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闇より舞い落ちるひとひら  作者: レムウェル
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終局へのオーヴァチュア5


「ミオちゃん有難う。貴女のお陰で楽に除霊できたわ」


 微笑む朱美さんに、ミオちゃんは首を振りながら答えた。


「ううん……凪っちがアドバイスしてくれなかったら、ミオ、何もできなかったよ……」


「初めてにしては上出来さ。初めから何でも出来る奴なんかいないしね」


 その凪の言葉にフェイちゃんとキアちゃんの2人は、強く頷き、ミオちゃんの周りをはしゃぎながら飛び回っている。


「それに、事実ミオちゃんの能力のお陰で無駄な霊力の消費を抑えられたんだしね。あれを虱潰しに叩いてたら、霊力がいくらあっても足りないよ」


「そうそう。『視る』事に関しては、ミオちゃんは私や凪よりずっと上の次元に居るわ。その気になれば、全ての存在を見通せる『神眼』の能力を得ることも、きっと可能よ?」


「えへへっ」


「さて、だけどここからが本番だ」


 凪のその言葉で、一同は気を引き締め、部屋の中へと入り込む。部屋には棚が規則正しく並んでいて、その棚にはさっきミオちゃんが言ってた通り、薬品らしきものが詰められた瓶や気味の悪いカエルや小動物の瓶詰め、その他諸々が乱雑に収められている。この部屋唯一の机の上には、分厚い本や資料と思わしき紙切れなどが所狭しと積み重ねられていた。


「あ!フェイにキア!勝手にあちこち触っちゃ危ないよ!」


 キャッキャ、キャッキャとら飛び回る妖精達2人を追って、ミオちゃんが部屋の奥へと走って行ってしまった。残ったあたし達3人は、取り敢えず近場の棚や机からチェックを開始することにした。


「……的場は確かにここで魂の錬成の研究をしてたみたいだな」


 机の上の本や資料をパラパラと捲りながら、凪はそう結論付ける。


「それと、やっぱり的場は陰陽師の家系みたいだね。素人じゃ手に入るはずのない、文献が沢山ある」


「的場……そうか麻鳥羽一族の末裔か……あそこは分家が沢山あって、本家でも全ては把握し切れてないみたいだし」


 そう言いながら、棚に収められているノートに手を伸ばす朱美さん。


「本家に対抗するために、新たな能力を得ようとしてたのかな?『紫藤亜紀』さんはその実験に使われた可能性もあるね」


 そんなことを口走りながら、凪は部屋の奥へと足を踏み入れる。無神経な凪のその台詞に、あたしは慌てて朱美さんに視線を向けた。この問題は、朱美さんにとっては微妙な問題だと思ったからだ。


 でも朱美さんは凪の言葉は耳に入っていないようで、手に取ったノートに視線を走らせ続けている。


「……朱美さん?」


「……」


「朱美さん?」


「えっ?!な、何?!」


 あたしの呼び掛けに、慌てて手に持っていたノートを棚に戻して返事をする朱美さん。


「いや……どうかしましたか?何だか周りが見えなくなるくらい見入ってたみたいですが」


「え、ええ……同じ能力者として興味深い文献だったものだから……ごめんなさい」


 そう笑顔を向ける朱美さんから伝わってくるのは……不安?動揺?とにかく、口にした言葉と表情の裏で、何かを隠しているのは確かだ。


 尚も不信の表情を向けるあたしに、無理矢理話題を変えようするのが見え見えの態度で朱美さんは口を開く。


「そ、そんな事より早く捜索を始めましょう。時間は待ってはくれないわよ?」


 そう言うと、さっさと凪達が向かった部屋の奥へと足を向けた。


「朱美さん……」


 朱美さんの動揺が、徐々に大きくなって行っているのが分かる。


 どうしたんだろう朱美さん。さっきのノート……『紫藤亜紀』さんのことで何かショックなことでも書 いていたんだろうか?読んでみたいのは山々だけど、あたしじゃノートを取り出せないし。


 あたしは、もやもやとした気持ちを抱えながら、みんなの後を追う。


「っ!」


 そこでふと、微かに心の声が漏れ伝わってくるのを感じて立ち止まる。


(……知らなきゃ……た……)


 これは……朱美さん?


(まだ…………でも……)


 朱美や凪みたいな能力者の心を覗き見ることは難しい。それは勿論霊力にも関係があるけど、なによりも彼ら自身が心を制する術を心得ているからだ。


 そんな彼女の心の声が伝わってくる……それ程までに彼女の動揺は大きいのだ。


 その後も少しの間、心の声が漏れ聞こえていたが、どれも断片的なもので意味までは読み取れない。そしてようやく朱美さんの動揺も治まってきたのだろう、その声も小さくなっていったその時、最後の一言が耳に届いた。


(……例え……と刺し違えても……)


朱美さん……一体……。


「なんも見当たんないなぁ……んじゃ、的場の残留思念を探してみるか。 ミオちゃんも手伝って」


「了解!」


考えこんでいたあたしの思考を、能天気な二人の声が遮った。取りあえず、今のことは右に置いとこう。


「的場が消えて5年だっけ?思念が残っているかどうかは五分五分ってところだな……」


「でも、さっき死霊を追い払ったお陰で視界は至ってクリアーだよ?これならなんとか見つかるんじゃない?」


「視界が開けても、的場の思念が残ってなかったら意味ないでしょ?『想い』が強くなければ思念ってのは残ったりしないもんだ」


「大丈夫だよ凪っち!だって的場って陰険そうだし!」


「それもそうだね」


「陰険だと『思念』って残りやすいの?」


「「いや全然」」


 真顔で振り返り、口を揃えてあっさりと首を振る2人。


「だったら今の会話は何だったのさ!」


「ま、俺らの会話にゃあんまり深い意味がないから惑わされないように」


「フェイントです」


「味方をフェイントに掛けてどうする」


「まぁ、砂漠の中から砂金の一粒を探すような作業になりそうなんでね。冗談でも言ってないとやってられな……」


「あ!みっけ」


「早っ!しかも軽っ!!」


 あたしはジト目で凪を流し見るが、凪は明後日の方を向いて笑うばかり。


「いやぁ『視る』方は、もうミオちゃんにはかなわなそうだね。ミオちゃん、どこだい?」


「そこだよ!そこの壁際に、如何にもって感じの目つきの悪い男の人影が……でも今にも消えちゃいそう……」


 ミオちゃんが指した先にあるのは、黄色く変色した白い壁と、高さが凪の腰ぐらいまでの小さな物置台だ。そこには缶コーヒーの空き缶が置かれており、口の部分からはタバコの吸い殻が飛び出している。


「そこね……いや、みおちゃんよく見つけたね。僕でも言われなければ気付かなかったよ」


 目が悪い人が目を細めて何とか見ようとする時みたいに、凪は元々細い両目を更に狭めて凝視する。そして懐からチョークみたいな物を取り出すと、ミオちゃんが指差した場所に何やら描き始めた。


 先ずは綺麗な円を二重に描き、次いでその内側の円に収まるように五芒星をすらすらと描いた。そして二重になった円と円の隙間にあたしには意味不明な文字をびっしりと書き綴る。


「これでよし。……伊邪那岐よ……大地に 刻まれし(とき)の記憶を呼び覚ませ……」


 凪の言葉に呼応して、凪が描いた魔方陣が薄く光を放ち始め、その中に人影がうっすら姿を現し始める。人影は徐々にはっきり形を成し始め……


「……っ!!」


 浮かび上がって具現化したその人物の映像を見て、あたしは我知らず息を呑む。


 心の奥底に沸き起こるるのは明らかな恐怖の感情……。


 これが……これが的場宗政……。


 年の頃は確か20代後半のはずだ。しかし見た目には30代にも40代にも見えてくる。痩身痩躯で頬まで痩けた、見るからに不健康そうな容姿なんだけど、目だけは異様に鋭くギラギラと冷たい光が煌めいている。その人物が白衣を身に着け、壁に背を預けてタバコを吸っているのだ。


『だい……じょうぶ?』


 頭にキアちゃんの『声』が響き渡る。顔を向けるとキアちゃんが心配そうにこちらを見詰めていた。その様子に、心の強ばりが少し薄れていく。


「全然平気と言ったら嘘になるけど、みんながいるから大丈夫だよ。キアちゃん、心配してくれてありがとう」


 なんとか笑顔を作ってそう答えることが出来た。キアちゃんは、尚もあたしを心配そうに見詰めてくれていたけど、今度は何も言わずにそっとあたしの肩に手を乗せて、具現化している的場宗政の残留思念に視線を向ける。


 あたしも一緒に視線を戻すと、あたしの声が聞こえたのだろう、みんながあたしに心配そうな視線を向けている事に気が付いた。あたしがそれに笑顔を向けて応えると、みんなはそれぞれ視線を戻した。


「その様子だとこいつが『的場宗政』で間違いないみたいだね」


 凪はそう言って的場の思念体へと手を伸ばす。その手に握られた短剣をゆっくりと思念体に突き刺すと、思念体は針を刺された風船のようにバチンと弾け、急激に短剣の元へと集まっていく。


 そして次の瞬間、一羽の小鳥へと変化を果たして短剣の切っ先に佇んでいたのだった。


「それじゃやるよ?朱美……『扉』を開いて」


 凪がそう言って小鳥を放つと、朱美さんは無言で頷き、何もない空間に右手差出し、ドアノブを捻るかのようにクイっと動かした。すると彼女の目の前に不可視の扉が出現し、小鳥がその扉の前へと飛んで来てピタリと止まる。


 朱美さんはそれを確認してからゆっくりとその扉を開いた。開いた扉へと小鳥が飛び込んでいくと、凪はあたしに振り返った。


「……この扉の先はおそらく『的場宗政』に通じているよ?覚悟はいい?」


 あたしはその言葉に、一瞬びくりと身を震わせると、目を瞑って大きく息を吐き、深呼吸をして答える。


「……この先に、どんな未来が待ち受けていようとも、あたしはもう迷わない。行こう。全ては『向こう側』に行ってからの話だわ」


怖くないと言えば嘘になる。でも『どんな未来が待ち受けていようとも、あたしはもう迷わない』ってのは、今のあたしの掛け値なしの本心だ。


 これが正しいことなのかは分からない……寧ろ間違っている可能性が高いってことは百も承知だけど……それでもあたしは生きたいと思う。


 あの狭い一室で何も出来なかったあたしに、生きる希望を与えてくれた凪の想いに報いる為にも……ううん、違うな……あたしは……あたしが凪に好きだって胸を張って言いたいんだ。だからあたしはあたし自身の為に、生きたいと願う。


 迷わず進んで向こうに行って、的場宗政に会って……全てはそれからだ。


 あたしは心の中でそう誓い、朱美さんの通してくれた『扉』を潜り抜けたのだった。




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