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闇より舞い落ちるひとひら  作者: レムウェル
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終局へのオーヴァチュア3


 建物に入り込んだあたし達は、妖精さんの案内の元、建物の中を歩き回っていた。


 朱美さんは、あれから一言も喋ることもなく、黙々と妖精さんの後を着いて行っているし、凪もコイツには珍しい事に、やや気まずそうに口を噤んでしまっている。


 あたしとミオちゃんは、怪訝な顔でお互い顔を見合わせつつも、朱美さんの無言の圧力に負けて事情を聞くのを躊躇って、同じく無言で後を着いて行ってるって状況だ。


 一行を先導しているのは、最初に案内を買って出た妖精さんで、名前は『フェイ』ちゃん。5人いた妖精さんの中ではこの子が一番表情が豊かで、人懐っこい感じがした。何でも、あの中ではリーダー的な役割を果たしているそうだ。


 そして、あたしに対してモジモジしていたあのもう1人の妖精さんの名前は『キア』ちゃん。極度の恥ずかしがり屋らしく、ミオちゃんでも名前以外の事は聞き出せなかったみたい。彼は相も変わらずあたしの方へとチラチラチラチラ視線を向けては、視線がかち合うと、モジモジとみおちゃんの陰へと身を隠してしまうのだった。他の妖精さん達がバイバイした中、何でこの子が着いてきてくれているのかは、はっきり言って謎だ。


「……マズいわね……」


 朱美さんのその一言で、あたしはハッと我に返った。


「マズい?何がですか?」


「……凪の攻撃で建物の中の気配がかなり乱れているの。これだと、気配が探れないわ。何かに襲われた時、後手に回ってしまう……ミオちゃん、妖精達でも気配を探るのは難しいのかしら?」


 その言葉に、みおちゃんはフェイちゃんに視線を向けて「どお?」と尋ねてみた。


 フェイちゃんは、あどけない顔を可愛く傾げながら、両手で『分からない』のジェスチャーを入れて答えを返してくれた。


「……ダメみたい……この子の目には、ここの空気が波打ってる様に見えるんだって」


「そう……」


 朱美さんは一瞬、考え込んだかと思うと、次の瞬間ぱっと顔を上げ、懐から紙人形を取り出して、四方へと投げ放った。


「式神を配置しておくけど過大な期待はしないで。各自、周りを警戒しながら歩いて、どんな些細な違和感でも感じたら直ぐに知らせて」


 朱美さんのその言葉に、あたし達はそれぞれ頷きを返して表情を引き締める。あ……フェイちゃんとキアちゃんも力強く頷いてる!可愛すぎる……可愛すぎる可愛すぎる可愛すぎるよぉ~!


「はぁ……ほに?」


 キアちゃんに見とれていたあたしだったが、視界の端で何やら違和感を感じて立ち止まる。違和感のもとを探して頭を巡らすと、壁に掛けられていた綺麗なその絵画が目に止まる。


「綺麗……」


 その絵は、一面ひまわりが咲き誇るお花畑に、温かなお日様の光が降り注ぐ美しい風景画だった。ただ、そのひまわり畑の中央には、何故か重厚な木の扉が描かれていて、只の風景画の範疇には収まらない、これを描いた画家にしか分からないある種のこだわりが見え隠れしている。でもそれ以外はなんの変哲もない絵画だ。さっきの違和感は気のせいだろうか?


「……アキ、どうした?」


「あ、ごめん、何でもない。この絵が綺麗だったから……あれ?何か絵の中の扉が動いたような……」


「アキ?……アキ!その絵から離れろ!」


「へ?……え?……えぇぇぇぇぇ!」


 またキモいのキター!絵の中の扉が開いて何か出てきたぁぁぁ!!


「ちょ……な、何よこれぇぇぇ!」


「幽鬼だ!避けろ!」


 んな無茶な……凪の台詞に心の中でそうツッコミを入れたその瞬間、あたしは何かに引っ張り倒されて(正確にはには空中で斜めになってる状態だけど)、その矢のように飛びかかってきた黒い塊を何とかやり過ごす。


「えっ?えっ?何?!何であたし避けられたの?」


「アキ?!」


「アキさん?!」


 答えを求めて視線を向けると、凪と朱美さんが何かを探し求める様に、辺りに視線を巡らせている。


「アキ!何処いった!?」


「何処って此処ですが?」


 訳も分からず右手を挙げてアピールするが、凪は気付いた様子もなくあたしを探して視線を巡らしている。ふと見ると、凪が幽鬼と呼んでいたそれも、あたしを見失ったようで、ドクロ型のその頭をキョロキョロと巡らせていた。


「凪っち!キアちゃんだって!キアちゃんがやったの!」


「あ、なる程」


 そう言いながら凪は直ぐさま短剣の鈴をチリンと鳴らして、あたしの姿を見失って混乱している幽鬼をその場に束縛する。あたしが左に顔を向けると、あたしの左手を掴んでいるキアちゃんが、厳しい顔で幽鬼の方を睨んでいた。


 凪の鈴で束縛された幽鬼の顔が恐怖で歪んだその瞬間、さっき朱美さんが四方に放った紙人形がさっとその周りを取り囲む。


「来たれ建御雷之男(たけみかづちのおのこ)(ミコト)……(そら)をも引き裂く神の御雷を今ここに!」


 朱美さんが唱えたその言葉に呼応して、紙人形が激しい雷を幽鬼に放つ。雷は互いに反響しあって更に激しい雷撃となり、幽鬼の身体を貫いていく。


『ギャオォォォォォ……』


 鳴り響いていた幽鬼の絶叫が風に消えたのとほぼ同時に、激しかった雷光は霞のようにさっと消え失せ、その場に再び静寂が訪れる。


「……一体……何だったの?」


「あれは幽鬼だよ。肉体を持たない怨念の集まりが、ある程度年を経ると、自我が目覚めて自分の意志で行動し始める……そして他の死霊や精霊を喰らいながら妖魔化する。それが幽鬼……鬼の一種さ」


「幽鬼……」


「そう幽鬼。こいつらは肉体を持たない代わりに物体に取り憑く事が出来る。よく、絵画や壷に取り憑いて、近付く人間の精気を食ったりするんだ。危なかったよ。霊体のアキじゃ、奴に触れられただけで吸収されてもおかしくないし」


「あたし……何で助かったの?」


 凪の説明に身震いしながら、その幽鬼があたしを見失って慌てたようにキョロキョロしていたのを思い出す。 そう言えば凪や朱美さんもあたしを見失ったみたいだったし、更には……


「ミオちゃんが『キアちゃんがやった』みたいな事を言ってたような……」


 隣でキョトンとしているキアちゃんに、視線を向けながら思い出そうと試みる。キアちゃんはあたしの視線を受けて、照れたように笑みを浮かべながら、あたしの左手から手を離した。


「それは、妖精の特殊能力の一つですよ。自分と、自分が触れている者を、全ての存在から隠し通すっていう不思議な能力なんです。だから、幽鬼だけじゃなく、凪っちや朱美さんもアキさんを見失っちゃったんです。キアちゃん、アキさんのこと守ってくれたんですよー」


 ミオちゃんの言葉に、キアちゃんは真っ赤になりながらフェイちゃんのもとへと飛び寄って、彼の背後に隠れてしまった。


「そっかキアちゃんが……キアちゃん、どうもありがとう」


 あたしのその言葉に、案の定、キアちゃんは益々顔を真っ赤にして、フェイちゃんの背中の羽根に顔を押し付けてしまった。


 ホント恥ずかしがり屋さんなんだから……そう思っていると、頭の中に何かが響き渡り、やがてそれが幼い子供の声となってあたしの意識の上へと登ってきた。


『……どう……いたしまして……』


 あたしはそれにハッとなり、キアちゃんを更に凝視してしまう。


「どうした?」


「今……」


 あたしが唖然と見詰めていると、キアちゃんが顔を上げてはにかんだ笑顔をあたしに向けてきた。


「やっぱり!やった~!キアちゃんが話し掛けてくれた~」


 小躍りしながら喜ぶあたしに呆れたような視線を寄越す凪。


「お主、この素晴らしさを分かっておらんなぁ……妖精よ?妖精の声を聞いたのよ?メルヘンよ?ファンタジーよ?女の子の夢の世界さー」


「いや、自分自身がファンタジーの世界の住人だし……」


 そんな凪の言葉など無視して、キアちゃんの声を聞けた喜びを噛み締める。大体幽霊はファンタジーじゃなくてホラーじゃん……厳密には幽霊ですらないけど。


 あたしは、キアちゃんが掴んでくれていた左手に視線を落とす。


「そっかぁ……キアちゃんが助けてくれたのかぁ……ん?あれ?」


 そこで一つの疑問が頭をよぎる。


「あれ?今、キアちゃんあたしに触ってたわよね?」


「あ、妖精はどっちかって言うと幽体に近いんで、アキさんにも触れるんですよ」


「そっか……」


 ミオちゃんの言葉に納得して、もう一度左手に視線を落とす。


 さっきは慌てていたから気が付かなかったけど……キアちゃんの手……温かかったなぁ。ただ手が触れていただけなのに、あたしにはそれがとても素晴らしい事のように思える。


 そっか……これが『生きてる』って事なんだ……今のあたしには、キアちゃんみたいな特別な存在が相手じゃないと、この感覚は味わえない。『触れる』って事は普通の人には当たり前の行為なのかもしれないけど、今のあたしにはこの上もない幸福に思えるよ……。


 凪……あたしはやっぱり『生きたい』よ……。



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