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闇より舞い落ちるひとひら  作者: レムウェル
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終局へのオーヴァチュア4


「此処がそうなの?」


 ミオちゃんの言葉に、2人の妖精は激しく首を上下させて肯定の意を返している。


 ここに到るまでに、2~3回ほど魑魅魍魎達に襲われたんだけど、いずれも凪と朱美さんがその優美とも言えるコンビネーションであっさり撃退してくれたので無事辿り着く事が出来た。


 凪と朱美さんの……いや、朱美さんの凪に対する信頼は絶大で、凪が敵の攻撃を防いでいる間に術を完成させ、すぐさま攻撃へととって返して相手に抵抗する間も与えず除霊してしまうのだ。


 相手の攻撃に対して、微塵も防ごうとする素振りを見せずに自分の術に集中する様を見れば、朱美さんの凪への信頼の深さが良く分かる。こんなこと、凪の能力を理解して絶対的に信頼していなければ出来るはずがない。チクリとあたしの心を鋭くつつくのは、朱美さんへの嫉妬心なのだろうか……。


 その朱美さんは、扉を前に、顎に手を当て格好よく見聞しておられます。出来る女性はどんな時でも絵になるのぅ。


「結構強力な結界ね……これで外せるかしら?」


 そう呟きながら、朱美さんは一枚のお札を取り出して入り口のドアに貼り付けた。


「朱美、待った」


 朱美さんが胸の前で手を複雑に組んだところで(印を組むと言うらしい)凪がその朱美さんを呼び止める。怪訝な表情を見せる朱美さんの隣に並び立つと、凪は右手を掲げて握っている短剣を鳴らしながら言葉を紡いだ。


伊邪那岐命(いざなきのみこと)が欠片をこれに……」


 その言葉に反応し、鈴の音は形を成して扉の前に一枚の不可視の障壁を作り出した。


「何があるか分かんないし」


 凪の言葉に納得したのか、朱美さんは頷きを返して印を組み直す。それに伴いお札が薄く光を放ち始めると、それに反発するかのようにパチパチと音を放ちながら扉の形に稲光状の閃が浮かび上がった。これが結界だろう。


「来たれ石拆命(いはさくのみこと)…… 来たれ根拆命(ねさくのみこと)……依りて宿りて全てを切り裂く神が御剣をこれに……切り裂け! 十拳劔(とつかのつるぎ)よ!」


 朱美さんの放った言葉に呼応してお札が弾け、飛び弾けたお札は扉に向かって光の刃を生み出して、その扉を覆う結界のみを一気に切り裂いた。


「さて行きま……?っ!」


 朱美さんの台詞の途中からミシリミシリと扉が軋み始め、内側から押し出されるようにグニャリと歪んで、次の瞬間木っ端微塵に弾け飛んだ。


「きゃっ!またまたまたまたキモいのキター!」


「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!」


「って、お前は松田勇作かいっ!」


「……ミオちゃん、あなた何でそんなネタ知ってるの?」


「太陽に吠えろは刑事ドラマの真髄です!」

「ミオちゃん、刑事ドラママニアだもんね」


「ああ……勇作様……」


 恍惚とした表情で明後日を向くミオちゃん。


 何でこんなに余裕なのかというと、凪の障壁があるからだ。扉から飛び出してきたのは、さっき外で凪が浄化したのと同様の死霊達なんだけど、凪の障壁に遮られ、例えるならサランラップに顔を押しつけられてるお笑い芸人のように死霊達の顔は引きつっているので、はっきり言って笑える。


 フェイちゃんとキアちゃんの2人は、障壁に張り付く死霊達をからかうかのように、あかんべぇやお尻ペンペンをして見せている。


「さて、冗談は置いといて、これをどうするか……」


「さっきみたいに浄化したら?」


「ここに的場に繋がる手掛かりがあるならそれは得策じゃないね。俺の能力じゃ、手掛かりごと浄化しかねない」


「面倒だけど、地道に除霊していく?」


「いや、多分この死霊達は隔世の風穴から涌き出してるんだと思う。穴を塞がなきゃまた溢れ出るよ。そうなりゃいたちごっこだ」


「先に風穴を塞がなくちゃならないか……私じゃ、これだけ乱れている場だと気配を探るのは難しいんだけど……」


「俺でも無理だね。障壁があるから妖精達にも無理だろう。 ここはミオちゃん……」


「へ?」


「出番だ!」


「えっっ!ミオが!?」


「ミオちゃんの『目』は『視る』事に関しては俺より上だよ?ミオちゃんなら出来るはずだって」


「……分かった。やってみる」


 ミオちゃんは、しばしの沈黙の後、意を決してそう答えを返した。


「まずは心を落ち着けて」


「う、うん……」


 凪のアドバイスに彼女は頷きを返すと、目を瞑って大きく息を吐き、再びゆっくりと目を開く。


「俺たちには、隔世と現世が二重写しに視えるよね? 普段は現世に合わせているピントを、ゆっくり隔世へと合わせていく……」


「……」


 瞳が碧く光を放ち出し、元々綺麗だった彼女の瞳が更に神秘的な雰囲気を醸し出す。


「数が居すぎて密度が濃い塊にしか見えなかった死霊達が、一体一体ハッキリと『視える』ようになったろ?そしたら部屋の中を観察……何が見える?」


「……学校の教室くらいの広さの部屋に沢山の棚があって、薬品みたいのとかカエルの瓶詰めみたいのとかがいっぱい並んでる……机の上には開いたままの分厚い本とか資料とかが乱雑に重なり合っててだいぶ汚い」


「よし、そこまでは俺と一緒だ。ここから先はミオちゃんにしか踏み入ることが出来ない視界に入るよ?」


「えっ?!う、うん……」


 ミオちゃんは、自信なさげにそう言葉を返した。頑張れみおちゃん!


「何でもいい……何か違和感みたいなものは感じない?」


「……だ、ダメ!凪っち、分かんないよぉ!」


 助けを求めるように振り返る彼女に、凪はにっこり笑顔を向けて優しく励ましの言葉を掛ける。


「ミオちゃん、慌てないで。大丈夫……君になら絶対に『視える』よ」


「う、うん……」


 パニックに陥り掛けたミオちゃんだったけど、その言葉と笑顔に落ち着きを取り戻し、再度息を吐いて死霊達へと瞳を向ける……この女ったらし凪が……。


「『視よう』とする意識が強すぎると、かえって視えては来ないもんだよ? 一度ピントをぼかして部屋全体を何となーく眺める感じにしてみな?」


「……」


「今度は、そうだなぁ……ミオちゃんは アイトレーニングってやったことある?一見すると、只のカラフルな模様のイラストが、見方によっては文字とか絵とかが浮き上がってくるやつ」


「うん」


「あれの平行法と同じで、右目と左目をクロスさせずに両目で漠然と部屋を見詰めてみよう」


「……」


 凪のアドバイスでミオちゃんの瞳孔が開き、碧い光は更に強さを増していく。


「何でもいい。風の流れ、死霊達の動き、虫やネズミなんかの姿や、棚にある瓶や本……何か違和感は感じない?」


「……あっ!」


「……何か、感じたかい?慌てなくていいから、落ち着いてその『違和感』を言ってごらん?」


「……死霊達の動きが変。みんな一定方向に流れていってる感じ……」


「じゃあ、その流れのもとを追ってみよう。但し急がず慌てず」


「うん……分かった……」


 息を呑むような緊迫感の中、凪だけはいつもの様に泰然と構えていて、それがミオちゃんに落ち着きを与えているのが分かる。


「……これ……かな?」


「何か見つけたね? じゃあ今度はその見つけた何かを強く『視よう』と願うんだ」


「視る……視る……視る……あっ!黒い穴が見えてきた!そっから死霊達がにじみ出てきてる!」


「でかしたみおちゃん!それはどこ? 指を差して!」


「この先の棚の上!」


「朱美!」


「分かってる!」


 凪の呼び掛けに、直ぐさま懐から幾重にも連なり合った紙人形を取り出す朱美さん。まるで紙人形で出来た鎖みたいだ。朱美さんがそれを準備してる間に、 凪は持っていた短剣をミオちゃんが指差す先に投げ放つ。


 短剣は、死霊達を退けながら寸分違わず『黒い風穴』に突き刺さった。


「穴を固定した!後は頼む!」


伊邪那岐命(いざなきのみこと)が力が宿りし大岩をもって魔門を剋す!式紙よ!隔世へと通ずる風穴に、神なる威力を突きつけよ!」


 朱美さんが印を組みながらそう唱えると、紙人形の鎖は螺旋を描きながら風穴を取り囲む。


「来たれ!道反之大神(ちがへしのおおかみ)!」


 そして紙人形の鎖は風穴へと入り込み、風穴を徐々に埋め尽くして行く。次第に風穴は小さくなっていき、最後は紙人形に埋め尽くされ完全にその姿を消した。


 風穴に突き刺さっていた凪の短剣が、床に落ちて鈴がチリンと音を立てると、その部屋を埋め尽くしていた死霊達たちも空気に溶けるようにその姿を消し、部屋には静寂が訪れたのだった。



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