛ぶ凪を見詰めながら、あたしはふと我に返って頭を巡らした。


「あれ?」


「いや『あれ?』って可愛く言われても……アキさん一体何があったんですか?突然頭抱えて叫び出すんですもん。ミオ、びっくりしちゃったよー」


 ぷうっと頬を膨らまして、冗談めかしてそう言うミオちゃんだったけど、その目を見れば彼女にかなりの心配を掛けてしまったことが理解できた。


 視線を巡らせば、朱美さんやキアちゃん、フェイちゃんにまで心配を掛けてしまったようだ。


「ご、ごめん……この部屋に入った途端、急に何かに頭の中をかき乱されて混乱しちゃって……」


 そこで、もう既に先程まであたしの頭の中をかき乱していた何かが形を潜めたことに気付く。完全に消え失せた訳ではなく、言葉通り頭の片隅に潜んでいるような感覚だ。


 一体何なんだろう……一瞬の内にあたしは恐怖と混乱の坩堝に放り込まれ、気付いたときには……凪の顔が目の前に……にぎゃぁぁぁ!何で何で!?あたしゃ霊体の筈なのに、なんで凪の唇の感触が残ってんのぉぉぉ!?


「……アキさん……」


「は、はひ?!」


「その顔見れば、頭の中でどこをリフレインしているのかよ~く分かるけど、今そんなことやってる場合じゃないっしょ」


「あ、あふ……」


 みんなの視線が痛い……


「あ、あのね……」


 そこでようやく、『その事』に想い至る。


「もしかして……みんなには『これ』は来てないの?」


 あたしの言葉に、お互い顔を見合わせて、その表情に『?』を浮かび上がらせている各面々。


 朱美さんやみおちゃんは疎か、妖精であるキアちゃんやフェイちゃんまでが怪訝な表情で顔を見合わせている。


「アキさん……『これ』って?私や凪の感知能力でもミオちゃんの目でも、アキさんがそうなる原因になるような気配は何も感じていないわ」


「キアとフェイはどう?」


 ミオちゃんの問い掛けに、2人は首を振って答えた。


「何て言ったらいいか……とにかく頭の中が直接何かで掻き毟られたみたいにグルグル回って、音が反響するみたいにぐちゃぐちゃにされて、目の前が真っ暗になって何がなんだか分からなくなっていったのよ……」


「『これ』って言うからには今もその状態は続いているんだろ?」


「う~んと……完全に治まったって訳じゃないけど、もう頭の中を掻き毟られるみたいな感覚は無いわ。ただ……」


「ただ?」


「何て言ったらいいか分かんないけど、またいつ同じ状況になってもおかしくないってことは分かる……って凪!あんたいきなり何すんのよ!」


 いつの間に復活したんだ?


「そこに戻る?俺はアキが心配で、正気に戻そうとショックを与えてみただけだけど?」


「事も無げに言うなぁぁぁ!乙女の唇奪っといて、何が『だけ』なのよ!」


「と言うか、霊体とキスできるって事の方が問題だと思うけど?」


「愛の力ですよね~、妬けちゃいます」


 場違いな2人の口調と合わせるように、キアちゃんとフェイちゃんもうんうんと何故か嬉しそうに頷いている。


「はぁ……とにかく、いつまた今と同じ事が起きても不思議じゃないってことだけは確かだわ」


 あたしは、ため息を吐きながらそう答えるのが精一杯……あ~顔が熱い……。


「おいアンタ……ホントに何も知らないんだろうな」


 凪はそう言いながら的場を振り返ったが、当の的場はその言葉が耳に入っておらず、何やらぶつぶつぶつぶつ呟いている。


「……な……はず……No9はれれれ霊体だぞ? 霊体がせ…せせ接吻を交わすだけ じゃなく、人間を殴りととと跳ばすなんて……そそそんなことあっていいはず……」


 またそれかい。


「……そこを悩むとドツボにハマるよ?」


「つーか、いい加減その辺のことは流して欲しいと思う今日この頃……」


 ホント、もうそれはどいでもいい事でしょ……。


 あたしたちがそれぞれ違った微妙な表情で見詰めていると、それに気付いた的場は「ひぃ!」と軽く悲鳴を上げて、眼鏡をずり上げながら後退り、慌てたように口を開いた。


「ぼぼぼ僕は何も知らない!ほほ本当だ!!」


 まぁ、凪や朱美さんが何も感知していない以上、その言葉は真実だろう。あたしだけに向けて、何かしらのトラップを仕掛けても意味ないし。


「ふ~ん……まぁいいや。それより目的の場所はどこ……って聞くまでもないみたいだね」


 凪は、自分の台詞を自分で遮って、部屋の奥へと視線を向ける。それに釣られて、あたし達も部屋の奥へと頭を巡らせ……唐突に『それ』が視界に飛び込んできた。


「「……っ!!」」


声にならない悲鳴を上げるあたしとミオちゃん。


 部屋の奥の薄暗い闇の中には、無造作に羅列された幾つもの物体があたしたちがたどり着くのを待ち構えていた。


床には、束ねられたコードが幾本も所狭しとうねうね走り、そのコードの海の中を、あたしには理解不能な計器の類が不規則に並べられられている。


 一番最初に目に留まったのは、それらの真ん中辺りに横たえられた、棺くらいの大きさの金属製の筒。その筒は、青白い光に包まれており、その光がこの場の雰囲気を更に不気味な物へと作りあげていた。


 そして更にその奥そびえ立っているのが……ガラス張りの2本の巨大な筒。そのガラス筒は、得体の知れない液体で満たされており、床を走っているコードの束が、そのガラス筒へと伸びている。


 そして……気泡が立ち上る2本の筒の1本に……あたしとミオちゃんに悲鳴を上げさせた『それ』が不気味に浮かんでいた……。


 そう、それは……『あたし』だったのだ。筒の中の『あたし』は、両手両足をそれぞれ革のベルトで繋がれ固定されていた。髪の毛が液体の中で扇状に浮かんで広がり、うつむき加減のその顔は、開いた瞼のその奥で完全に瞳孔が開いており、軽く開いた口元と合わせると、どう贔屓目に見ても状態の良い水死体にしか見えない。


 何だろうこの感覚は……もっと自分の肉体に出逢えた事の本能的な歓喜や、的場に対する潜在的な憎悪が噴き出してきてもおかしくない状況なのに……。


 これは……戸惑い?自分の中の感情が整理出来ない。ごちゃごちゃと沢山の思考が駆け巡り、一つの考えに集中することが出来ないのだ。


 あたしには、只々唖然とこの『あたし』を見つめることしか出来ないよ……凪……凪?


 あたしが向けたその視線の先では、凪が、コイツにしては珍しい、驚きの表情で食い入るように『あたし』を見詰めていた。


「凪?」


 他のみんなも、あたしの言葉で凪の様子に気付き、怪訝そうにそれぞれ視線を向ける。


「凪……どうしたの?」


「………」


「返事はない。ただの屍のようだ……じゃなくて!凪ってば!」


「………」


「おー……い?」


「これは……なんて黒い……」


「へ?」


「なんて……」


 首を振りながら後退る凪の様子に只ならぬ物を感じたあたしたちは、口を挟むことなく手に汗握って凪の次の言葉を待った。


「なんて黒い乳首なんだぁぁぁ!」


「アホかあんたはぁぁぁ!」


 突き刺さるあたしの右ストレートを凪はしかし物ともしない。


「しかもパイぶうぁぁぁんがぁぁぁ!」


「止めんかアホんだらぁぁぁ!」


 皆まで言わさず左アッパー!何てことを口走るんだこの男はぁぁぁ!!


「凪っち不潔ぅ……」


「TPOってもんを考えなさいよね……でも、そう言えば亜紀姉もそうだったわね。一緒にお風呂行った時に見たことあるわ」


「朱美さんもまじめな顔でそんなこと言わないで下さい!」


 みおちゃんのツッコミに、朱美さんは肩を竦めて苦笑いを浮かべている。


 その時だった……


「きゃ!」

「うひゃ!」

「おっと 」

「しまった……」


 足元の床に黒い染みが広がり始め、うねうねとうねり出した!


「ひひひひひひ!ばばば馬鹿な奴らめ!この部屋は僕の部屋だぞ!そそその気になれば呪文なしでこここの場に死霊を呼び出すなんてああああ朝飯前だ!今までささささ散々馬鹿にしやがって……この借りは、こここの場でキッチリ返してやるからな!」


 いつの間に移動したのか、的場は計器の傍らでこちらを指さし、口角に泡を吹き出しながらそう声を荒げている。


「こちらの隙を突き、自らの影の薄さを利用して攻撃を放ってくるとは……なんと高度で狡猾な罠」


「何が『高度で狡猾な罠』よ!全部アンタの所為でしょうが!」


「みんなも乗ったじゃん」


「あんたが下らないこと言おうとするからツッコミ入れざるを得なかったんでしょうがぁぁぁ!」


「ミオは乗ってないもーん」


「喋ってないでアキさんはピスキー達の傍に!ミオちゃんも!2人は絶対動いちゃだめ!」


 朱美さんの言葉に慌ててフェイちゃんの側に飛び寄るあたし。


「全員呪を掛けて縛り付けてやる!」


 そして次の瞬間、あたし達の視界は床から滲み出てきた『闇』に覆い尽くされてしまったのだった。



ブクマ&☆ポチよろしゅう

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